異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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トール師になる

PHASE-1120【急な再会】

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「別の方法を考えましょうか」

「そうだ――な!」
 瞬時にしてゲッコーさんが何者かを拘束。
 下生えのある中であっても、音を一切立てない拘束術。
 この技量には全員で感心する。
 リンファさんに至ってはあまりの早業に感嘆の声を漏らしそうになっていたが、シャルナが直ぐさま口を塞いでいた。

「感心する。よくこの面子に気付かれずに接近できたものだ。だが残念。俺は――――別だ」
 俺達はゲッコーさんを感心し、ゲッコーさんは接近者に感心。語末の間が若干、気になったが。
 小声で称賛を送りながらも左手で口を塞ぎ、残る右手でナイフを持ち、首に触れるか触れないかの位置で固定。
 妙な動きをすれば躊躇なく首を切り裂くといった殺気も放っている。
 達人ともなれば殺気の距離もコントロール出来るのか、拘束した人物にだけ向けるように放っており、高床式付近の立哨やミストウルフは感知することが出来ないでいた。
 周囲の俺たちがかろうじて感じる程度だ。
 そのかろうじての殺気だけでも、皆して唾を呑む。
 恐怖耐性を有するアンデッドのエルダースケルトン二体も気圧されているのが分かる。
 
 殺気を当てられた状態で拘束された相手は当然、抵抗することはない。

「首を動かすだけで応答してもらおう」
 酷薄な声による指示に、拘束者はゆっくりと首を縦に振る。

「ん?」
 と、ゲッコーさん。
 首を傾げつつ俺を見てくるも、拘束を解くことはない。
 これは――、俺に委ねるって事かな?
 うつ伏せで拘束される人物を見れば、

「あれ? ルマリアさん?」
 拘束された状態でなんとか視線だけでも俺に合わせようと努力しているのが分かる。
 ゲッコーさんは未だ拘束を解かず、それに加えて助力とばかりにルーシャンナルさんも抜剣し、切っ先をルマリアさんへと向ける。

「それはゲッコーさんがやっているんでいいです」

「あ、分かりました」
 まったく! ゲッコーさんが向けているナイフでも触れない程度なのに、何を刺す勢いで向けているかね。
 ちょっとイラッとしたのでルーシャンナルさんを押しのけてから片膝をつく。

「大きな声は出さないと誓ってください。もし出そうとすれば、出す前にゲッコーさんが貴女を眠らせます」
 命を奪うという選択はしたくないので気絶で眠ってもらうという意味合いなんだけども、永眠と判断してくれてもいい。
 どちらにしろそれで大人しくなってくれるならね。
 小さな頷きで返してくれば、ゲッコーさんがゆっくりと口から手を離していく。

「どうも――ルマリアさん」

「こんばんはトール様」
 なんともシュールだな。
 拘束されつつの丁寧な挨拶って。

「暴れませんか?」

「無論です。我が命に誓います」
 命とか……重いです……。
 ここでゲッコーさんがルマリアさんの拘束を解く。
 ゆっくりと立ち上がり再度の挨拶は深々とした一礼によるもの。

「それで音もなく俺達の側に来た理由は?」

「出来るだけ気取られたくなかったので静かに近づきました、変に警戒をさせて申し訳ありません」
 再びの深い一礼。
 この一礼で理解できるのは、気取られたくないというのは俺達に対してではなく――、

「立哨やミストウルフに気付かれたくないようですね」

「はい。トール様たちへの協力を申し出に参りました」

「――協力ですか?」

「まずは場所を変えませんか?」
 即座に俺はゲッコーさんを見る。
 ここで一番頼りになる人物である。判断を仰ぎたい。
 いくらスパルタスタイルとはいえ、状況が状況なのでここで俺に丸投げって事はしないゲッコーさんは小さく首肯する。

「ではその場所まで案内をお願いします」

「畏まりました」
 誘導のために先頭に立つルマリアさんだったが、

「お待ちを。本当に信じるのですか?」
 と、リンファさん。
 これにルーシャンナルさんも間髪入れずに続く。
 用心のためにも、もっとルマリアさんに対して警戒をすべきであると意見し、俺たちが移動しようとする進行方向に立って歩みを止めようとしてくる。
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