異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,236 / 1,861
発展と鍛錬

PHASE-1236【下着よりも防具を優先だったな】

しおりを挟む
「仕留めさせていただきます!」
 胸部と背中を襲う衝撃。呼吸を整えるいとまも与えてくれないドッセン・バーグによる刺突攻撃。
 迫る切っ先を見つつ、体をゴロゴロと転がしてなんとか逃げ切る。
 無様な姿ではあるが、逃げ果せる事は出来た。
 
 先ほどまで倒れ込んでいた場所からは、ドスッといった鈍く強い音。
 木剣が突き刺さる地面では、衝撃で雑草と土が舞い上がっていた。

 ――……いやいや……。

 火龍の鎧を装備していても、ただでは済まないといった威力を目の当たりにしてしまう……。

「仕損じましたか」
 舌打ちと共にコクリコが発せば、

「流石は会頭」
 と、木剣を地面から引き抜きながら称賛と感嘆による笑み――なのだが、行動に似つかわしくない笑みってのは……、サイコパスのソレなんだよな……。

「本当に素晴らしかったですよトール様」
 ドッセン・バーグに続くランシェルからの称賛。
 三者の感想を耳にした次にはドッと周囲から歓声が上がる。
 先ほど以上にギャラリーの数が増えていた。
 ギルドや野良の冒険者だけでなく、王都兵もかなりの人数が集まってきている。
 今の猛攻をよくもまあ凌げたもんだと感心してくれている声が聞こえてくる。
 
 嬉しくはあるけども、喰らってる時点で凌げてはいないんだよな……。
 ドッセン・バーグのトドメの刺突を避けるのにも一杯一杯だったし……。
 
 まったくもって――、

「泥臭い抗い方が如何にもトールらしいです」

「だよな」
 俺が思っていたことをしっかりと代弁してくれるのは、俺にこの試合でダメージを与えてきたコクリコ。
 俺に衆目が集まっているからそこには若干の嫉妬も垣間見れるが、言っている事は間違っていない。
 優雅でしなやかに体を動かし、相手の攻撃を躱したり捌くってのが出来れば格好いいことこの上ないんだがな。
 特にギャラリーが増えればそういった思いも心底には芽生えてくるというもの。
 ギルドメンバーには会頭として。王都兵には勇者として。
 どちらが目にしても格好のいい存在でないといけないという責任感ってやつだ。
 そんな中で蹴撃をくらって地面に叩き付けられた事は、やはり恥ずかしい。

「動きは泥臭くても、懸命に動き回り勝利を掴もうとする。その時宜が訪れるまで耐えてくるのがトールの美点です。皆、気を抜かないように」
 あら珍しい。
 普段なら自分よりも目立つ者に対し、嫉妬を物理に変えてぶつけてくるのがコクリコなんだけどな。
 まさか言葉による高評価を与えてくるなんてね。

「会頭が素晴らしいのは当然なわけだが――コルレオン! なっちゃいないぞ!」

「すみません!」

「元気なのは返事だけですね。動きはまったくもって駄目じゃないですか」
 ドッセン・バーグとコクリコからのおしかり。
 理由は明白。
 四人で仕掛けるつもりだったんだろうが、技量の差が出てしまったのか、コルレオンは先ほどの攻撃に参加できなかった。
 他者に合わせることを得意とするドッセン・バーグではあるが、やはり合わせるとなると戦闘に場慣れしているコクリコやランシェルに合わせてしまうようだ。
 若輩へのフォローよりも、勝ちに行くために力がある方に合わせてしまう。
 結果、コルレオンと周囲の技量の差が顕著になってしまった。
 周囲がコルレオンに合わせればいいんだろうが、そうなると全体の動きが鈍くなるのは必至。
 
 強者からすれば、出来ないなりにもコルレオンには自分が出来る範囲でアクションを起こしてほしかったんだろうな。
 尻尾を腕に巻き付けての意表を突く行動はよかったんだけどね。
 あれ以降を上手く続けられなかったな。
 
 別段、俺に直接しかけることに参加しなくてもいい。仕掛ける素振りを見せて俺の気を散らすってだけの動きをしても良かったんだろうけども――、

「よいやさ!」
 こういった考えを俺がするって事は、相手も同様の考えをしていると判断させてもらう。
 なので反省はこの試合の後にでもしてもらおうとばかりにコルレオンを狙う。

「通しません」

「そのムーブは正にランシェルだな」
 真っ先に人のために盾となるタイプとなると、ランシェルがこの面子の中では図抜けている。
 コルレオンと俺の直線上を遮るように横合いから干渉してくるランシェルが迎撃の姿勢――を整える前に仕掛けさせてもらった。
 右の上段を左のトンファーで防がせるように打ち込む。
 姿勢が整っていないことからガードに専念させることに成功。
 カウンターの可能性は低いと判断しつつも、動きを封じるように右の上段をそのまま維持し、力任せに押し込んでランシェルの動きを制する。
 と、同時に左の木刀で横薙ぎ。
 狙うのは当然、俺の上段を防ぐ為に左腕を上げたことでがら空きとなった横っ腹へと向けての横薙ぎ一閃。

「くぅぅぅ……」
 ドスッといった鈍い音の胴打ちがランシェルに直撃。
 と、当時に、俺の胴打ちに対抗して右に握ったトンファーで殴打を仕掛けてきた。
 
 カウンターとして見れば一手遅れた一撃だったけども、ただではやられないといった気概を伝える殴打は俺の頬をかすめていった。
 こちらの胴打ちは綺麗に入ったというのに、膝をつかずに殴打を打ち込む姿は雄々しかったぞランシェル。
 だが殴打ではなく、残ったトンファーは俺の横薙ぎを防ぐ為に使用するべきだったな。

「ランシェルはここで終わり」

「え!? まだやろうと思えば……」
 苦痛に歪む表情で俺に訴えかけてくるので、

「マイヤ」
 と、審判である立場の存在に判定を問う。
 この間、残りの面子は仕掛けてくることなく審判の判定待ち。

「ランシェルはここまで。真剣なら無事ではすまない。まして会頭が使用するのは残火と最高のミスリル刀。間違いなく今の一撃で絶命。残火でなくてもその服装だと、どのみちなまくらでも絶命でしょうけど」
 淡々と判定を下すマイヤに対し、

「うぅぅ……」
 よほど悔しかったのか、歯噛みしつつ口惜しそうに俺を見てくる。
 負けん気が強いことはいい事だ。
 次ぎの成長に繋がるからな。

「勝てばトール様を好きに出来たのに……」
 ――……負けん気ではなく、そっちでの悔しさかよ……。
 ――……うん……。女性物の下着よりも先に、防具を装備するべきだったな……。

「ここでランシェルを倒すとはやってくれますね! コルレオン――期待しますよ!」

「はい!」
 コクリコに呼応してコルレオンが動き出す。
 先ほど攻撃に参加できなかった失態を払拭させるかのような敏捷な動き。
 ドッセン・バーグに指摘された事を糧とし、ジグザク走法にて俺へと迫ってくる軌道は正面からではなかった。

「ちゃんと実行できてるじゃねえか」
 指摘したドッセン・バーグが喜色の語調。
 虚を衝く。または虚を生み出す動き。
 パーティーの主役にはなりにくいが、脇役が輝くから主役も輝く――か。
 正に強者二人を輝かせるような動きだ。

 仕掛けてきそうで仕掛けてこない距離感を保ちながら、俺に圧を与えてくるコルレオン。
 そんな動きを警戒しつつ、動く先では強者が二人待ち構えているという光景。

「見事な誘導だな。グッボーイ」
 ポツリと零す独白にてコルレオンを褒める。
 牧羊犬に誘導されている羊の気分だった。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...