異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,247 / 1,861
発展と鍛錬

PHASE-1247【一気飲み回避】

しおりを挟む
「――――!? あ、なるほどね」

「どしたよ。急に」
 突然の俺の大声に、目の前のギムロンが怪訝な表情へと変わる。

「いやな。物言いはキツくておっかないけど、ドッセン・バーグって新人さん達に優しいんだなって思ったんだよ」
 ランシェルを除き、昨日の内容を知らない眼前の面々は、頭に疑問符を浮かべるように揃って首を傾げていた。

 ――新人さん達を鍛えている最中、中身がポーションの小瓶を同時に四人へと投げ渡していたけど、小瓶のサイズを見た時、量の少なさから訓練用の仕様かなにかなのかと思っていたが、冒険、クエスト時に使用するものと同様のモノを投げ渡していたんだな。

 俺達が王都にいない間も、身銭を切りながら新人さん達の面倒を見ていたんだろうな。
 毎度、同様の事をしているとなると、結構な個人出費をしてくれているんだろう。
 ドッセン・バーグ――出来たおっさんである。
 以前と違って今度は真心から食事を奢らせてもらおう。

「何とも満足げな笑みを湛えているから、思い出している内容はいいもののようだの」

「まあね」
 ぶっきらぼうだけども面倒見は良い。ああいった人物に育てられれば強い冒険者となってくれるだろう。

「で、トールの感想は?」

「これからは今までの半分の量ですむから携行する量も増える。つまりはそれだけ現場で活動する面々の生存率も高くなる。嬉しいことこの上ないね」
 問うてくるシャルナへと返せば、ドヤッとした態度で胸を反らしてくる。
 俺達が王都にいない間、この酒蔵で技術を高めてくれた方々のおかげなんだけどな。
 ――まあ以前、素材集めなんかを頑張ってくれていたシャルナだからな。ドヤる権利はあるとしよう。

 しかし――だ。

「携行量が増えるのは喜ばしいけども、比例するように小瓶の携帯量も増えるよな。むしろ雑嚢なんかの収納にはかさばるような気がする。これなら今までの小瓶に入れて二回に分けて使用したほうがよくないか?」

「ベテランならそれでもいいかもな。だとしてもワシは新しい小型の小瓶を選択するけどの」

「なして?」
 ヒゲをしごくギムロンに問えば、デカイ拳を作ってそこから拇指だけを立て、それをゲッコーさんへと向ける。
 向けられた人物はそれに合わせるように、グラスに注がれた飴色の液体をグイッと一気に飲んでみせる。

「――と、いうわけよ」

「なるほど――ね」
 ギムロンが何を言いたいのか直ぐに分かった。
 前線で戦闘に参加する者達がポーションを飲むという状況というのは、当然、眼前では敵が攻撃を仕掛けてくる可能性が高い時。
 戦いの最中となればベテランであっても焦りが生じるもの。
 今までの小瓶に入れていたら、興奮と焦燥が入り交じる戦闘時に飲んだり体にかけるという動作をすれば、目の前のゲッコーさんのような一気飲みや全部を体に塗布する可能性が高い。

 ――というかそういった選択をしてしまう可能性しかない。
 俺だったら間違いなく一気に飲むからね。
 二回分の使用が可能なポーションを一度で使い切ってしまえば無駄な消費となってしまう。

「ギムロンが新しい小瓶を携帯するって理由に納得だな。俺もそっちを選択するね」

「じゃろ。確かに携帯するとなるとかさばるかもしれんが、命を預けるアイテムが増える事に越したことはないからの」

「しかり、しかり」
 上機嫌なゲッコーさんが相槌を打つ。

「王都に戻ってからは戦士――兵士の休息を満喫してますね」

「さもあろう、さもあろう」
 酒を飲むペースが早いみたいだな。
 俺達がここを訪れる前から飲んでんだろうしな。まだ朝なのに。
 まあ今までが大変だったから大目に見よう。わずかな期間だけど王都にいる間はゆっくりとしてもらいたいからな。

「お! 偉いぞトール。酔っ払いを目の前にして可哀想な目で見てこなかったな。まるで楽しんでほしいといった優しさのある目だったぞ。流石は勇者。その微笑み――俺は嬉しいぞ」
 これは相当に酔っておられる。
 ここまで上機嫌な姿ってのは本当に珍しい。
 有事では冷静な行動をする人物だが、その姿からはあまりにもかけ離れている。
 こんなゲッコーさんは初めて目にするかもな。
 
 こっちの心を読んでくるところは酔っていても流石は伝説の兵士といったところだけども。

「あんまり飲みすぎないでくださいよ。体に毒ですからね」

「フッ――肝臓がシビれ上がってからが本番だ」
 なんて素敵な声の無駄遣い……。
 ものすごく格好いい渋声で、ものすごく恰好の悪い飲兵衛発言をしたもんだよ……。
 ベルがこの場にいたら間違いなく鉄拳による制裁が下されただろうな。

「フッ、今は子グマにくびったけだからな」
 ――……いやもう本当に……。人の思考は飲んでいても読めるのは流石ですよ。
 歴戦で培ってきた経験則により、相手の表情から心中を読めるのは凄いんだけども、いまここでのソレはスゲー才能の無駄遣いですね。

「そんな残念な目になるなよ。トールだけでなくシャルナとランシェルもな」
 ここでギムロンが残念な目にならないのは、同じ飲兵衛仲間だからなんだろうな。

「お三方。この酒蔵一帯ではポーション以外の事でも励んでいるんだからな。そこでの評価も頼む」
 だからそんな目を向けないでくれと言いつつも、レードルを手にして直ぐさま瓶から酒を注ぐ姿を見せられれば評価は渋いものになりそうですよ。

 ――グラス片手に飲兵衛と化したゲッコーさんが先頭を歩き、それに続いて酒蔵を後にする。

「シャルナは何に励んでいるか知ってんの?」

「ううん。私は酒蔵でポーション制作の手伝いをしてたくらいだから。それ以外は目にしたことがないんだよね」

「そうか」
 酒蔵は西門付近にあるギルドハウスからしたら真反対の東門側にあり、王都の中でも中々に足を向けることはない。
 だがこっち方面も以前と比べると、酒蔵以外にも発展していた。
 
 その証拠とばかりに新しい建物がいくつか建設されている。
 そんな新しい建物の中から俺達が目標として足を進めていくのは――木造平屋。
 
 外観からして建設された建物の中でも真新しいものだというのが分かる。
 新しい木造建築が醸し出す、木の良き香りを堪能できそうだな。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...