異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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トール師になる

PHASE-1126【名乗り】

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「分かった。弟子が無茶をしないようにお目付役を任せるよ。でもハウルーシ君も無茶をしないように」

「はい」
 ミストウルフの群れに追われる最中であっても、懸命に友達を守っていたハウルーシ君なら、サルタナをしっかりと見てくれると信じられる。
 
 加えて、

「二人を頼みます」

「「了承した」」
 エルダー二体は髑髏による首肯で応じてくれる。

「じゃあハウルーシには僕の大切な木剣を貸してあげるよ」

「ありがとう」
 ギムロンから借りたミスリル剣を腰帯に差し、代わりに腰に佩いていた自分の得物をハウルーシ君に持たせる。
 でもってギムロンに言われたように、実戦では得物は選ばないといけないから、あくまでも護身用。決して無理はしないようにとハウルーシ君に伝えるサルタナ。
 忠告を素直に受けつつハウルーシ君は木の皮で出来た鞘から木剣を抜いて――上段の一振り。

「「おっ!」」
 俺とゲッコーさんの声がシンクロ。
 ハウルーシ君の剣の振りは素晴らしかった。
 綺麗な姿勢からの一振りは――、

「しっかりと鍛錬している」
 というのが分かるもの。

「はい。ルリエール様を守る剣士を目指していますから」

「それは素晴らしい。サルタナも負けられないな」

「ハウルーシがルリエール様を守る剣士なら、僕は弟弟子を守る剣士になります」

「よく言ったぞ!」
 師としてうれしくなる発言だ。
 エルフなのに二人揃って射手って選択はないんだな。って、野暮なことは言うまい。

「さてトール」

「分かってますよ。責任重大です」
 ゲッコーさんが言わんとしている事は分かる。
 いくら隠れさせるといっても、渦中の側に留まらせることに変わりはない。

「絶対に無理はしては駄目だ」

「「はい!」」
 元気な返事を信じよう。

 ――――。

『始めようか』

「了解です」
 耳朶に直接届くゲッコーさんの声。
 次の行動のために別の場所にて待機し、いつでも始められる状態。
 残った俺たちは、屋敷の近くの下生えと木々に紛れて待機。
 サルタナとハウルーシ君には、自分たちよりも背の高い下生えにしゃがませて身を潜ませる。
 二人を守るエルダーも片膝をついて待機の姿勢。
 上位アンデッドともなれば、闇に溶け込むように身を潜めてくれる。
 流線型のフルプレートにカイトシールド。抜かれたロングソード。纏う漆黒のペリース。
 子供二人よりも目立つ装備なのだが、発見されるって不安感を抱かせないのは流石である。

「行ってくるけど絶対に出てくるなよ。あと、周辺警戒は怠らないように」
 念押しで二人に伝えれば肯定の返事。それを聞いてから俺は勢いよく飛び出し、下生えから整地された屋敷前まで一気に駆ける。
 俺の姿を立哨四名が捕捉する。
 目のあった四人を前にしつつ、胸を膨らませるイメージで長い吸気を一つ行い、四人の立哨が誰何や警戒の声を上げるよりも速く――、

「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは佐賀は唐津の住人、遠坂 亨なり! 玄界灘に揉まれ育った我が武勇しかと刮目せよ! さあさあ腕に覚えの者よ手合わせを願う。いざ尋常に勝負、勝負、勝負ぅぅぅぅぅ!!」

『平家物語かよ……』

「お陰で大騒ぎになったでしょ」

『まあな』
 即座に俺の前にダークエルフさん達だけでなく、エルフの兵士たちも展開してくる。
 あのエルフ兵はポルパロングの私兵の残りってところか。

「おうおう、これまた団体さんですな。だが弱者に興味はねえ。強いヤツ――出てこいや!」

「残念だな勇者。ここにいる者達は皆が強者だ。出てこいと言われれば皆を相手にする事になる」
 私兵がいるって事は当然、いるわけだよな。

「おうイエスマン。然り然りしか言えない男が今では立派な逆賊になったようで。ポルパロングの残存兵を受け継いでいい気になってんのか? いい事を教えてやる。そいつらすこぶる弱いぞ」

「ええい黙れ! 同志を侮辱することは許さん!」

「同志とかよく言えんな。ポルパロングを都合良く利用してただけだろ」

「戯れ言を。そんな言葉で我等が結束に楔でも打ったつもりか!」

「戯れ言で済ませてたまるかよ! こっちは命を奪う選択をさせられたんだからな!」

「同志ポルパロングを殺害した梟雄め!」

「梟雄って発言はそっくりそのまま返すぞ」

「各々方、同志の敵討ちでもある! 勇者とは名ばかりの梟雄を仕留めよ! コレは聖戦である!」

「聖戦って言うヤツって結局はろくな事しねえよな。自分が正義だと思い込んで、正義のためなら何でもするって考えに至るからな。正にお前がソレ」

「殺せっ! 一人でのこのこと来たことを後悔させてやれ! 何がサガだ! 貴様の物語などここで終わらせてくれる!」

「本当に後悔だよ……。仲間に頑張ってもらってやっとここまで来ることが出来たけど、まさかの孤軍奮闘になるんだからな……。後、その物語サガじゃねえ! 言葉の前後で理解しろ。読解力ねえのか? そもそも佐賀県民の前では分かりやすいように物語サーガって言え。それが佐賀県民に対する最低限のマナーだ!」

「奮闘などさせるものかよ。圧倒的な数によって殺してやる! 訳の分からんことを言う馬鹿なお前を仕留めた後、近くで暴れている仲間も直ぐに仕留めてくれる。たかが人間風情が勇者ともてはやされて勘違いしよって。真の賢者であるエルフの前では、そのような敬称など無意味なのだよ!」

「ああ、そうですかい」
 上手い具合に乗ってくれて助かりますよ。真の賢者様。
 完全に俺が一人って勘違いするあたり、長生きしすぎて頭に蜘蛛の巣が張っているようだな。
 何とも御しやすいヤツだよ。
 
 こんな御しやすいのがよくポルパロングを利用できたもんだ。
 然り然りと乗っかるだけだけど、心底では常に悪い笑みを湛えていた策士タイプって事なのかな?
 まあ今のやり取りで残念策士ってのは理解できたけどな。
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