異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1111【士気高揚】

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「ヴァンヤールに恨みがあるのにカゲストは許すんだな?」

「あの者は協力者だ。私欲にかられての行動だというのは目に見えて分かるが、それでも利用できるならば利用する」
 それが今の状況を回天させる事となるのだから。
 ――事が済めば排除はするがな。
 と、強い瞳と語気にてネクレス氏から返ってくれば、周囲の者達からも同様の強い眼力がこちらに向けられる。
 ネクレス氏に注視してたからワンテンポ遅れてしまったが、しっかりと他のダークエルフさん達もいるね。
 枝葉を揺らさず、音も立てない集団での樹上移動には称賛を送りたい気持ちだ。

「致し方ない」

「ちょっとルーシャンナルさん!?」
 俺が感嘆している横で問答無用とばかりにルーシャンナルさんが抜剣。
 コクリコの瞳のような琥珀色からなる細身の剣身は、間違いなく鉱物で作られた剣。
 得物の切っ先を樹上へと向けるので、俺がそれを下へと向けるようにお願いするが――、

「勇者殿、彼らは戦う気です」

「あのですね。俺たちは交渉したいんですよ……」

「残念ながら向こうはそうは思っていないですよ。武装を見れば分かるでしょう」
 こっちも武装はしているからね。その中で交渉をしたいんですよ……。

「ここで躊躇したら我らがやられます」
 と、継ぐ。
 うん。まあそうなってもやられることはないけどね。
 ベルもいればリンもいるし。
 万が一にもこちらに敗北はないから、話し合いに対しても俺は余裕を持って応対してたんだけどさ……。

 先手でこちらが剣先を向けてしまえば……、

「行くぞ――勇者!」
 と、ただでさえ干戈を交えたい向こう側を煽る行為になるのは必至なわけで……。
 
 ああもうっ! なんでこうなるんだよ!

「イグニース!」
 しっかりと全体を守るように半球状の炎の壁で防御。

「――ふぃぃぃ!」
 ネクレス氏の発言に合わせて上方から魔法が降り注いでくる。
 障壁に当たれば威力は十分とばかりの衝撃が伝わってきた。

「やはり呪解は全員されているようで」

「当然だ」
 返答してくるネクレス氏の姿は、両足の甲で枝へとぶら下がったものに変わる。
 まるでコウモリを思わせる。
 その姿から、片足だけで体勢を維持しつつ、残った足で枝を強く蹴り、頭から俺たちがいる地上へと向かって突っ込んでくる。

「おもしろい」
 と、落下地点にコクリコが立ち迎撃しようとするけども、

「下がれ」
 と、ベルにローブの襟元を掴まれて強制的に後退させられる。
 引っ張られる時の「ぐぇ!?」ってのは以前も耳にしたが、やはり美少女からは聞きたくない声だ。

「でぃや!」

「なんと!?」
 コクリコが先ほどまで前に立っていた箇所にネクレス氏が裂帛の気迫にて手にしていたモノを全力で振れば、俺のイグニースに切れ込みが入る。
 あのまま立っていたらコクリコに届いていた一振りだった。

「なんだ――その武器?」
 今まで手にしていた逆テーパーの棍棒とは違って、随分と禍々しいのを手にしているネクレス氏。
 見た目も厳ついが切れ味のいいようだ。

「ありゃマカナだの」

「マカナ?」
 バトルアックスを手にするギムロン曰く、ネクレス氏の得物の名はマカナ。
 形状はクリケットバットのような木材で、バットの側面に沿うように鋭利な石がいくつも埋め込まれている。
 厳つくもあり、出来の悪いノコギリのようにも見える。

「あの黒い石は黒石英だの」

「そうか」
 てことはシャルナが持っている魔法付与されたショートソードと同様のものと考えていいな。

「それにしてもイグニースを斬ってくるとはね」
 かなりの強者だというのが窺える。
 全体防御の半球障壁だから正面だけを守るモノと比べれば障壁は薄くはなっているが、それでも斬られるなんてな。
 勝者側であるハイエルフ達に監視されつつも日々鍛錬をこなしていたのが分かる。
 対して勝者側は大半がそういった鍛錬をサボっていたようだけども。

「武器と魔法さえ手に入れば貴様等など敵ではない」
 力を得たことで自信に漲る笑みを湛え、切り開いたところからその笑みを向けてくる姿にジャック・トランスを見たよ。
 言うだけあって樹上にいる連中もしっかりと武器を手にしているしね。
 槍に刀剣――メイスなどなど。
 ネクレス氏のマカナと違い粗製品の利器のようだけども、いままでの棍棒からすれば大いに向上した装備だ。
 
 胸部を守る為のブレストプレートも金属と革のハイブリッドタイプ。
 戦えるだけの装備はしっかりと整っている。

「ネクレスに続け!」
 次々と樹上からダークエルフさん達が降りてくる。

「トール、動きが取りにくいです」
 コクリコの発言でイグニースを解除。
 即ミスリルフライパンを右手に持って、降りてくる勢いのままに振り下ろしてくるメイスの一撃を防いでいなす。
 メイスの持ち主は素早く体勢を整えてコクリコに二撃目を仕掛ける。
 そこにベルの長い足による蹴撃が側頭部に決まりダウン。

「士気の高さは地力の向上にも繋がる。油断はするな」
 コクリコはベルの言葉に頷いて返す。
 で、その士気の高さに一役買っているのが装備と魔法だ。
 
 いままでが棍棒だったからな。利器や防具を手に入れば、それだけで自分が強くなったと刷り込まれる。
 この面々の場合、刷り込まれるだけでなく皆が皆しっかりと鍛錬をしていて、装備に振り回されず卓抜に扱えている。
 
 元々の地力に装備と魔法が加わり、且つここで今までの立場を逆転させようという意気込みにもあるダークエルフさん達の士気は、すこぶる高くなっている。
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