異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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トール師になる

PHASE-1112【軽量だね】

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「美姫は出来るだけ――いや絶対に相手をするな。中核である勇者を狙え!」

「ご無体な……」
 戦闘力を基準にした場合、中核は間違いなくベルなんだけどな。
 勇者って立場ってのは真っ先に狙われるものなんだろうね。
 俺ならゲームだと後衛、支援タイプを最初に狙うけどね。
 こっちのメンツで後衛となるとリンとコクリコだからな。
 前者はベルの次に相手にしたくないだろうし、後者は――、

「フハハハ――ッ! 来るがいい!」
 と、ノリノリで前線にてダークエルフさんと戦っているからな。俺を狙うのが正しいのかもね……。
 コクリコのヤツめ! ギムロンと一緒にサルタナのカバーを頼んだのにしゅんで忘れやがって!
 まあ、こっちにとって一番の弱点になり得るサルタナを狙おうとしないネクレス氏と、他のダークエルフさん達は立派だし好感が持てるよ。
 ついでに俺を狙うのも止めてほしいけども――、

「アッパーテンペスト!」

「ほう!」
 そうはいかんよね。
 
「おのれ!」
 立っていた場所から即座にラピッドにて跳躍移動すれば、術者であったダークエルフさんからの悔しそうな声が耳朶に届いた。
 こっちとしては何度も耳にして目にしている魔法だからね。対応も素早く出来るってもんだ。

「射かけよ。唱えよ」
 当然ながら弓矢も装備しているか。
 跳躍したところに樹上にて待ち構えていた面々がネクレス氏に従い、俺に向かって矢と魔法を放つ。
 三百六十度より迫る攻撃に対し、イグニースで球体を成形して防ぐ。
 やはり魔法の威力は大したもので、障壁越しに衝撃が伝わってくる。

「そら!」
 幹を蹴って俺へと接近するネクレス氏がマカナでの斬り上げ。

「あまい!」
 球体から前面のみに障壁を形成。
 しっかりとマカナでの一撃を防げば、舌打ちとともに俺から離れるネクレス氏は枝を蹴って再び仕掛けてくる。
 ここでもしっかりと防ぐ。

「さっきとは別物の強度だな」
 でしょ。
 全体を守るんじゃなくて俺個人だけとなれば、障壁の厚みにも違いが出てくるというものだ。
 
 イグニースを解除して今度はこちらから仕掛ける。
 残火を振ってネクレス氏を牽制しつつ、後退する対象から離れないように追撃へと移行する。
 ここで間合いを開けてしまえば、周囲の面々から矢や魔法で攻められるからね。

「中々に賢い戦いをする」

「どうも」

「勇者と呼ばれるだけはある」

「ここで態度を改めて、話し合いに変更することを勧めますよ」

「断る!」
 後退していたがここで幹を蹴って俺へと一気に距離をつめ、マカナによる袈裟斬り。
 一閃はとても速くて鋭い。
 残火でマカナを斬るつもりで受け止めるも、俺が予想していたような事にはならない。
 魔力が付与された黒石英からなる磨製石器は、しっかりと残火の刃を受け止める。
 こっちは固定している木の部分を狙ったんだけども、素早い斬撃の中で石と石とのわずかな隙間を狙うのは難しかった。

 それに――、

「ウインドランス」
 魔法も併用してくるから鍔迫り合いの姿勢も取れずに距離を取らされる。出来れば鍔迫り合い時に木の部分を狙いたかったんだけどね。
 隙のない攻め方だよ。
 加えてちょっとでも距離が開けば、

「ちぃ!」
 鋭い鏃からなる無数の矢が俺の方へと飛んでくる。
 ――エルフって種族は大したもんだというのは理解しているけど――本当、大したもんだ。
 距離を開けるといっても、刀剣の間合いから二、三歩開けた指呼の間程度。
 だというのに接近戦をしかける味方がいても躊躇なく俺を狙う。
 それだけフレンドリーファイアをしない自信があるんだろう。
 現にネクレス氏は周囲の射手達を信用しているようで、気にせず攻めに転じているからな。
 矢よりも攻撃範囲が広くなる魔法による掩護は流石にこの間合いでは使用できないようだけど。
 だとしても眼前から接敵してくるネクレス氏と周囲の掩護による攻撃は素晴らしい。
 射かけられる心配をしなくていい安全圏は、やはり互いの得物の間合い内だけだな。

「いい連携で」

「自慢の仲間だ。監視に気取られぬように常に無手の中でもイメージして鍛えてきた。そして協力者の現れでそのイメージによる鍛錬も無駄にならず、勇者といい勝負をしている」
 確かにね。

「ですがね。この程度の包囲攻撃で威張られても――ねっ!」
 
「な!?」
 素晴らしくはあるけど、現状、脅威とまではいかない。
 アクセルで一気にネクレス氏の後方に回り、姿勢を整えてから残火を振るう。
 後ろ袈裟だろうが躊躇はしない。

「喰らってやるものかよ!」
 腰を捻りつつ反転し、必死になってマカナで防ぐが急遽の反転から体勢が整わない姿で受けてしまえば、力で押し込むだけで崩しきることが出来る。
 膝が曲がり姿勢がぐらついたところに、間髪入れずネクレス氏の胸部に蹴りを入れると勢いよく吹き飛んでくれる。
 
 巨木の幹に背中が叩き付けられれば、ネクレス氏の表情が苦痛に歪んでいた。
 いやはやビックリするぐらいに軽い体だな。
 もっと肉をつけないとね。
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