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トール師になる
PHASE-1195【永眠……とはちょっと違うようです】
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「名は……気に入らなかったでしょうか……」
そんな訳ないだろう。
弟子の前で涙なんて見せたくないので堪えてからの――、
「マラ・ケニタル――有り難く頂戴いたします」
エリスの前で新たなる愛刀を鞘へと収めて両手で持ち、片膝をついて頭を下げる。
俺の所作にエリスは困惑。
師に頭を下げさせるのは不義だと思っているのだろうけど、
「今は王としての立場で」
と、小声で伝えると、エリスはやおら立ち上がり、
「どうぞ佩いてください」
と、述べ、俺は残火と共に新たなる愛刀マナ・ケニタルを左の腰へと佩く。
「じゃあ次は俺から――」
立ち上がってエリスを見れば、愛くるしい目がキラキラと輝いている。
王ではなく、子供として爛々と輝く碧眼。
側に立つサルタナとハウルーシの胸元にぶら下がった認識票へと輝く碧眼を向けている事から、今度は自分なのだろうといった期待が体から漲っている。
認識票を手にする事で、正式な弟子の証というステータスを得られるという喜びがあるようだ。
――俺の弟子ってポジションはそんなにもありがたいものなのかな?
などと自問しつつも、雑嚢から認識票を取り出せば、エリスは早く首にかけてほしいとばかりに再び片膝をつく。
笹の葉のような長い耳に革紐が引っかからないようにしつつエリスの首へとかけ、
「俺の弟子としての証だ。偏見を持つな。見下すな。精進して己を磨くように」
などと、師匠らしいことを言ってみる。
言ってなんだが、ブーメラン発言なんだよな。
俺にも言えることだからね。
これは後で吐いた唾は飲めないな。と、ベルやゲッコーさんから指摘されること間違いなしだ。
まあ、自分への戒めのためにも発言したとしておこう。
で、俺の発言に、
「無論です。師匠の発言を心底に留めなければ、僕の思う国を皆と共に築き上げる事ができませんから」
と、ブーメラン発言だよな。なんて思っている俺とは違い、しっかりと覚悟のある言葉で返してくれる。
「嫉むな、お前が歩んで行く道だ。嘲るな、お前が歩んで来た道だ。この精神を忘れないように――ですね」
「その通り」
俺の弟子たちはこの発言が好きなようで。
こうなると俺の友人の発言でした。なんてもう言えないな。
この異世界では俺の発言とさせていただく。
「我が師に恥じないように、これからも精進します」
首にかけられた認識票を強く握りしめつつ発するエリス。
その発言を耳にすれば、弟子に恥をかかせない師匠になろうと俺も思います。
――――俺とエリスの一連の動作がいったん区切りを迎えたと判断したようで、前王が謁見の間に響き渡る大きな拍手を行えば、それに続いて喝采が上がる。
対面するエリスと目を合わせると、小さな体はなんともこそばゆい気持ちになっているようだった。
まあ、俺もそうだけどね。
「よい光景を見る事が出来た」
先駆けて拍手を行った前王がそう発せば、水を打ったように謁見の間は静まりかえる。
「これからはエリスがこの国の舵を取る。カトゼンカ卿を筆頭に皆エリスをよく支えてほしい」
言って深々と頭を下げれば、カトゼンカ氏やルミナングスさんを始め氏族の面々は大慌て。
「王がそう簡単に頭を下げますな」
カトゼンカ氏が言えば、
「もう王ではないのでな」
悪戯じみた笑みを向ける前王。
おちょくるやり取りを目にすれば、俺たちがこの国を訪れたばかりの時に抱いたイメージである、王族サイドと氏族サイドの派閥争い――ってのは無かったんだな。と、感じざるを得ない。
ポルパロングとカゲストの存在がいなくなったことも大きいんだろうけど。
「さて――」
大きく吸気と呼気を行い、この場をぐるりと見渡す前王。
「これで思い残すことはないな」
「なんです? まるでこの国から旅立つみたいな言い方ですね」
前王の継いだ発言に対して問えば、
「旅立つことはない。ただ――長い眠りにつくだけだ」
「……え?」
――……長い眠りから連想してしまうのは……、死という一文字。
「トール殿。別段、私は死にはしない」
「ああ、それは良かったです」
本当に安心したよ。
「父が言うように、長い眠りにつくのです」
「……うん……」
エリスよ。長い眠りって言い様は、即ち死を連想させるんだけど……。
「ジロロト大聖堂の最奥にて、歴代の王や氏族は眠りにつくのですよ」
ここでカトゼンカ氏も参加。
完全に俺の知る知識だと死出の旅立ちを思わせるんですけど。
大聖堂ってワードがとくにそう思わせる。
「あ、人間の方々が思うような事ではないですよ」
「でしょうね」
エルフサイドが前王の長い眠りにつく発言に対して、あまりにもノンリアクションだったからね。
何となくだけどそれで理解はしましたよ。
でもさ……。人間と比べて圧倒的に長命な種族が長い眠りにつくって発言をすれば、どれだけ長い眠りって事になるよ。
人間目線だと永遠と思っても間違いないと思うんだけど。
――カトゼンカ氏の説明ではジロロト大聖堂にて眠りにつき、神樹マンドスと一体化することでこの国を見守るという。
といっても、もちろん直ぐにというわけではないそうだ。
エリスが王としてどれだけの手腕を振るうかも見届けないといけないし、何より、これから魔王軍との戦いもあるから、それに対する協力もしないといけない。
前王が長い眠りにつくというのは、それらが全て解決した後の話のようだ。
だとしても――、
「エリスは寂しくないのか?」
俺より遙かに年上ではあるけども、エルフから見ればまだ子供。今まで当たり前のようにいた父親がいなくなるのはやはり――、
「別段、寂しくはありません」
「……あ、そうですか……」
即答ではっきりと言い切った……。
「強がりではないのだな?」
ここでベルからの発言。
「もちろんです。会いたい時は会えますし、何よりたまに起きてきますからね」
「「ああ……うん……そうか……」」
ベルと声を揃えて返事。
どうやら神樹と一体化してこの国を見守る事に努めるけども、起きたい時には好きに起きて行動するらしい。
俺たちは会うことは出来ていないが、前王の更に前王。更にその前の前王。
エリスにとって祖父と曾祖父も当たり前のように起き、飲食なんかを楽しんでからまた眠りにつくという行動をとるとの事だった……。
「やべえよベル……。まじでエルフが分からねえよ……」
「この種族に対しては深く考えることは止めた方がいいようだな。深く考えれば考えるほど、こちらの思考がおかしくなる……」
と、エルフに対する感想を小声にてやり取り。
そんな訳ないだろう。
弟子の前で涙なんて見せたくないので堪えてからの――、
「マラ・ケニタル――有り難く頂戴いたします」
エリスの前で新たなる愛刀を鞘へと収めて両手で持ち、片膝をついて頭を下げる。
俺の所作にエリスは困惑。
師に頭を下げさせるのは不義だと思っているのだろうけど、
「今は王としての立場で」
と、小声で伝えると、エリスはやおら立ち上がり、
「どうぞ佩いてください」
と、述べ、俺は残火と共に新たなる愛刀マナ・ケニタルを左の腰へと佩く。
「じゃあ次は俺から――」
立ち上がってエリスを見れば、愛くるしい目がキラキラと輝いている。
王ではなく、子供として爛々と輝く碧眼。
側に立つサルタナとハウルーシの胸元にぶら下がった認識票へと輝く碧眼を向けている事から、今度は自分なのだろうといった期待が体から漲っている。
認識票を手にする事で、正式な弟子の証というステータスを得られるという喜びがあるようだ。
――俺の弟子ってポジションはそんなにもありがたいものなのかな?
などと自問しつつも、雑嚢から認識票を取り出せば、エリスは早く首にかけてほしいとばかりに再び片膝をつく。
笹の葉のような長い耳に革紐が引っかからないようにしつつエリスの首へとかけ、
「俺の弟子としての証だ。偏見を持つな。見下すな。精進して己を磨くように」
などと、師匠らしいことを言ってみる。
言ってなんだが、ブーメラン発言なんだよな。
俺にも言えることだからね。
これは後で吐いた唾は飲めないな。と、ベルやゲッコーさんから指摘されること間違いなしだ。
まあ、自分への戒めのためにも発言したとしておこう。
で、俺の発言に、
「無論です。師匠の発言を心底に留めなければ、僕の思う国を皆と共に築き上げる事ができませんから」
と、ブーメラン発言だよな。なんて思っている俺とは違い、しっかりと覚悟のある言葉で返してくれる。
「嫉むな、お前が歩んで行く道だ。嘲るな、お前が歩んで来た道だ。この精神を忘れないように――ですね」
「その通り」
俺の弟子たちはこの発言が好きなようで。
こうなると俺の友人の発言でした。なんてもう言えないな。
この異世界では俺の発言とさせていただく。
「我が師に恥じないように、これからも精進します」
首にかけられた認識票を強く握りしめつつ発するエリス。
その発言を耳にすれば、弟子に恥をかかせない師匠になろうと俺も思います。
――――俺とエリスの一連の動作がいったん区切りを迎えたと判断したようで、前王が謁見の間に響き渡る大きな拍手を行えば、それに続いて喝采が上がる。
対面するエリスと目を合わせると、小さな体はなんともこそばゆい気持ちになっているようだった。
まあ、俺もそうだけどね。
「よい光景を見る事が出来た」
先駆けて拍手を行った前王がそう発せば、水を打ったように謁見の間は静まりかえる。
「これからはエリスがこの国の舵を取る。カトゼンカ卿を筆頭に皆エリスをよく支えてほしい」
言って深々と頭を下げれば、カトゼンカ氏やルミナングスさんを始め氏族の面々は大慌て。
「王がそう簡単に頭を下げますな」
カトゼンカ氏が言えば、
「もう王ではないのでな」
悪戯じみた笑みを向ける前王。
おちょくるやり取りを目にすれば、俺たちがこの国を訪れたばかりの時に抱いたイメージである、王族サイドと氏族サイドの派閥争い――ってのは無かったんだな。と、感じざるを得ない。
ポルパロングとカゲストの存在がいなくなったことも大きいんだろうけど。
「さて――」
大きく吸気と呼気を行い、この場をぐるりと見渡す前王。
「これで思い残すことはないな」
「なんです? まるでこの国から旅立つみたいな言い方ですね」
前王の継いだ発言に対して問えば、
「旅立つことはない。ただ――長い眠りにつくだけだ」
「……え?」
――……長い眠りから連想してしまうのは……、死という一文字。
「トール殿。別段、私は死にはしない」
「ああ、それは良かったです」
本当に安心したよ。
「父が言うように、長い眠りにつくのです」
「……うん……」
エリスよ。長い眠りって言い様は、即ち死を連想させるんだけど……。
「ジロロト大聖堂の最奥にて、歴代の王や氏族は眠りにつくのですよ」
ここでカトゼンカ氏も参加。
完全に俺の知る知識だと死出の旅立ちを思わせるんですけど。
大聖堂ってワードがとくにそう思わせる。
「あ、人間の方々が思うような事ではないですよ」
「でしょうね」
エルフサイドが前王の長い眠りにつく発言に対して、あまりにもノンリアクションだったからね。
何となくだけどそれで理解はしましたよ。
でもさ……。人間と比べて圧倒的に長命な種族が長い眠りにつくって発言をすれば、どれだけ長い眠りって事になるよ。
人間目線だと永遠と思っても間違いないと思うんだけど。
――カトゼンカ氏の説明ではジロロト大聖堂にて眠りにつき、神樹マンドスと一体化することでこの国を見守るという。
といっても、もちろん直ぐにというわけではないそうだ。
エリスが王としてどれだけの手腕を振るうかも見届けないといけないし、何より、これから魔王軍との戦いもあるから、それに対する協力もしないといけない。
前王が長い眠りにつくというのは、それらが全て解決した後の話のようだ。
だとしても――、
「エリスは寂しくないのか?」
俺より遙かに年上ではあるけども、エルフから見ればまだ子供。今まで当たり前のようにいた父親がいなくなるのはやはり――、
「別段、寂しくはありません」
「……あ、そうですか……」
即答ではっきりと言い切った……。
「強がりではないのだな?」
ここでベルからの発言。
「もちろんです。会いたい時は会えますし、何よりたまに起きてきますからね」
「「ああ……うん……そうか……」」
ベルと声を揃えて返事。
どうやら神樹と一体化してこの国を見守る事に努めるけども、起きたい時には好きに起きて行動するらしい。
俺たちは会うことは出来ていないが、前王の更に前王。更にその前の前王。
エリスにとって祖父と曾祖父も当たり前のように起き、飲食なんかを楽しんでからまた眠りにつくという行動をとるとの事だった……。
「やべえよベル……。まじでエルフが分からねえよ……」
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と、エルフに対する感想を小声にてやり取り。
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