異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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トール師になる

PHASE-1129【ほんと良い声】

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 とはいえ、ずっと閉じこもって勘ぐられるのもよくないからな。
 ネクレス氏と周囲の面々の動きに間が生まれるタイミングを見計らって、解除してからの――、

「おりゃ!」
 抜き身となった残火で逆袈裟。

「おっと。ようやく出てきたか引き籠もり」
 悪そうに笑むネクレス氏はバックステップで躱し、それに合わせて周囲が連動。
 遠距離からの掩護攻撃でネクレス氏の体勢が整うのをカバーしてくる。

「ふざけんな! 俺はそこまで引き籠もりじゃねえ! 引き籠もってゲームばっかしてたら母ちゃんに蹴られるんですよ!」

「いい母親だな」

「でしょ!」
 掩護攻撃を掻い潜りながらネクレス氏に驀地。しっかりと返答しながら上段から振り下ろす。

「ふんっ!」
 マカナでしっかりと残火を受け止めるのはお見事。
 接近すれば誤射を防ぐために掩護はなくなる。
 接近主体に周囲も移行するために弓から剣や槍へと持ち替えつつ、支援魔法だけはしっかりと唱えてくる。
 
「なんども見せられれば――ね!」
 左籠手からイグニースを展開して地面を強く殴る。
 地面から顕現される大地系の魔法を炎の盾で無理矢理に迎撃してやった。

「大したバカ力だな」

「身体向上系のピリア様々ですよ。それに貴方方と違ってちゃんとした食事をとってますからね」

「我々も十分な生活が送れるようになるためにも、この勝負は負けられん」
 
「だからこその話し合いで解決――」

「くどい!」
 俺の言葉を切り裂くマカナの横一閃。
 それを残火でいなし、体勢を崩させてからの蹴撃。

「ぬぅ……」
 脇腹に当たればネクレス氏からは苦しみの声が上がる。
 強者ではあるけども、脅威レベルは低い相手だ。
 マジョリカの方が遙かに上。
 
「せぃや!」
 裂帛の気迫で痛みを振り払い、マカナによる斬撃を繰り出してくるが剣筋は見切れている。
 接近主体と持ち込めば、零距離による魔法発動は避けるようで、手にしたマカナに頼りっきりの動き。

「加勢するぞ!」
 数人のダークエルフさん達も接近戦を仕掛けてくる。
 ネクレス氏に距離を取らせるための掩護のようだけど、

「申し上げにくいのですが、遅いです」
 ネクレス氏以上に遅い動きの相手となれば、手早く倒すことも可能だった。
 残火による峰打ちと拳で即、黙らせる。
 ネクレス氏は俺と距離を取れなかった事を舌打ちで表現。

「ネクレスを掩護しろ」
 更に接近してくるダークエルフさん達。
 追加とばかりに、屋敷からも数人が飛び出してきた。
 俺を目がけて集まってくれるのはありがたい。
 ――ネクレス氏は肩で息をし始めてきたことだし、時間からして頃合いだろう。

「ネクレス氏、一気に行きますよ」

「来るがいい!」
 周囲を蹴散らしつつ、両手持ちにて残火を上段から振り下ろす。
 しっかりと俺の動きに目を向け、マカナを横に寝かせて受けの姿勢。
 肩で息をするくらいだからな。今は迎撃よりも受けに全力を注いで次の動きに繋げたかったんだろうけども――、

「次はないです」
 両手持ちから左手を柄からどかす。
 次にはドスッといった鈍い音。
 残火の刃が奏でるにはあまりにも不格好な音。
 音の正体は刃同士のぶつかり合いが原因ではなく、上段とは別に左手を使用し、逆手で握った鞘を胴に打ち込んだことによるもの。
 ネクレス氏のブレストプレートでは守り切ることは出来ず、力任せに一気に鞘を振り抜けば、軽量な体は勢いよく吹き飛んでくれる。
 
 最低限の装備は整っていても、やはりこの短期間だと体作りは出来ないよな。
 軽々と吹き飛ぶネクレス氏。蹴撃の時と違い声を上げることはなかった。
 痛覚を感じるよりも先に意識が遮断されたんだろうな。

「内蔵が破裂してたら一大事なんでしっかりと回復してくださいね」
 近くにいた私兵に伝えれば、素直に回復に動こうとする。
 だがカゲストが激高を宿らせての捨て置けという発言に、その行動はキャンセルされた。
 
 歯を軋らせてこちらを睨んでいたが、はたと何かに気付いて目を見開けば、

「今は梟雄だけに集中せよ! 回復は後だ!」

「お! 失言を取り繕うための発言だね。一応、回復するという意思はありますよアピールだな。そうしないとダークエルフさん達がお宅に対して不快感を抱くもんな。こっちは一人なんだ。数の利を活かして一人を回復に当てて、即ネクレス氏を参戦させるってのが上策だろに。真の賢者様は賢者とは名ばかりのお馬鹿さんだね。もしかして多種多様な最強魔法が使える=賢者だと勘違いしている系? 違うぞ。賢者だから魔法が使えるんじゃなくて、あらゆる分野に精通しているから賢者なんだぞ。その精通した分野の中に魔法がたまたま含まれているだけだ」

「喋々と! 貴様はこの私を何処まで馬鹿にするつもりだ!」

「だからボコボコにするまでって言ったでしょ。さっき言ったことを忘れないでください。お馬鹿さん――失礼、真の賢者様」

「ああぁぁぁぁぁあ!」
 プッツンしたね。
 手にする弓矢を怒りに任せて俺へと向けてくる。
 ――でも矢が当たることはない。
 ベンッと不細工な弦音。放たれた矢は躱すまでもなく横を通過する。
 怒りのあまり先ほどまでの洗練さが欠如している。
 射手として一流だとも思ったが訂正。ド三品だったな。
 この程度で精神が揺らぐようじゃ射手にはなれないもの。

 なので嘲笑をプレゼントすれば地団駄を踏み、怒髪天を衝くとばかりに憎しみに満ちた目で俺を見てくる。
 その間に周囲が攻撃を仕掛けてこないのが助かるよ。
 上役がこっちと話すもんだから、それを邪魔してはいけないと思うんだろうね。
 十分にネクレス氏を回復させてもいいだけの時間がありましたよ。そこの私兵さん。
 ネクレス氏には申し訳ないが、こっちとしては有り難い。
 なんたって時間を長引かせれば長引かせるほどいいから――

『またせたな』
 ――ね。
 
「なんて素敵な声なんでしょう」

『そうだろう』
 得意げな返し。
 それだけで首尾良く事が運んだというのが分かるというものだ。
 いやいや、そもそもが心配なんてしてないけども。

 なんたって――、

「ゲッコー・シャッテンだぞ!」
 と、高らかに名を口にする。

「何を言っている。それはお前の仲間の名――!?」

「気付いたところで時すでに遅し」

「そういう事だ」
 エリスを背負って堂々と屋敷の正面扉からの登場。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁあ!
 頭を掻きむしっての悔しさ丸出しは非常にいいリアクションだぞイエスマン。
 きっとお前の心底では、抱いた野心が音を立てて崩れ始めているだろうね。

「何をしているかっ! 捕らえよ!」

「させないよ」
 ゲッコーさんを囲もうとする面子の前に立ち塞がる。

「殺せっ! 邪魔する者は全て殺せぃ!」

「凄いね、殺気が迸ってるよ。それに比例するように焦燥感もな」
 接近と魔法による併用を仕掛けてくるダークエルフさんと私兵。
 ゲッコーさんへと近づこうとする者達には残火と鞘を振っていく。

「最近、二刀流の勉強中でもあってね」
 と返しつつ、迫ってくる者達を地面へと叩き付けていく。
 ネクレス氏と比べれば全くもって脅威なし。
 俺一人でも十分に対応できるくらいだけども、

「念には念ですよ」
 ゲッコーさんに対して心配なんて微塵もしていないけど、エリスはそうはいかないからな。
 首からさげた曲玉を手にして地面を擦る。

「出番の緞帳は上がっとりまっせ!」

「キュゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 ラグビーボールスタイルの愛らしい巨体が、青白い輝きを放ちながら地面より元気よく飛び出してくる。
 着地すればそれだけで大地を震わせるし、敵対者たちの心身を戦慄によって震わせるのも容易いというもの。
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