異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1228【荒くはあるが面倒見はいい】

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「ピリアの使用はどうしますか?」

「自信が無いなら使ってもいいぞ。俺は使わないけどな」

「じゃあ、自分も地力で」

「よっしゃ! じゃあこいや!」
 このドッセン・バーグの発言を開始の合図として、腰に差していた二本の木剣を手にし、コルレオンから先に仕掛ける。

「速いな。大したもんだ」
 なんて思っている俺の目の前では、ドッセン・バーグがしっかりと腰を落としてからバックラーを前に出して防御の構えで迎え撃つ。
 眼光の鋭さから、先ほどの三人に対応するよりも明らかに警戒することに力を入れているのが分かる。
 
 三方向からの攻撃より、一方向の素早い攻撃の方が警戒レベルは上。
 つまりはコルレオンの実力が三人よりも格段に高いって事だな。
 
 ――左右に持った木剣の切っ先を地面側へと向け、身を低くした疾駆から一足飛び。
 小柄な体が迎え撃つ者の足元へと入り込めば、同時に斬り上げにて先制攻撃。
 
 対するドッセン・バーグは初撃をバックラー。二撃目を木剣にて防ぐ。
 
 先ほどの三人に対するように力任せに防ぐも、コルレオンは両手に持つ木剣を弾かれないように、衝撃を受け流すことで姿勢を維持し、次の動きへと移行しようとする。

「生意気っ!」
 移行しようとするところでドッセン・バーグの強烈な前蹴り。

「おお!」
 コルレオンの次の動きに俺は感嘆の声を漏らしてしまう。
 ドッセン・バーグの前蹴り対し、小さな体では防御は厳しいと判断したようで、自らの足を迫ってくる靴底に向かって押し当てると、強力な前蹴りの威力を利用し、跳躍にて距離を取った。

「コクリコ並みの軽業師だな」
 宙を舞うコルレオンの姿を目にして、ここでも感嘆の声を漏らす。

「逃がさねえよ!」
 着地点を予測してそこへと駆け出すドッセン・バーグ。
 一見すれば粗暴なパワーファイターのように思える人物だが、駆ける姿は敏捷なものだった。
 
 対するコルレオンは着地をすると、迫ってくるドッセン・バーグを見ながら二本の木剣を順手から逆手に持ち替え、先ほど以上に低い姿勢。
 伏臥にも近い姿勢で地面を滑空するように駆ける。
 先ほどと違うのは姿勢の低さだけではない。速度も一段階あがっている。
 これに加えて直線を引くような動きではなく、ジグザク走法のフェイントをいれながらの動き。
 ラピッドを使用しているのか? と、錯覚するくらいの動きには驚かされる。
 これがピリアありきだったら、コルレオンの動きを捕捉するのには骨が折れることだろう。

「でもまあ」
 と、俺が発したところで、

「まだまだだな」

「ぐぅ……」
 フェイントを加えた移動から、自身の間合いに入ったところで逆手で持った二本の木剣を連続で振る――前に、ドッセン・バーグのシールドバッシュが速度で勝る。
 低い姿勢のコルレオンに対し、地面を這わせるようにしてからバックラーをかち上げれば、コルレオンの体が宙に舞う。
 先ほどのような自身の意思で宙を舞うというものではなく、力なく舞うというものだった。
 
 ――前傾姿勢による接近。
 そこにかち上げとなれば顔面直撃は必至。
 犬のように面長な顔であるコボルト。
 鼻っ面に木製のバックラーが当たれば下手したら死ぬよ……。
 手心を加えたのは見ていて分かったけども。
 インパクト時に明らかに打ち込む速度を落としていたからな。
 かち上げるというよりは、すくい上げたという表現の方が正しいかもな。
 
 だとしても、顔面に盾の一撃となれば大怪我には変わりない。

「長棒持ちの新米」

「あ、はい!」
 ドッセン・バーグに食指を向けられれば、手にしていた長棒を地面に置いて駆け出し、力なく宙を舞うコルレオンの落下地点に移動してからの――キャッチ。

「誰か回復をしてやってくれ」
 野太い大声でドッセン・バーグが発せば、周囲でこの試合を目にしていた冒険者の一人が、抱えられたコルレオンの元へと駆け寄る。
 駆け寄るのはコクリコくらいの年代の少女。首にさげる認識票は黒色級ドゥブ
 その少女がファーストエイドと唱えれば、コルレオンは抱えられた状態から直ぐさま自力で立つまでに回復。

「回復魔法を使用できる人材が増えていくことは本当に有り難いことだよ」

「まったくです」
 俺に続くのはダメージを与えた張本人であるドッセン・バーグ。
 即効性のある回復が可能となれば、直ぐさま訓練を再開できるから良い――ということを俺だけでなく周囲に聞こえるように発する。
 何とも怖い笑みを湛えながら。
 威圧と挑発の混じったものだった。
 
 つまりはわざと述べているって事なんだろう。
 
 ここでドッセン・バーグに呑まれてしまうくらいの胆力なら、実戦では竦んでしまって戦いが始まる前に命を失うことになる。
 そういった恐怖心を修練場でしっかりと植え付けつつも、それを克服させるという事に重きを置いているようである。
 嫌われ者の役を買って出ているといったところか。

「手厳しくシゴいてくれているようで。怖い怖い」

「会頭と共に行動しているお二方と比べれば、俺はかなり優しい男だと思いますがね」

「…………確かに」

「痛い経験はさせとかないといけませんからね。実戦と比べれば、修練場でおっちぬ可能性は低いですから。ここでしっかりと心身を鍛えさせますよ」
 ぶっきらぼうで粗暴なようだけども、ちゃんと新人さん達の面倒を見てくれるよい先達である。
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