異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1128【目的はヘイト集めだから】

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「おいイエスマンよ」

「カゲスト・クリミネアン様と言え! 敬語を使え下郎」
 梟雄だったり下郎だったりと、ひどい言われようだよ。
 俺も大概バカにした言い様だからその辺はツッコまないけどね。

「偉大なるイエスマン様。貴男様はメタモルエナジーなるお薬をお使用にはならないのでありますか?」

「学のない喋り方は顔からも分かるが答えてやる。私が使うわけがないだろう。あんな意味不明な薬品など」
 おっとこっちの予想とは違った返答だな。
 ポルパロングが言うようにメタモルエナジーはコイツが渡したはずだ。
 コイツはこの国の医薬品を統括する存在だろ。
 コイツが中心となって作ったって事じゃないのかよ。

「学がないのは俺自身も分かっているからさ、ガクよりガグのことを教えてくれよ。モード・ガグになれるメタモルエナジーってなんだよ?」

「――なんだガグとは? 名前か?」
 あら、ここでも予想とは違う返答。
 メタモルエナジーは知っているのに中身は知らない。 
 自分の野心を赤裸々に語るようなヤツだ。薬品名は知っていてその効能は知らないと誤魔化すなんてしないだろう。
 本当にコイツは知らないと考えるべきだな。
 
 念のために――、

「メタモルエナジーはお前のとこのお手製じゃないようだな?」

「なぜ私があんな謎めいた物を作らねばならん」

「本当にお前じゃねえんだな!」

「当たり前だ!」
 何が当たり前だ! だよ!
 十中八九コイツじゃないな。
 自分が有利だと思っている状況だと、こういった手合いは口に良質な油を塗って滑りが良くなってベラベラと聞いてもいない事も喋るからな。
 コイツは薬品名は知っていてもその効果は知らない。
 ここでも未だ姿を見せない存在がその部分にも介入していると考えるべきか。
 混迷とさせてくれるね。

「お前にメタモルエナジーを渡したのは誰だ!」

「同志の事を語るわけがないだろう」

「知らないだけだろ。あの御方ってのをさ」
 ポルパロングが発していたあの御方というワードを使用する。

「なんだあの御方とは? 私が組む同志は対等であり仰ぎ見る者はいない。協力者の事を容易く話すほど私は愚者ではないのでな」
 ポルパロングのような変な間もなければ、会話の内容に違和感もない。
 こいつはフル・ギルの支配下ではなく、いい様に利用されていると見るべきか。
 とにもかくにも、混迷の中心となっているまだ見ぬ存在がいる事はほぼ確定した。

「しっかりと出所を吐いてもらうぞ」

「やれるものならやってみるがいい。お前ごときが私にまで辿り着くことは出来ん」
 勝ち気な笑みを俺の拳で絶望に変えてやるからな。
 倒した後にしっかりとリンに自白させてやる。
 フル・ギルの支配下じゃないなら、リンの魔法で全てを吐かせることも可能だろうからな。
 ここでゲッコーさんに尋問を任せようと思わないのが俺の優しさだと思ってほしいところだ。

 だとしても――、

「お前はボコすけど!」
 一気にアクセルで接近を試みれば、セオリーとばかりにプロテクションで俺の進行を遮る。

「私に近づけさせることなく梟雄を倒せ!」
 自分まで辿り着くことは出来ないとの強気発言から、アクセルによる接近にはしっかりと焦っているところが小者然としているよね。

「っと!」
 余裕と緊張は同居させよう。
 緊張で体が動かなくなるのはよくないが、余裕が隙に繋がるのもよくない。
 その考え方なら今の俺の回避はお見事と自画自賛。

「ここでリベンジタイムですねお兄さん」

「なぜ貴様にお兄さんと呼ばれないといけない!」
 ようやくここでネクレス氏の登場。
 方向からして屋敷からの参戦。
 
 強者の登場にダークエルフさん達の表情が強いモノに変わる。
 マカナを振り回して俺とイエスマンの距離を広げれば、そのネクレス氏の攻撃する姿に興起した皆さんは足を俺へと進めてくる。
 将器は十分。先生や荀攸さんが喜びそうなタイプである。

 その後方ではよく守ったと褒めるイエスマンだが、ネクレス氏の笹の葉のような耳は一切興味を示していないようで、俺に対して全力集中といったところ。

「こんな事をしていると、ルマリアさんが悲しみますよ」

「黙れ! これが上手くいけば笑ってもくれる」

「上手くいかないですよ」

「お前たちがこの国を訪れなければ、確実に上手くいったのだ」

「確実にって言ってる時点で、自分でもこの行動が現段階で失敗しているって分かってますやん」

「黙れと言っている! ウインドスラッシュ!」
 真空の刃による攻撃。

「マスリリース」
 残火を鞘から走らせて三日月状の光斬を飛ばして迎撃。
 ――抜かされちまったな。

「続け」
 かき消されても表情を変えることなく冷静に周囲に発せば、全方位から魔法と矢が飛んでくる。
 今回は地面にもイグニースを展開してしっかりと大地魔法にも対応させてもらう。

「はあ!」

「気合い入ってますね」
 マカナによる斬撃を炎のドームに斬りつけてくるが今回は切り裂くことは出来ない。
 同じ半球でも今回は俺一人だけを防御するものだから厚みが違う。
 攻撃自体に問題はないけども、対面する相手は鬼の形相となって連撃。
 覚悟の強さを感じ取り、些か竦んでしまう。

「さっさと出てこい臆病者! それでも勇者か!」

「嫌です」
 こちとら戦いはするけども時間はしっかりと稼ぎたいからな。
 今の俺はヘイト集めのタゲ取り要員だ。

 ネクレス氏は屋敷方向から来たからな。強者が屋敷からいなくなるのはゲッコーさんにとって良いことだ。
 攻撃を防ぎつつ屋敷を瞥見すれば、数人のダークエルフさんも武器を持って出てきているのが分かる。
 実にいい仕事をしているぞ――俺!
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