異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1140【群狼】

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「エリスの世話係なんですよ!」
 エリスの護衛につくことが重要でしょうと、若干、声を荒げてしまう俺。
 この場に留まったことにまったく気付けなかった俺も悪いし、ルーシャンナルさんも悪いけどさ……。

「確かにその通りですが、エリスヴェン殿下を救い出してくださった大恩ある御方のために行動する事こそ大事かと思った次第です」
 そう言ってもらえるのは嬉しいけども……、正直なところ足手ま――、

「クラッグショット。そして――ストーンブラスト」
 ――……足手まといなんて思った俺を許してください……。
 人間サイズの岩石が一つ大地から現れれば、対象となった狼たちの方へと勢いよく放たれる。
 直撃はしなかったが、その場にいた狼たちは慌てるように散開。
 中には霧へと姿を変えているのもいた。
 それを狙ったかのような後者の魔法は散弾を思わせるもの。
 石の飛礫がリンファさんの足元からこれまた勢いよく飛び出し、散開する狼たちを狙い撃つ。

「キャイ!」
 こちらにうなり声を上げていた時と打って変わり、苦痛を感じる短い鳴き声が次々と上がっていく。
 飛礫とか一見すると物理攻撃に思えるけども、リンが使用したマッドバインド同様に、魔法による攻撃だというのが分かる。
 霧状になって回避した狼たちがダメージをしっかりと受けていた。

「……すげぃ」
 感嘆を漏らせば、

「リンファ様は殿下の魔法の師でもありますから。剣術の師が勇者殿ならば、マナの師はリンファ様と言ったところでしょう」
 側仕えって秘書的な事をするとばかり思っていたけど、魔法指導もあるんだな。

「リンファさんは大地系が得意なようですね」

「……その……ようですね」
 自信の無い返答。どうやらルーシャンナルさんは、リンファさんの実力まではしっかりと目にしたことはないようだな。
 
 エルフだと風魔法をイメージするけど、多様な魔法を使用できる事が実力あるエルフだというのは、シャルナや今回戦闘を行った連中を見ていれば分かるというもの。
 エリスがカゲストに使用したウインドナイフは風系の攻撃魔法だったけど、師であるリンファさんは大地系。
 エリスがネクレス氏の治癒に使用した初歩の回復魔法であるファーストエイドは、水系と大地系の複合魔法ではあるから、そこはリンファさんの指導によるものかもね。
 ダークエルフさん達も大地系を得意としていたみたいだから、エルフ族は風だけでなく大地の魔法にも精通しているようだ。

「さあ、去りなさい!」
 俺やルーシャンナルさんが大きくアクションを起こす前に、リンファさんの二つの魔法と威光によって、狼たちは戦いている。

「これなら俺たちもエリス達と一緒に撤収できましたね……」
 ここは俺に任せて先に行け! とかいう格好いいシチュエーションは全くもっていらなかったな……。

「そう簡単ではないかと」
 圧倒していてもリンファさんの表情に余裕はない。
 常に周囲に目を配り警戒をする姿は戦う者のそれ。
 普段は城で王族のサポートをする方だから戦闘能力は高くないと思っていたけど、いやはや――流石はシャルナのお姉さんであり、ルミナングスさんの娘さんといったところか。
 
 ――リンファさんの読み通りとばかりに、発言に続くように周囲のミストウルフが遠吠えをすれば、離れた場所から遠吠えが返ってくる。
 その遠吠えは徐々にこちらへと近づいて来ていた。

「とりあえずよかった」
 緊迫した中でも俺は胸をなで下ろす。

「殿下たちの方へ声が近づかないことがですね」

「その通りです」

「私もそう思います」
 優しく笑みを湛えるリンファさん。
 その笑みだけで頑張れるというものである。
 シャルナも少しはお姉さんを見習って、ドストレートにばかり物を言うような性格を改めて、淑やかさも得て欲しいね。

「倒すにしても行動不能で済ませないと、後でベル様にお叱りを受けますよね」

「うん。まあ」
 ここはシャルナとは違うね。
 多分だけど実戦経験の差かな。
 シャルナは命を奪う事も仕方なしという考えだったけど、リンファさんはベルの動物に対する愛護精神を優先するようだ。
 急場であっても愛護の選択をするという甘さは実戦の少なさを物語っている。
 実力はあっても、経験の少なさが弱点になりえるね。
 
 だとしても、リンファさんの全体魔法は頼りになるのも事実。
 ストーンブラストとという散弾タイプの魔法を多用してもらって、その間に俺とルーシャンナルさんで仕留めていくのが、この即席パーティーでの主軸となる戦法になりそうだな。
 如何に数が多かろうとも、一頭一頭の力はそこまでじゃない。
 この面子なら問題ないってもんだ――。
 
 ――…………。
 
 ――……。
 
 問題ないと思ったが――、それは嘘だ。

「いや多すぎ!」

「よもやこれだけのミストウルフが使役されているとは……」
 ルーシャンナルさんの声は驚きよりも呆気にとられているといったところ。
 さっきまで強気だったリンファさんもあまりの数に気圧されているようだ。
 今の心中を表現するかのように、先ほどまで強く張っていた長い耳が心なしか下がっているように見える。
 まあ……、この数は弱気になっちゃうよね……。
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