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トール師になる
PHASE-1139【殿、担当しましょう】
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ルリエール、侍女さん等と合流した後、エリスはこのままルリエール達も城へと連れて行くと述べる。
「それって大丈夫なの?」
問えば、
「大丈夫です!」
力強く返してくる。
自分の許嫁。いずれは妃となって城に住まうことになるのだから、無理であっても押し通すようだ。
エリスの発言にルリエールは両手を頬に当ててクネクネ動いて喜びを表現し、侍女さん達はそれを優しく見守るという光景。
で、俺は嫉妬が溜まっていく状況。
皆で城に戻り、現王と氏族の面々にはしっかりと説明し、ダークエルフの面々が集落を離れての入城も問題ないよう取り図るとのことだった。
今夜のダークエルフさん達の蜂起はなかった事にし、逢い引きのために集落を訪れようと準備をしていた中、謀反を企てていたカゲストに自室で眠らされて人質にされた。
で、俺たちに救われて脱出。
集落には未だ敵勢力が存在することから、ウーマンヤール族長とその護衛を伴って脱出するという筋書き。
ダークエルフさん達の蜂起の部分を削除し、カゲストに自室で攫われたことと、集落に敵勢力が残っているって部分は嘘じゃないな。
本当の内容を入れると、嘘話にも真実味ってのが出るからな。
今回の事は全てが死んだポルパロングとカゲストによる企てということにするそうで、ダークエルフさん達はこちらの協力者であり非はないという事にするようだ。
エリスって存外クレバーだよな。
この場合、賢い――ではなくずる賢いって意味だけど。
王となるためには必要な才能でもあるか。
そのくらいじゃないと、清濁併せ呑む事を必要とする国主にはなれないからな。
エリスがそこまで考えているなら誰も反対はしないようだ。
側仕えであるリンファさんが異を唱えないからルーシャンナルさんも黙っているし。
何より、エリスとルリエールを引き離すって事をすれば野暮ってもんだな。
離れないとばかりに体をくっつけてるし……。
そんな二人を侍女さん達は温かい目で見ている。
ここで年相応のお付き合いをしなさい! なんて言ったなら、温かい目が一気に冷めたものになって俺に向けられるんだろうね。
それは御免こうむる。
それにしても羨ましい……。
俺の弟子は俺より早く大人の仲間入りをするのかな~。
人間とエルフだと成長速度が違うから、俺が後れを取るって事はないよね!
「どうしたのトール? 難しいというか、必死な顔をして。そんな顔をしてもトールには似合わないよ。もっとだらけた顔になりなよ」
「まるで俺が普段から知能の低いお馬鹿さんみたいな顔をしている言い方ですね。シャルナさん」
「実際そうじゃない」
「ぐぬぅ……」
ドストレートに言われると言い返すのって難しいものだな……。
なんで俺のパーティーの女性陣は俺に対して酷いことを言うのやら……。
勇者に対して美人がドストレートに発言するのは――、好きです勇者様! 抱いて! でしょ。
なんで美人、美少女が揃っていながら俺に対してそんな感情を持ったのが一人もいないのか……。
――……考えが脱線してしまったので軌道修正。
未だに問題もある。
フル・ギルの使用者が見つかっていないのは大問題だ。
コイツが鏑を投げたり、発動術式でカゲストをランドイーターで呑み込ませると同時にマッドマンを使役したんだろうからな。
氏族二人が死んでしまったことで計画も破綻したからとんずらこいた可能性もある。
倒すのが面倒なマッドマンを大量に呼び出したのも、その間に逃げ果せるための時間稼ぎ要員だったのかもしれないし。
だが、もしも万が一に――だ。まだ残っているとするなら、次の一手を打つために考えを巡らせている事だろうね。
じゃあ、いつ打つの?
「勇者殿!」
ルーシャンナルさんの声は強張っていた。
「今でしょ!」
こちらは戦力が割かれている状況。しかも強者が割かれている。
そんな中でエリス達を守りながらの戦い。相手からすれば狙うならここしかないよね。
相手は計画を破綻させられていると考えていい。
なりふり構わずに強行手段を打ってくるなら、強者が不在の今こそが好機と考えるのは当然。
シャルナ曰く、知能が低い顔立ちである俺でもそうする。
「で――」
「グルルッ」
「ミストウルフか」
屋敷の周囲からいつの間にか消えていたミストウルフ。
カゲストでもなく、ダークエルフさん達でもない。フル・ギルの使い手よって使役されていたのが確定したと言ってもいいだろう。
数は見渡しただけでも四十を超えている。
まだいる可能性もある。
嫌だけども、百以上はいるという気概で対応するべきだろうな。
ここで気になるのは狼たちの視線。
殆どが俺を見ている。
勇者だからね。今回の計画を破綻させた中心人物として見るよね。勇者だからね。
「シャルナ」
「しっかりと戦うよ。ベルがいたら難色を示すだろうけど、来るなら命は奪う」
「その考えはありがたいけども、ここはエリス達を連れて城を目指してくれ」
「でも――明らかにトールを狙ってると思うんだけど」
やはり視線からシャルナも分かっているようだな。
だからこそ有り難い。
侍女さんはともかく、ハウルーシ君と同年代のダークエルフの子供たちも蔵から一緒に行動しているからな。
そっちに向くより俺だけを見てもらった方がいい。
「俺は問題ない。ゴロ丸も頼むぞ」
「キュ!」
返事をすれば、残るかエリスの護衛かで逡巡するシャルナを持ち上げて、先客のサルタナとハウルーシ君と共に体へと乗せ、大きな両手にはエリスとルリエールを乗せる。
「侍女さんや他の子供たちの護衛も頼むぞ。城までは持つよな?」
「キュゥゥゥゥウ!」
力強い返事の後、ミスリルの体を反転させて侍女さん等を伴い城へと向かって駆け出す。
「無理しないでよ」
シャルナの声には心配が混じる。
それを払拭させるように、
「大丈夫、無理はしない。シャルナは俺たちのパーティーで最後に残った護衛役だ。全うしてくれ。ここは俺に任せて先に行け!」
責任感を与えるようにあえて強めに発する。
自身の生まれ故郷である国。
その国の次期王と妃となる存在を守る事に集中するためには、俺なんかを心配する暇はないという意味合いも込めた。
理解してくれたのか、シャルナは目を鋭くしてゴロ丸の上で周辺を警戒することに傾注してくれる。
で、コクリコも言っていたから俺も言ってみたかった台詞。ここは任せて先に行けを格好良く言えた。
そんな冗談を言えるだけの余裕はある。
「本当に大丈夫だ。この程度に俺は負けない。何たって成長してるんだから」
シャルナの背に向けて独り言つ。
カゲストに私兵。ダークエルフさん達との戦闘を経て、未だにゴロ丸の召喚維持が出来ているのは喜ばしい。
維持するだけ俺が成長しているって事だからな。
しかもゴロ丸は城まで持つかと問うた時、力強く返してくれた。
俺の成長は上々だ。
「勇者殿!」
警告してくれる声。
「分かってます」
背後から迫るミストウルフの攻撃はブレイズを纏った残火を振って追い払う。
続けざまに迫り来る狼たちの波状攻撃は見事なもの。
知能が高いってのは連携を見れば分かる。
そこいらの兵士よりもしっかりとしているからな。
「殿に付き合ってもらってすみませんね」
何も言わずに残ってくれたルーシャンナルさんには感謝しかない。
「向こうにはシャルナ様がおられますから」
この場のミストウルフが全てじゃないと想定しても、シャルナが護衛にいれば安心できる。
それに侍女さん達も実力者が多いようだからな。子供たちを守るだけの力は持っているだろう。
本音としては、ミストウルフの全勢力がここに集っているというのが理想的。
「ガウッ!」
と、考え事をする最中、一頭が合図を出し、四方から狼が同時に迫ってくる。
「マッドバインド」
大地から泥が隆起しロープ状になる。
拘束されるのはゴメンとばかりに、俺へと仕掛けようとした数頭は後退。
「有り難うございます……」
お礼は言うけども、俺の顔は渋面だったようで、
「そんな顔で見ないでください」
深く頭を下げるのはルーシャンナルさん――ではなく、
「リンファ様……」
俺の気持ちを代弁してくれるように、呆れるルーシャンナルさんからの一言。
なんでわざわざこんな危険な場所に残ったんですかね……。
てっきり皆と一緒に行ったかと思ったよ。
今まで気付かなかったぞ……。
「それって大丈夫なの?」
問えば、
「大丈夫です!」
力強く返してくる。
自分の許嫁。いずれは妃となって城に住まうことになるのだから、無理であっても押し通すようだ。
エリスの発言にルリエールは両手を頬に当ててクネクネ動いて喜びを表現し、侍女さん達はそれを優しく見守るという光景。
で、俺は嫉妬が溜まっていく状況。
皆で城に戻り、現王と氏族の面々にはしっかりと説明し、ダークエルフの面々が集落を離れての入城も問題ないよう取り図るとのことだった。
今夜のダークエルフさん達の蜂起はなかった事にし、逢い引きのために集落を訪れようと準備をしていた中、謀反を企てていたカゲストに自室で眠らされて人質にされた。
で、俺たちに救われて脱出。
集落には未だ敵勢力が存在することから、ウーマンヤール族長とその護衛を伴って脱出するという筋書き。
ダークエルフさん達の蜂起の部分を削除し、カゲストに自室で攫われたことと、集落に敵勢力が残っているって部分は嘘じゃないな。
本当の内容を入れると、嘘話にも真実味ってのが出るからな。
今回の事は全てが死んだポルパロングとカゲストによる企てということにするそうで、ダークエルフさん達はこちらの協力者であり非はないという事にするようだ。
エリスって存外クレバーだよな。
この場合、賢い――ではなくずる賢いって意味だけど。
王となるためには必要な才能でもあるか。
そのくらいじゃないと、清濁併せ呑む事を必要とする国主にはなれないからな。
エリスがそこまで考えているなら誰も反対はしないようだ。
側仕えであるリンファさんが異を唱えないからルーシャンナルさんも黙っているし。
何より、エリスとルリエールを引き離すって事をすれば野暮ってもんだな。
離れないとばかりに体をくっつけてるし……。
そんな二人を侍女さん達は温かい目で見ている。
ここで年相応のお付き合いをしなさい! なんて言ったなら、温かい目が一気に冷めたものになって俺に向けられるんだろうね。
それは御免こうむる。
それにしても羨ましい……。
俺の弟子は俺より早く大人の仲間入りをするのかな~。
人間とエルフだと成長速度が違うから、俺が後れを取るって事はないよね!
「どうしたのトール? 難しいというか、必死な顔をして。そんな顔をしてもトールには似合わないよ。もっとだらけた顔になりなよ」
「まるで俺が普段から知能の低いお馬鹿さんみたいな顔をしている言い方ですね。シャルナさん」
「実際そうじゃない」
「ぐぬぅ……」
ドストレートに言われると言い返すのって難しいものだな……。
なんで俺のパーティーの女性陣は俺に対して酷いことを言うのやら……。
勇者に対して美人がドストレートに発言するのは――、好きです勇者様! 抱いて! でしょ。
なんで美人、美少女が揃っていながら俺に対してそんな感情を持ったのが一人もいないのか……。
――……考えが脱線してしまったので軌道修正。
未だに問題もある。
フル・ギルの使用者が見つかっていないのは大問題だ。
コイツが鏑を投げたり、発動術式でカゲストをランドイーターで呑み込ませると同時にマッドマンを使役したんだろうからな。
氏族二人が死んでしまったことで計画も破綻したからとんずらこいた可能性もある。
倒すのが面倒なマッドマンを大量に呼び出したのも、その間に逃げ果せるための時間稼ぎ要員だったのかもしれないし。
だが、もしも万が一に――だ。まだ残っているとするなら、次の一手を打つために考えを巡らせている事だろうね。
じゃあ、いつ打つの?
「勇者殿!」
ルーシャンナルさんの声は強張っていた。
「今でしょ!」
こちらは戦力が割かれている状況。しかも強者が割かれている。
そんな中でエリス達を守りながらの戦い。相手からすれば狙うならここしかないよね。
相手は計画を破綻させられていると考えていい。
なりふり構わずに強行手段を打ってくるなら、強者が不在の今こそが好機と考えるのは当然。
シャルナ曰く、知能が低い顔立ちである俺でもそうする。
「で――」
「グルルッ」
「ミストウルフか」
屋敷の周囲からいつの間にか消えていたミストウルフ。
カゲストでもなく、ダークエルフさん達でもない。フル・ギルの使い手よって使役されていたのが確定したと言ってもいいだろう。
数は見渡しただけでも四十を超えている。
まだいる可能性もある。
嫌だけども、百以上はいるという気概で対応するべきだろうな。
ここで気になるのは狼たちの視線。
殆どが俺を見ている。
勇者だからね。今回の計画を破綻させた中心人物として見るよね。勇者だからね。
「シャルナ」
「しっかりと戦うよ。ベルがいたら難色を示すだろうけど、来るなら命は奪う」
「その考えはありがたいけども、ここはエリス達を連れて城を目指してくれ」
「でも――明らかにトールを狙ってると思うんだけど」
やはり視線からシャルナも分かっているようだな。
だからこそ有り難い。
侍女さんはともかく、ハウルーシ君と同年代のダークエルフの子供たちも蔵から一緒に行動しているからな。
そっちに向くより俺だけを見てもらった方がいい。
「俺は問題ない。ゴロ丸も頼むぞ」
「キュ!」
返事をすれば、残るかエリスの護衛かで逡巡するシャルナを持ち上げて、先客のサルタナとハウルーシ君と共に体へと乗せ、大きな両手にはエリスとルリエールを乗せる。
「侍女さんや他の子供たちの護衛も頼むぞ。城までは持つよな?」
「キュゥゥゥゥウ!」
力強い返事の後、ミスリルの体を反転させて侍女さん等を伴い城へと向かって駆け出す。
「無理しないでよ」
シャルナの声には心配が混じる。
それを払拭させるように、
「大丈夫、無理はしない。シャルナは俺たちのパーティーで最後に残った護衛役だ。全うしてくれ。ここは俺に任せて先に行け!」
責任感を与えるようにあえて強めに発する。
自身の生まれ故郷である国。
その国の次期王と妃となる存在を守る事に集中するためには、俺なんかを心配する暇はないという意味合いも込めた。
理解してくれたのか、シャルナは目を鋭くしてゴロ丸の上で周辺を警戒することに傾注してくれる。
で、コクリコも言っていたから俺も言ってみたかった台詞。ここは任せて先に行けを格好良く言えた。
そんな冗談を言えるだけの余裕はある。
「本当に大丈夫だ。この程度に俺は負けない。何たって成長してるんだから」
シャルナの背に向けて独り言つ。
カゲストに私兵。ダークエルフさん達との戦闘を経て、未だにゴロ丸の召喚維持が出来ているのは喜ばしい。
維持するだけ俺が成長しているって事だからな。
しかもゴロ丸は城まで持つかと問うた時、力強く返してくれた。
俺の成長は上々だ。
「勇者殿!」
警告してくれる声。
「分かってます」
背後から迫るミストウルフの攻撃はブレイズを纏った残火を振って追い払う。
続けざまに迫り来る狼たちの波状攻撃は見事なもの。
知能が高いってのは連携を見れば分かる。
そこいらの兵士よりもしっかりとしているからな。
「殿に付き合ってもらってすみませんね」
何も言わずに残ってくれたルーシャンナルさんには感謝しかない。
「向こうにはシャルナ様がおられますから」
この場のミストウルフが全てじゃないと想定しても、シャルナが護衛にいれば安心できる。
それに侍女さん達も実力者が多いようだからな。子供たちを守るだけの力は持っているだろう。
本音としては、ミストウルフの全勢力がここに集っているというのが理想的。
「ガウッ!」
と、考え事をする最中、一頭が合図を出し、四方から狼が同時に迫ってくる。
「マッドバインド」
大地から泥が隆起しロープ状になる。
拘束されるのはゴメンとばかりに、俺へと仕掛けようとした数頭は後退。
「有り難うございます……」
お礼は言うけども、俺の顔は渋面だったようで、
「そんな顔で見ないでください」
深く頭を下げるのはルーシャンナルさん――ではなく、
「リンファ様……」
俺の気持ちを代弁してくれるように、呆れるルーシャンナルさんからの一言。
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てっきり皆と一緒に行ったかと思ったよ。
今まで気付かなかったぞ……。
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