異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,139 / 1,861
トール師になる

PHASE-1139【殿、担当しましょう】

しおりを挟む
 ルリエール、侍女さん等と合流した後、エリスはこのままルリエール達も城へと連れて行くと述べる。

「それって大丈夫なの?」
 問えば、

「大丈夫です!」
 力強く返してくる。
 自分の許嫁。いずれは妃となって城に住まうことになるのだから、無理であっても押し通すようだ。
 エリスの発言にルリエールは両手を頬に当ててクネクネ動いて喜びを表現し、侍女さん達はそれを優しく見守るという光景。
 で、俺は嫉妬が溜まっていく状況。
 
 皆で城に戻り、現王と氏族の面々にはしっかりと説明し、ダークエルフの面々が集落を離れての入城も問題ないよう取り図るとのことだった。
 
 今夜のダークエルフさん達の蜂起はなかった事にし、逢い引きのために集落を訪れようと準備をしていた中、謀反を企てていたカゲストに自室で眠らされて人質にされた。
 で、俺たちに救われて脱出。
 集落には未だ敵勢力が存在することから、ウーマンヤール族長とその護衛を伴って脱出するという筋書き。
 ダークエルフさん達の蜂起の部分を削除し、カゲストに自室で攫われたことと、集落に敵勢力が残っているって部分は嘘じゃないな。
 本当の内容を入れると、嘘話にも真実味ってのが出るからな。 
 今回の事は全てが死んだポルパロングとカゲストによる企てということにするそうで、ダークエルフさん達はこちらの協力者であり非はないという事にするようだ。
 エリスって存外クレバーだよな。
 この場合、賢い――ではなくずる賢いって意味だけど。
 王となるためには必要な才能でもあるか。
 そのくらいじゃないと、清濁併せ呑む事を必要とする国主にはなれないからな。
 
 エリスがそこまで考えているなら誰も反対はしないようだ。

 側仕えであるリンファさんが異を唱えないからルーシャンナルさんも黙っているし。
 何より、エリスとルリエールを引き離すって事をすれば野暮ってもんだな。
 離れないとばかりに体をくっつけてるし……。
 そんな二人を侍女さん達は温かい目で見ている。
 ここで年相応のお付き合いをしなさい! なんて言ったなら、温かい目が一気に冷めたものになって俺に向けられるんだろうね。
 それは御免こうむる。
 それにしても羨ましい……。
 俺の弟子は俺より早く大人の仲間入りをするのかな~。
 人間とエルフだと成長速度が違うから、俺が後れを取るって事はないよね!

「どうしたのトール? 難しいというか、必死な顔をして。そんな顔をしてもトールには似合わないよ。もっとだらけた顔になりなよ」

「まるで俺が普段から知能の低いお馬鹿さんみたいな顔をしている言い方ですね。シャルナさん」

「実際そうじゃない」

「ぐぬぅ……」
 ドストレートに言われると言い返すのって難しいものだな……。
 なんで俺のパーティーの女性陣は俺に対して酷いことを言うのやら……。
 勇者に対して美人がドストレートに発言するのは――、好きです勇者様! 抱いて! でしょ。
 なんで美人、美少女が揃っていながら俺に対してそんな感情を持ったのが一人もいないのか……。
 
 ――……考えが脱線してしまったので軌道修正。
 未だに問題もある。
 フル・ギルの使用者が見つかっていないのは大問題だ。
 コイツが鏑を投げたり、発動術式でカゲストをランドイーターで呑み込ませると同時にマッドマンを使役したんだろうからな。
 
 氏族二人が死んでしまったことで計画も破綻したからとんずらこいた可能性もある。
 倒すのが面倒なマッドマンを大量に呼び出したのも、その間に逃げ果せるための時間稼ぎ要員だったのかもしれないし。
 
 だが、もしも万が一に――だ。まだ残っているとするなら、次の一手を打つために考えを巡らせている事だろうね。
 
 じゃあ、いつ打つの?

「勇者殿!」
 ルーシャンナルさんの声は強張っていた。

「今でしょ!」
 こちらは戦力が割かれている状況。しかも強者が割かれている。
 そんな中でエリス達を守りながらの戦い。相手からすれば狙うならここしかないよね。
 相手は計画を破綻させられていると考えていい。
 なりふり構わずに強行手段を打ってくるなら、強者が不在の今こそが好機と考えるのは当然。
 シャルナ曰く、知能が低い顔立ちである俺でもそうする。

「で――」

「グルルッ」

「ミストウルフか」
 屋敷の周囲からいつの間にか消えていたミストウルフ。
 カゲストでもなく、ダークエルフさん達でもない。フル・ギルの使い手よって使役されていたのが確定したと言ってもいいだろう。
 数は見渡しただけでも四十を超えている。
 まだいる可能性もある。
 嫌だけども、百以上はいるという気概で対応するべきだろうな。
 
 ここで気になるのは狼たちの視線。
 殆どが俺を見ている。
 勇者だからね。今回の計画を破綻させた中心人物として見るよね。勇者だからね。

「シャルナ」

「しっかりと戦うよ。ベルがいたら難色を示すだろうけど、来るなら命は奪う」

「その考えはありがたいけども、ここはエリス達を連れて城を目指してくれ」

「でも――明らかにトールを狙ってると思うんだけど」
 やはり視線からシャルナも分かっているようだな。
 だからこそ有り難い。
 侍女さんはともかく、ハウルーシ君と同年代のダークエルフの子供たちも蔵から一緒に行動しているからな。
 そっちに向くより俺だけを見てもらった方がいい。

「俺は問題ない。ゴロ丸も頼むぞ」

「キュ!」
 返事をすれば、残るかエリスの護衛かで逡巡するシャルナを持ち上げて、先客のサルタナとハウルーシ君と共に体へと乗せ、大きな両手にはエリスとルリエールを乗せる。

「侍女さんや他の子供たちの護衛も頼むぞ。城までは持つよな?」

「キュゥゥゥゥウ!」
 力強い返事の後、ミスリルの体を反転させて侍女さん等を伴い城へと向かって駆け出す。

「無理しないでよ」
 シャルナの声には心配が混じる。
 それを払拭させるように、

「大丈夫、無理はしない。シャルナは俺たちのパーティーで最後に残った護衛役だ。全うしてくれ。ここは俺に任せて先に行け!」
 責任感を与えるようにあえて強めに発する。
 自身の生まれ故郷である国。
 その国の次期王と妃となる存在を守る事に集中するためには、俺なんかを心配する暇はないという意味合いも込めた。
 理解してくれたのか、シャルナは目を鋭くしてゴロ丸の上で周辺を警戒することに傾注してくれる。
 で、コクリコも言っていたから俺も言ってみたかった台詞。ここは任せて先に行けを格好良く言えた。
 そんな冗談を言えるだけの余裕はある。

「本当に大丈夫だ。この程度に俺は負けない。何たって成長してるんだから」
 シャルナの背に向けて独り言つ。
 カゲストに私兵。ダークエルフさん達との戦闘を経て、未だにゴロ丸の召喚維持が出来ているのは喜ばしい。
 維持するだけ俺が成長しているって事だからな。
 しかもゴロ丸は城まで持つかと問うた時、力強く返してくれた。
 俺の成長は上々だ。

「勇者殿!」
 警告してくれる声。

「分かってます」
 背後から迫るミストウルフの攻撃はブレイズを纏った残火を振って追い払う。
 続けざまに迫り来る狼たちの波状攻撃は見事なもの。
 知能が高いってのは連携を見れば分かる。
 そこいらの兵士よりもしっかりとしているからな。

「殿に付き合ってもらってすみませんね」
 何も言わずに残ってくれたルーシャンナルさんには感謝しかない。

「向こうにはシャルナ様がおられますから」
 この場のミストウルフが全てじゃないと想定しても、シャルナが護衛にいれば安心できる。
 それに侍女さん達も実力者が多いようだからな。子供たちを守るだけの力は持っているだろう。
 本音としては、ミストウルフの全勢力がここに集っているというのが理想的。

「ガウッ!」
 と、考え事をする最中、一頭が合図を出し、四方から狼が同時に迫ってくる。

「マッドバインド」
 大地から泥が隆起しロープ状になる。
 拘束されるのはゴメンとばかりに、俺へと仕掛けようとした数頭は後退。

「有り難うございます……」
 お礼は言うけども、俺の顔は渋面だったようで、

「そんな顔で見ないでください」
 深く頭を下げるのはルーシャンナルさん――ではなく、

「リンファ様……」
 俺の気持ちを代弁してくれるように、呆れるルーシャンナルさんからの一言。
 なんでわざわざこんな危険な場所に残ったんですかね……。
 てっきり皆と一緒に行ったかと思ったよ。
 今まで気付かなかったぞ……。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...