異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1138【ハグは駄目。俺が闇堕ちするからね!】

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「おうおう、短時間で共闘する仲まで発展したんかい。こりゃワシらも頑張った甲斐があったってもんだ」
 ドスドスとした足音に胴間声。
 屋根でポージングをしているコクリコとは違い、地面をゆったりと歩んでこちらへと向かってくるのはギムロン。
 近寄るついでに片手でバトルアックスを振ってマッドマンを倒し、空いた左手には酒瓶。
 中身を呷りながら――俺と合流。

「怪我はないみたいだな。ポーションも飲まないで酒を飲んでんだから」

「リンがいたからダメージを受けることはなかったわい。
 常にプロテクションによるカバーが入って問題なしだったようだ。
 流石はリン。

「で、そのリンは?」

「外で倒した連中の拘束と監視をしとる。で、ワシらだけ先に来た」
 相手が魔法に長けたダークエルフって事だから、リンが見張りについているという。
 こちらは余裕が出てきたので、二体のエルダーには護衛からリンへの伝達へと役目の変更をお願いすれば、二つ返事にて向かってくれた。
 
「格好良く登場してくれたけども、怪我はないか?」
 ここでようやく屋根に立つコクリコに問えば、

「当たり前でしょう! 私には爺様に頂いたハイポーションが山ほどありますからね!」
 なにを得意げに言ってんの? 裏を返せば回復するくらいに負傷してたってことだろう……。
 ギムロンのってのはそういった意味か。
 そんなギムロンへと目を向ければ、半眼と肩を竦めるというリアクション。
 ギムロンと違い、コクリコの動きに合わせてプロテクションで常にフォローするのは流石のリンでも難しかったようだな。

 後衛なのに前線で大立ち回りをしていれば怪我もするわな……。
 相手はダークエルフさん達だったわけだし。苦戦もしたことだろう。
 正直、リンがいなかったら無事ではなかったな……。

「とう!」
 当の本人はそんなこと気にしていないとばかりに屋根から跳べば、マッドマンに向けてファイヤーボールを空中で放つ。
 で、俺の近くに着地。

「悪かったなキツい担当を任せて」
 頑張ってくれた事に対して労えば、

「何を言いますか。新たに得た魔眼によって、闇夜を昼へと変える力を手に入れた私に脅威など皆無! 相手の動きなど容易く見切れましたよ」

「うん。ビジョンな」
 訂正しつつも俺も魔眼とか呼んじゃおうかななんて思っていれば、酒気を纏わせたギムロンは呆れ口調でコクリコの戦闘を説明してくれた。
 先ほどの半眼だけでは溜まったものを抑えるのは無理だったようだ。

 前衛担当であるはずの自分を差し置いて接近接近の戦いを繰り広げ、フライパンとワンドで相手をどつきまわし、零距離による魔法を使用して自分もダメージをしっかりと受ける。
 そういった突貫スタイルだったからポーションを多用したという。
 もっと上手く立ち回れば負傷も少なかっただろうとの事だった。
 なんだ、ダークエルフさんに苦戦したんじゃなくて、自身の零距離魔法でダメージを受けてたのか。
 
 呆れ口調のギムロンの説明をしっかりと聞いた俺は――、

「よし! 通常通り!」
 という感想で終わらせた。
 コクリコに後衛を任せようと思ってもそれが無理なことなのは、ギムロン以上に俺が理解している。

「ビジョンもだけど、これを機にコクリコは他のピリアを覚えるといい」

「良いですとも」
 まだ暴れたりとばかりにマッドマンへと駆け出しながらの返答だった。

「おう。そうか」
 と、走って行く背中に返す。
 本当、ぺっらぺらのポリシーだったな。
 こんな事ならもっと早い段階で強制的に覚えさせるべきだった。
 とはいえ、

「努力でな」

「分かってますよ。タフネスは自力習得でしたから。初歩系の習得はそんなに難しくないです」
 だったら俺らと出会う前から覚えとけ……。
 自分の好みである魔法だけを優先させるあまり、実際の戦闘スタイルに必須であるピリアは覚えないんだからな……。
 後衛りそう前衛げんじつがかけ離れているのはコクリコらしい。

「さあ! そんな私が努力で得た新たなる力を見せる時!」
 琥珀の瞳を煌めかせ、俺に刮目せよとばかりにマッドマンの集団の前で足を止めると。

「アークウィップ!」
 と、継ぐ。
 ワンドから青白く、バチバチと音を発する電撃の鞭が顕現すれば、

「ふんっ!」
 と、更に裂帛の気迫を継いで横に振る。
 顕現した帯状の電撃はコクリコに呼応するように勢いよく伸び、眼前より迫ってくるマッドマンの集団を薙ぎ払う。

「おお!」

「これが我が新たなる力ですよ! 中位でも十分でしょう!」
 ああ、これが中位だと駄目なんですか! 上位じゃなきゃ駄目なんですか! って言ってたやつか。
 上位ではないにしても眼前の集団を一掃できるのは便利だな。
 相手が動きの遅いマッドマンだから効果もあったんだろうけど。
 
 だが結果だけを見れば、

「お見事」

「そうでしょう!」
 持ち上げれば、電撃の鞭を振り回して次なるマッドマンの集団へと突っ込んでいった。
 電撃の鞭とか、ますます姉御だな。
 そんな姉御の介入のお陰で、こちらにゆとりが出来たのはありがたい。
 コクリコには悪いがもう少し頑張ってもらおう。

 ――全体を見れば、マッドマン程度ならネクレス氏を中心としたダークエルフさん達や私兵達も余裕のご様子。
 それでも次から次へと現れるマッドマンが煩わしいのは事実。

「コクリコ」

「なんですか?」
 まあ満足な笑みを湛えて……。無双しているのがよほど気持ちいいようだ。

「このまま任せられるか」

「愚問ですよ。早いところ弟子達をここから連れ出してください」
 姉御モードの時はやはり頼りになる。

「やれやれ……」
 嘆息を漏らしつつも、もう一仕事こなすかいとバトルアックスを担うギムロン。

「頼むよ」
 酒を呷りつつ俺の言葉を背で受ければ、グッと大きな握り拳を作って返してくれる。

「ゴロ丸」
 言えば子供三人を自分の体に乗せて俺のところまで来てくれる。

「ここから撤収する」

「キュ!」
 と、ゲッコーさんは?

「俺もここで監視をしておく。この状況が終了した後、ここの面々を見張るのも大事だからな」

「分かりました。それなら安心です」

「そっちは油断するなよ」

「了解です」
 家に帰るまでが遠足。
 寄り道せずに安全に次期王を城まで送らないとな。
 未だ戦闘中の面々に申し訳ないと謝罪を述べるエリスをゴロ丸に乗せたまま、俺たちは集落の中心地より離れた――。
 
 城まで送るにしてもまずは――、

「トール」

「おうシャルナ」
 ここで族長であるルリエールの護衛についてくれていたシャルナ達と合流。

「問題は?」

「一切無し」
 シャルナらしいサバサバした返答。

「そっちも――上々のようね」

「まあ首尾良くいったとは言いきれないけども、救出は問題なく」
 ハウルーシ君を一度死なせてしまったし、カゲストを失ってしまったからな。胸を張って完璧とは言えなかった。
 シャルナの後ろではリンファさんとルーシャンナルさんが救出成功に喜びの笑みを見せてくれる。
 リンファさんに至っては涙を流していた。
 エリスの無事をしっかりと目に出来たからだろうね。
 本当なら直ぐにでもエリスの側に駆け寄りたかっただろうけど、自分以上に危惧していたであろう存在にリンファさんはその権利を与えたようだ。

 その権利を譲ってもらったルリエールは、

「殿下!」
 快活良く駆け寄り、

「ルリエール!」
 と、ゴロ丸から飛び降りたエリスも駆け寄れば、二人はお互いの手をしっかりと握り合う……。
 よかったよ。もし抱き合うって光景を見せられていたら、俺は嫉妬の炎をこの森に振りまいていたことだろう。
 手を握り合う光景を見せられるだけでも心にどす黒いものが渦巻いているけどね……。
 勇者から堕ちそうな勢いである。
 勇者から堕者ですな。

「どうされました?」

「いえ、なんでも」
 二人を見る俺に首を傾げつつのリンファさんは、

「感謝いたします勇者様」
 と、ギュッと手を握ってくた。
 優しい微笑みと白く美しい手で握ってもらえたのが今回のご褒美かな。
 惜しむらくは、籠手と一体化している手袋のせいで、リンファさんの手の感触を百パーセントで堪能できなかったことだろう。

「なんかトールから変な気配を感じるよ」

「ソンナコトハ、ナイヨ」

「片言の時は絶対によからぬ事を考えてる時だよね」
 付き合いが長くなると勘がよくなるのも困りものだなシャルナさん。
 そういったポジションはコクリコだけで十分なんだって。
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