異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1282【酒、大事】

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「成長を求めるのは良き事です」
 研鑽を積むことを誓うタチアナに、上からな言い様によるコクリコ。

 この発言に対して、

姑娘クーニャンは言うだけあって実力は本物になっているようだ」

「くうにゃん? まあ高順に褒めてもらえるのは誉れですね。今はタチアナとは並んでいますが、私はその先を行かせてもらいますよ」

「負けません」
 競い合う事も良い事だ。
 これから行く所では戦闘になる可能性が大。だからこそここで体力をつけないといけません。と言えば、コクリコは目の前にある大きな生ハムの塊にかぶりつく。
 その姿にタチアナも負けじとかじりつく。
 周囲もそれに呼応するように食べて飲む。
 潤沢な食事風景。

「最前線の糧食が豊かだということは、その背後で守られている者達は更に豊かってことなんだよな~」

「守るに値するからこそ皆、励む。むろん私も」

「感謝しか述べる事が出来ません」
 微笑む顔に俺は短く返す。
 酒を飲まず、賄賂も受け取る事もなく、私的に物資を使用しない。というかそんな事を考えたこともないんだろうな。
 賄賂を受け取らないからこそ平等に見る事が出来る。
 酒を飲まないから有事に対しても即応できる。
 私的流用をしない事で、下にいる者達もそれを手本とする。
 武人としての精神は、すでに到達点へと至っている人物。
 そうやって褒めたとしたら、自分などまだまだ。としか返ってこないんだろうけど。
 
 だが、こんな人物が中心となって守ってくれている要衝となれば、トールハンマーの背後で生活を送る者達は安堵の中で過ごす事が出来るというもの。
 ここに来るまでに街道で出会った、旅をする人々の表情からもそれは伝わってきた。

 先生がこの要塞を高順氏に任せるのも分かるってもんだ。

「いまでも先生の事を嫌っていますか?」

「おかしな事を聞くものだ。別段、知者の事は嫌ってはいない。曹操の知恵者というのを加味すれば不快感もあるが、今は私怨で行動するような状況ではないからな。先ほども述べたが認めてはいる」

「同じ脅威に対して、私怨を捨てて共に歩むってことですね」

「曹操の側にいたのだからな。あやつの知恵の中には我々を苦しめた策もあったのかもしれんが、勇者が言うように、今は足並みを揃えるだけだ」
 言って杯に入ったお茶を一飲み。
 精悍な顔立ちで、伸びた背筋による所作はハードボイルド。
 お茶であってもハードボイルである。

 最近は酒ばかり飲んで、ハードボイルドのメッキが剥がれかけてきている――気がしないではない伝説の兵士とは大違いだ。

 俺のそういった心の中での感想を代弁するかのように、

「おっちゃん、格好いいな」
 と、俺の肩に座るミルモンからの称賛。

「そうかな?」

「おう。オイラ、おっちゃんと仲間で嬉しいよ」

「そうか、それは喜ばしい事だ」
 ――……まあ、この人の場合、酒じゃなくて可愛いモノを目にすると若干ダメになるような気がしないではないが……。
 ――……ベルに比べれば全然、問題はないけども……。

 ――――。

「ゆっくりと出来たかな?」

「はい。最前線の要塞とは思えないほどに安心感に包まれて休む事が出来ましたよ」

「なによりだな。山城の下層部から街道までの道案内はするが、その後は――」

「アラムロス窟までの道はパロンズ氏がいるんで問題ないです」

「そうだったな。だがこの要塞から出れば窟までの間はなにがあるか分からん。装備は整えておくように」

「分かりました」
 流石は部下の装備を良い物で揃えるだけの武人なだけあって、装備に対してはこだわりが強い。
 アラムロス窟へと向かう俺達をぐるりと見て――そして止まる。
 高順氏の視線を追えば――コルレオンと目が合う。

「な、なんでしょうか……」
 向けられる視線に自分の準備に不手際でもあるのかと体を見渡すコルレオン。
 修練場で使用していた装備と違い、実戦用は黒塗りの鎧皮からなるレザーアーマーの上に、つや消しされた金属のブレストプレート。
 ショルダー部分がないのが、素早さを重視するコルレオンらしい防具。
 頭部はレザーアーマーと同じ素材と色からなる兜。
 人間なんかと違ってコボルトの耳は頭の上部分にあるからか、兜の頂部にはイヌ耳に負担がかからないように、その形に合わせたような作りになっている。
 デザイン的にはネコ耳フルフェイスヘルメットを彷彿とさせる。
 コルレオンの兜は顔がまる出しで、頭部と顔側面を保護するタイプだけども。

「――防具はズレていませんし、武器も携帯していますよ」
 強者である高順氏にじっと見られた事で呑まれてしまったのか、コルレオンは何処が悪いのか言えないでいた。
 なので俺が変わって返答すれば、はたとなる高順氏は、

「ああ、そうだな」
 そのリアクションで分かるのは、コルレオンのイヌ耳兜を装備している姿が可愛かったということで見ていたってことだな……。
 この辺がハードボイルドレベルを下げてしまうな……。
 うん。ゲッコーさんのメッキが剥がれかけていると思ったが、この人も大概だ。

「じゃあ、皆の装備に問題はないようなので行きます。後、お酒ありがとうございます」

「気にするな。ドワーフに会うのだから酒は必須になる」
 この要塞には鍛冶場もあれば補強作業も行ってくれるドワーフたちもいるので、酒は必要な飲み物。
 加えてアラムロス窟も近くにあることから、交友のためにも酒が使用されており、王都から先生の指示で定期的にここへと運ばれてきているそうだ。
 ギムロンも言ってたもんな。ドワーフは美味い酒さえ飲ませてくれたら協力してやるって。

 ふむん――、

「大きな湖なんかがこの近くにあれば――」
 って、リオス町の近くにあったな。今回の目的地からは逆方向になるが。

「アラムロス窟には巨大な地底湖があります」
 と、パロンズ氏。
 規模を聞けばミズーリを召喚するのに十分なものだった。
 窟に住まうドワーフ達の生命線でもある水は、主に酒造りに使用されているという。
 どこまでいっても酒と共にいる種族なんだな。

 ――。

「軍用トラックに酒の積み込みも終わったので行きますね」

「本当に不思議な力だ。喚び出して積み込み――戻す。それだと運搬も楽だ」
 呆気にとられる高順氏。
 以前の知恵を利用させてもらう。
 リンのダンジョンでの応用。
 軍用車両であるMUTT君にダンジョンで獲得したアイテムを収納したように、ここではトラックに大量の酒が入った樽を積み込む。
 ダンジョンは通路が狭くてトラックを召喚することは出来なかったからMUTT君を選択したが、要塞だと余裕で召喚できる。
 アイテムボックスとしても活用できるのは最高だな。
 召喚する場所を考えないといけないのが欠点ではあるが。

「では出立します。この要塞で励んでくれる皆さんの武運長久を祈っております」
 酒の積み込みを手伝ってくれた高順氏を始め、ロンゲルさんやその部下の訛り兵士の面々にお礼を伝える。

「少しでも異変があれば即応するだけの練度は積ませている。なので心配は無用。祈りの言葉は感謝として受け取り、我々からも無事を祈らせてもらう」
 有り難い発言だ。
 高順氏とその下で鍛え抜かれた面々が目を光らせているから、この要塞と一帯は不落の地となる。

 その間に俺達がやらないといけない事は、瘴気を取り除いて南伐へと行動に移すための道を切り開く事だ。
 
 この地が最前線から後方の拠点へとなるように励まねば!
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