異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,131 / 1,861
トール師になる

PHASE-1131【宜しくない】

しおりを挟む
「終わらせよう。捕らえて色々と聞かせてもらうからな」

「ええい! 誰ぞあの梟雄を止めよ! 止めた者には新たなる国において好きな役職と、未来永劫、風化する事のない名誉を与えてやる」
 止めよ――ね。殺せ。とか、倒せ。って言葉から止めよに変更か。
 完全に逃げの準備だな。
 まあ、周囲で護衛をしていた私兵たちは、カゲスト以上の速さで逃げ出しているけどね。

「おい! 逃げずに早く止めよ! 地位と名誉は思いのままだぞ!」

「黙りなさい!」
 ゲッコーさんに抱えられたエリスからの怒号。

「新たなる国は僕と皆で築いていきます。権利欲。佞言によって地位を授受するような国には絶対にさせません!」

「脆弱な小僧は黙っていろ!」
 殿下じゃなく小僧呼ばわりか。相当に追い詰められているな。
 反乱を起こすにしても、徹頭徹尾、殿下と呼んで敬うような姿を見せれば、反乱を起こす者であっても、それをするだけの自分なりの大儀や理由があったりするってのが窺えたりもするんだけどね。
 追い詰められれば今まで拝していた相手に暴言。
 程度が知れたね。
 まあ、傀儡とか言ってた時からカゲストの駄目さは分かっていたけど。再認識させられたよ。

「さて、残念な謀反人をさっさと捕らえようかな」
 ポルパロングの私兵たちは殆どが逃散。残っているのも自分の進退を考えるのに精一杯といったところ。
 ダークエルフさん達はゴロ丸に手一杯。
 俺とカゲストの間を阻む者なし。
 有言実行のためにボコボコにしてこの戦いを終わらせよう。

「アク――!?」
 一足で移動しようとした時だった……。
 俺の視界が強い光によって阻害される。

「ファイアフライ!?」
 何度か目にしている魔法。灯りのない洞窟などを移動する時に使用したり、対象への目眩ましにも使用できる便利な魔法。
 だが誰が使用した?
 目の前のカゲストは焦っているだけでそういった動作は無かった。
 ダークエルフさん達もゴロ丸を前にしてそんな余裕はない。
 いったい誰が――と考えると同時に、カゲストが俺へと攻撃を仕掛けてくると考慮して身構えていると、背後でピュイィィィィィィ――ッと甲高い音が響く。

「鏑矢?」
 なんの合図だと思っていれば、

「ハハハッ! やはり私が頂に立つのは運命づけられているようだ。捲土重来を果たしてくれる!」
 背後の甲高い音に続いて、俺の眼前にいたはずのカゲストの声が背後から聞こえてくる。

 反転すれば――、

「クソッ! アクセルか」
 俺が使用できるんだからな。相手も出来て当たり前の精神が欠如していた。
 だが、反省は後だ。
 切り替えて目の前の問題に集中しないといけない。
 なんたって俺の目の前では、物陰に隠れていたはずのサルタナがカゲストによって拘束されているという光景。
 あの鏑矢の合図は誰だ? 間違いなく鏑矢は隠れていた二人の位置を知らせるものだ。
 しかもご丁寧なことに。

「すまない勇者……」
 申し訳なさから弱々しい声が下生えの方向から聞こえてくる。
 エルダースケルトンの二体はミストウルフとの戦闘に突入していた。
 明らかに急襲を仕掛けられたといったところ。
 ご丁寧に俺だけでなく、エルダー二体もファイアフライによって視界を阻害されてしまったようだ。
 
 そしてあのミストウルフだ。
 先ほどまで屋敷の周囲に霧状で待機していた連中だろう。
 このわずかな間で屋敷の霧はなくなっている。
 分かってはいたがカゲスト以外にもやはり脅威はいた。
 しかもこの状況を窺えるだけの位置で俺たちの戦いを見ていたわけだ。
 影でコソコソと動いているのはいま正に俺たちの近くにいる。
 屋敷の中で高みの見物か?
 ゲッコーさんが潜入して目指したのはルリエールの寝室だからな。そこまでのルート以外にある部屋で俺たちの戦いを見ていると考えるべきか。

「ぐぅ!」
 熟考したいところだけど目の前の状況がそれを許さない。

「動くなよ。動けばこのハーフエルフの首をへし折る。お前もだ! お前は絶対に動くなっ!」
 俺とゲッコーさんを牽制してくる。後者には特に強い口調で。
 本気であるという意思表示のためにサルタナを持ち上げ首を締め上げる。
 カゲストの呼吸は荒く目は血走った興奮状態。
 捲土重来なら今回は負けを認めたって意味で受け止めてもいいのか? と、挑発じみた事も言いたかったが、軽はずみな発言は許されない現状なので口は真一文字。
 
 俺達が少しでも軽口や妙な動きを見せれば、発言どおりサルタナの首をへし折るつもりだ。
 細い首を締め付けられる中、苦しむサルタナは見つかってしまったことに責任を感じているようで、申し訳ないといった目を俺に向けてくる。
 俺の弟子は揃いも揃って良い子たちだよ。

「まったくふざけている。拘束しようとする私に斬りかかろうとするとはな。たかがハーフエルフの小僧の分際で! しかもミスリルの剣だと! 生意気なんだよ。テレリが許可なく武器など! しかもミスリルなど! 持つだけで万死に値する」
 言えば更にサルタナの首を強く締めるカゲスト。

「それ以上、弟子を苦しめたらただじゃすまさない」

「うるさい! さっさと武器を捨ててミスリルゴーレムを消し去れ! 貴様もその筒を向けるな!」
 エリスを担ぎつつ、CZ75SP-01をカゲストへと向けるも、俺以上にゲッコーさんを警戒しているカゲストは、サルタナを盾にして自分の上半身を隠す。
 流石のゲッコーさんでも難しいようだ。
 狙おうと思えば狙えるだけの実力はあるだろうが、子供を盾にされると躊躇の方が勝る。
 
「プロテクション」
 と、ここで俺とゲッコーさんを更に警戒して障壁魔法を展開。
 しっかりと遮ってくる。
 同時にサルタナの首を絞めつつジリジリと後方へと下がる動き。

「逃げんな!」

「お断りだ」
 俺達が手も足も出ないと判断したことから心に余裕が出てきたのか、荒かった呼吸と語気は平静さを取り戻していた。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...