異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1230【端から習得しとけ】

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 ――ふむん。
 強者から称賛だけを受けるのは――違うよな。
 こっちだって熱心に取り組みたいからこそ、再開を中断させてまで強者であるドッセン・バーグの前に立ったわけだし。

 予定はちょっと変わってしまうが――、

「ドッセン・バーグは強いよね」

「自分なんてまだまだですよ。会頭と比べると羽虫のようなものです」
 いや、どんだけ俺の事を凄いと思っているのかな?
 戦いの場数となれば、若い頃から冒険者をしていたであろうドッセン・バーグの経験値と比べれば、俺なんて太刀打ち出来ないと思っているんだけど。

「臨機応変に戦えるのって相当の経験を積んでいないと出来ないと思うんだけど。間違いなく強者の冒険者だよね」

「会頭にそう言ってもらえるのは光栄の極み」
 俺に接する時の語り方ってのは、まったくもって冒険者らしくないんだよな……。
 というかカイルもそうだよな。
 内のギルドメンバーの厳ついフェイス連中は、存外、品行方正である。
 いいことではあるな。
 そんな強者でありつつ俺には礼儀正しいドッセン・バーグを見ながら、

「俺とも手合わせしてみない?」

「え!?」
 この発言にはコルレオンと新人さん三人だけでなく、周囲で訓練を行っているメンバーや王兵たちもざわつく。
 勇者の戦う姿が見られるなんて! って興奮した声が方々から聞こえてきた。
 ――……やめてほしいものである……。
 バリバリにハードルが上がるからね。
 完封で勝たないと冷ややかな目で見られそうで嫌だな……。
 
 だがしかし。冒険者として多くの経験を持っている人物とは戦ってみたいという感情が周囲の期待よりも勝る。
 自発的に向上心を芽生えさせる事が出来る俺は、ベルやゲッコーさんに褒められてもいいと思うの。
 特に前者の好感度が爆上がりしてほしいよね!
 今現在、この場にはいないけどな。
 白毛のケサランパサランに首ったけだろうからな……。
 
 考えると寂しくなってくるので、

「てなことで、やろうぜ!」
 と、快活良く発する。

「いや、しかし……」
 おう、さっきまでと違い、強面が焦り顔だな。

「いやいやいや、さっきまで勢いのままに指導してたじゃない。さっきも言ったけど、俺も熱心に取り組みたいんだよ。俺にも熱心にぶち当たってくれよ。じゃないとさっきまで訓練を受けていた者達からビビってるって思われるぞ。俺に対して恭しくするだけってのは格好悪い~って思われるぞ」

「いや、思われないでしょう。会頭に対して恭しくするのは当然。むしろ崇拝すべきです」
 ――……挑発気味に口角を上げて言ってみたら、予想外の答えが返ってきた……。
 なんだよ崇拝って。
 それはマジで止めて……。俺はそういったポジションじゃないからさ。
 
 ええい! 仕方ない。上からな言い様は好きじゃないんだけども――、

「じゃあ、俺が稽古をつけてやるよ」
 と、傍から見てたら全力でぶん殴りたくなるくらいに偉そうに言ってみる。

 更に――、

「会頭であり勇者である俺が稽古をつけてやるって事は――中々にレアだよ」
 俺自身が俺を殴りたいって思える言い様だし、この場にベルとゲッコーさんがいたらなら、間違いなくえらい目にあっているだろう。

「分かりました!」
 よしよし。やる気になってくれたなドッセン・バーグよ。
 本当はマイヤに稽古をつけてもらいたかったんだけど、受けた攻撃を力任せに払いのける姿に、俺の二刀流がどこまで通用するかってのを試したいからな。
 両手持ちの一振りと違って、片手で振る攻撃がドッセン・バーグのバックラーを押し切ることがはたして可能なのか。
 
 ――などとこれからの試合をイメージトレーニングにて組み立てていこうとしていると――、

「オラッ! お前等こんな機会は奇跡に近いぞ」

「――――ん? へ?」
 ドッセン・バーグよ。どこを見て言っている?

「しっかりと胸をお借りしようじゃねえか!」

「「「「はい!」」」」
 ――……元気な返事ですね。
 期待に満ちあふれたキラキラな瞳で俺を見てくるのは、先ほどまでドッセン・バーグに指導を受けていた四人。
 
 ええっ!? 一対五じゃん! ――といった恰好の悪い発言や表情は出来ないよな。
 ドッセン・バーグは三人を相手にした後にコルレオンの相手もしていたからな。
 勇者でギルド会頭の俺が、一対五の構図に対して不満は絶対に漏らせない。

「よっしゃ! まとめて来いや!」
 としか言えないのよ。
 自分で自分の首を絞めていくタイプなのよ……。

「一対多という構図。同意と見てよろしいですね」

「ぬう!」
 背後からの声。そちらを見なくても声の主は分かる。
 でもって立ち方も想像に難くない。
 振り向けば――はたして正にのガイナ立ち。

「コクリコ」
 高いところが大好きなのはいつものこと。
 修練場のハリボテ建造物の屋根に立ち、黒と黄色の二色からなるローブを靡かせる。
 靡くローブの胸元部分にぶら下がっているのは、今までの白色のものではない。

「とう!」
 助走もつけずの跳躍であるが――、なんなく俺の前へと華麗に着地。
 軽々と跳んでくるもんだよ。

「とりあえず黄色級ブィへの位階昇格おめでとう」

「有り難うございます」

「助走もつけずにここまでの跳躍力。コクリコ――ラピッドやインクリーズなんかも習得したな」

「ええ。サクサクと習得しましたよ」

「インスタントでか!」

「――――はっ!」
 この馬鹿にした鼻での笑い。
 どうやら実力での習得のようだ。
 わずか一日か。
 使用者に手を当ててもらってのお手軽なものではなく、一日で自力による習得。

 まあ実力からして直ぐさま習得できるのは当然か。
 俺には悪意ある習得方法でタフネスを覚えさせていたが、あの時点でコクリコはタフネスを使用できていた。
 初歩のピリアを覚えようと思えば、取得できるだけの実力は既に有していたわけだもんな。
 ネイコス方面も今では初歩から中位魔法まで使用できる。
 マナのコントロールによる初歩ピリアは直ぐに習得できて当然なんだよな。
 
 ――……本当に……。自分のこだわりだったのかしらんが、なんで今の今まで覚えなかったのか……。
 マナのコントロールは俺よりも遙かに秀でているくせに。

「アホめ」

「はあぁぁぁぁん!!」

「ああ、悪い悪い。つい本音が口から出てしまった」

「そこはせめて口が滑ったに留めていてほしかったですね。なんですか本音って!」

「固定観念に縛られていたな~って思ったからな」
 ネイコス――つまりは魔法を使うことに傾倒したいという理由で単純に覚えなかったというお馬鹿さん。
 そもそもが格闘や零距離魔法を使用するような無鉄砲さがあるんだから、タフネス以外にも肉体強化は必要不可欠だったろうに――。

「ど阿呆め」
 と、余計に思ってしまい、一度目よりもきつめに口から出てしまう。
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