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トール師になる
PHASE-1194【マラ・ケニタル】
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「どうぞ」
エリスが鞘に収まる刀を片膝をついたまま、両手にて恭しく渡してくる。
この国の王にそんなことをされるのは困りもの。
可能な限り不遜に見えないように、朱塗りの椅子に座る俺も、差し出される最上大業物を両手にて丁寧に受け取る。
「軽いね」
残火と比べればわずかにこちらの方が重いが、ギムロンが持っているミスリル剣と比べるとこちらの方が断然、軽い。
ギムロンが所有する得物の剣身と、こちらの刀身を比べれば、こちらの方が長いので重みもあると思ったが、やはり最高峰の英雄灰輝なるミスリルとなれば、質自体が別次元といったところなのだろう。
「どうぞ抜いてみてください」
「いいのか?」
「もちろんです」
お言葉に甘えて手を柄に添えるところで動きを止め、添えようとした柄に注目する。
流石はギムロンが制作に携わっただけはある。
ワックさんが制作した残火は、赤と黒の二色の柄紐で綺麗に整えているが、いま手にしているのはそうじゃない。
ギムロンご自慢のミスリル剣と同じ仕様だった。
グルグル巻きの革巻きというぶっきらぼうさが出ている。
拵がシンプルだからこそ余計にそのぶっきらぼうさが目立つが、それが冒険者然としていて格好いい。
冒険者らしさを表現した美なのだろう。
反面――、
「下緒は優雅だね」
「そちらはエルフに伝わる技法で作られたミスリル紐です」
「ほう」
鉱物であるミスリルを紐にするってね。
金属を細長くしたワイヤーなんかとは違い、さわり心地は上質な紐そのもの。
「拵を堪能するのもいいでしょうが、刀身も」
「お、そうだな」
早く抜いて見て欲しいとばかりにエリスが勧めてくる。
一応は謁見の間に集まるエルフサイドの皆さんに抜いて良いかの許可を目配せで行う。
謁見の間という場にて、王の眼前で刀を抜くってのは不遜だからな。
いくら信頼関係があったとしても、礼儀として確認は取らないとね。
――皆さん揃って首肯で返してくれたのを確認。
本当、俺ってこの国で信頼されているね。
確認の後、黒革からなる革巻きの柄をぐっと握り、鞘からゆっくりと抜く。
「お、おお……」
エリスの王冠。弟子達への認識票で何となくは分かっていたけども……。
うむ、やはり地味だな。
灰色からなる刀身はわずかに輝くだけ。
室内の灯りをわずかに反射させる程度のにぶい輝きだ。
よく目にするミスリルの神々しい青白い輝きというのは一切無い。
下緒の方が神々しい。
一見すると、ミスリル最高峰とは思えない刀身。
一生懸命に考えを巡らせ思い浮かんだ――、
「わびさび――なのかな」
といった感想を口からひり出す。
地味な刀身を目にしての感想を述べるとなると、これが精一杯。
「わびさび――ですか?」
「ああ、うん。非常に良い物だね。閑寂という慎ましさの中に宿る力強さを感じ取ることができるよ」
「有り難うございます」
と、俺が良い物だと述べれば、エリスは安堵したのか胸をなで下ろす。
もし俺が気に入らなければどうしようかと思ったようだ。
可愛い弟子にいらん心配をかけてしまったようだな。
「この世界の為に振るわせてもらうよ」
「存分にお役立てください」
「で、この刀身彫刻は? 文字のようだから銘を切ってんのかな?」
本来は茎に銘は切ると思うから、これは銘ではなくデザイン的な意味合いの彫刻なのかな?
「これはルーン文字です」
――残火は火龍の力を刀と鞘に埋め込んだタリスマンの力を使用して引き出すが、こちらはこのルーン文字によって風の加護を引き出すという。
残火のように火龍の力を引き出すものではなく、俺の力で能力を発動させるというものらしいので、俺の実力で左右される刀のようだ……。
残火だって火龍の力を百パーセント引き出せていない状況なのにね……。
「師匠ならばしっかりとこの刀の力を引き出してくれるでしょう」
と、キラキラとした瞳を向けられて言われれば、弟子に恥をかかせない師であるために頑張ろうと心の中で誓う。
と――、
「銘を切るって口にしたから聞くけど、この刀には名前はあるのかい?」
「差し出がましいですが、僕が考えた名があります……」
何とも申し訳なさそうなエリスは、
「師匠が既に考えていらっしゃるならそちらを――」
そう継ぐので、
「いや、俺はまだ考えてないよ。よければエリスの考えたのを聞かせてくれるかい?」
「あ、はい」
なんとも照れくさそうになりながらも――意を決したのか、こちらへと目を向ける時には力強いものに変わる。
やおら開かれた口から出てくる名は――、
「マラ・ケニタル――と、僕は名付けたく思います」
「マラ・ケニタル――」
「お気に召さなかったですか?」
「いや、そんな事はないよ」
残火と違って横文字だったからね。
なのでそこまで不安そうな顔をしないでいただきたい。エリスは王なのだから。
「で、どういった意味なんだ?」
せっかくこの国の王であり、可愛い弟子が考えてくれたんだからな。
意味を知ることで、その名を深く愛せるようになりたい。
「マラ・ケニタル。我々エルフの言葉で――貴方との出会いに感謝する――という意味です」
「――そうか」
何とも胸が温かくなるじゃないか。
国の宝を素材とし、エリスが抱いている思いを銘とする。
全身全霊の真心を俺へと向けてくれるエリス。
胸は温かくなるし、目頭は熱くなるってもんだよ。
エリスが鞘に収まる刀を片膝をついたまま、両手にて恭しく渡してくる。
この国の王にそんなことをされるのは困りもの。
可能な限り不遜に見えないように、朱塗りの椅子に座る俺も、差し出される最上大業物を両手にて丁寧に受け取る。
「軽いね」
残火と比べればわずかにこちらの方が重いが、ギムロンが持っているミスリル剣と比べるとこちらの方が断然、軽い。
ギムロンが所有する得物の剣身と、こちらの刀身を比べれば、こちらの方が長いので重みもあると思ったが、やはり最高峰の英雄灰輝なるミスリルとなれば、質自体が別次元といったところなのだろう。
「どうぞ抜いてみてください」
「いいのか?」
「もちろんです」
お言葉に甘えて手を柄に添えるところで動きを止め、添えようとした柄に注目する。
流石はギムロンが制作に携わっただけはある。
ワックさんが制作した残火は、赤と黒の二色の柄紐で綺麗に整えているが、いま手にしているのはそうじゃない。
ギムロンご自慢のミスリル剣と同じ仕様だった。
グルグル巻きの革巻きというぶっきらぼうさが出ている。
拵がシンプルだからこそ余計にそのぶっきらぼうさが目立つが、それが冒険者然としていて格好いい。
冒険者らしさを表現した美なのだろう。
反面――、
「下緒は優雅だね」
「そちらはエルフに伝わる技法で作られたミスリル紐です」
「ほう」
鉱物であるミスリルを紐にするってね。
金属を細長くしたワイヤーなんかとは違い、さわり心地は上質な紐そのもの。
「拵を堪能するのもいいでしょうが、刀身も」
「お、そうだな」
早く抜いて見て欲しいとばかりにエリスが勧めてくる。
一応は謁見の間に集まるエルフサイドの皆さんに抜いて良いかの許可を目配せで行う。
謁見の間という場にて、王の眼前で刀を抜くってのは不遜だからな。
いくら信頼関係があったとしても、礼儀として確認は取らないとね。
――皆さん揃って首肯で返してくれたのを確認。
本当、俺ってこの国で信頼されているね。
確認の後、黒革からなる革巻きの柄をぐっと握り、鞘からゆっくりと抜く。
「お、おお……」
エリスの王冠。弟子達への認識票で何となくは分かっていたけども……。
うむ、やはり地味だな。
灰色からなる刀身はわずかに輝くだけ。
室内の灯りをわずかに反射させる程度のにぶい輝きだ。
よく目にするミスリルの神々しい青白い輝きというのは一切無い。
下緒の方が神々しい。
一見すると、ミスリル最高峰とは思えない刀身。
一生懸命に考えを巡らせ思い浮かんだ――、
「わびさび――なのかな」
といった感想を口からひり出す。
地味な刀身を目にしての感想を述べるとなると、これが精一杯。
「わびさび――ですか?」
「ああ、うん。非常に良い物だね。閑寂という慎ましさの中に宿る力強さを感じ取ることができるよ」
「有り難うございます」
と、俺が良い物だと述べれば、エリスは安堵したのか胸をなで下ろす。
もし俺が気に入らなければどうしようかと思ったようだ。
可愛い弟子にいらん心配をかけてしまったようだな。
「この世界の為に振るわせてもらうよ」
「存分にお役立てください」
「で、この刀身彫刻は? 文字のようだから銘を切ってんのかな?」
本来は茎に銘は切ると思うから、これは銘ではなくデザイン的な意味合いの彫刻なのかな?
「これはルーン文字です」
――残火は火龍の力を刀と鞘に埋め込んだタリスマンの力を使用して引き出すが、こちらはこのルーン文字によって風の加護を引き出すという。
残火のように火龍の力を引き出すものではなく、俺の力で能力を発動させるというものらしいので、俺の実力で左右される刀のようだ……。
残火だって火龍の力を百パーセント引き出せていない状況なのにね……。
「師匠ならばしっかりとこの刀の力を引き出してくれるでしょう」
と、キラキラとした瞳を向けられて言われれば、弟子に恥をかかせない師であるために頑張ろうと心の中で誓う。
と――、
「銘を切るって口にしたから聞くけど、この刀には名前はあるのかい?」
「差し出がましいですが、僕が考えた名があります……」
何とも申し訳なさそうなエリスは、
「師匠が既に考えていらっしゃるならそちらを――」
そう継ぐので、
「いや、俺はまだ考えてないよ。よければエリスの考えたのを聞かせてくれるかい?」
「あ、はい」
なんとも照れくさそうになりながらも――意を決したのか、こちらへと目を向ける時には力強いものに変わる。
やおら開かれた口から出てくる名は――、
「マラ・ケニタル――と、僕は名付けたく思います」
「マラ・ケニタル――」
「お気に召さなかったですか?」
「いや、そんな事はないよ」
残火と違って横文字だったからね。
なのでそこまで不安そうな顔をしないでいただきたい。エリスは王なのだから。
「で、どういった意味なんだ?」
せっかくこの国の王であり、可愛い弟子が考えてくれたんだからな。
意味を知ることで、その名を深く愛せるようになりたい。
「マラ・ケニタル。我々エルフの言葉で――貴方との出会いに感謝する――という意味です」
「――そうか」
何とも胸が温かくなるじゃないか。
国の宝を素材とし、エリスが抱いている思いを銘とする。
全身全霊の真心を俺へと向けてくれるエリス。
胸は温かくなるし、目頭は熱くなるってもんだよ。
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