異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1296【堪能】

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「ちなみに私はリンと戦い、激闘の末――私は勝利しました」

「「「「へぇ!?」」」」
 ここでも皆さん一緒になって、コクリコの発言に驚いてくれる。
 そのリアクションを見る発言者は胸を反らしつつも、チラチラとこちらを見てくる。

 分かっていますよね? ――的な思いが伝わってくるので、

「まあ、うん。倒したのかな~」
 そう返しつつシャルナへと顔を向け、俺に続くように。と、目で促せば、

「だね~」
 と、二人で掩護。
 俺達の掩護を受け取れば、ふんすっと鼻息を一つ。
 勇者と上のエルフからの肯定により、本当なのだと知ったドワーフさん達は、コクリコに対して恭しく頭を下げていた。
 その対応にますます気をよくして、そこはかとなく成長した胸をますます反らすコクリコの顔は天井を見上げている……。
 あのまま反らしていけばバク転につながりそうだな。
 にしても……。私達ではなく、私が倒したと言うところがコクリコらしいよ。
 成長しているようで、調子に乗れば独占欲を前面に出して悦に入るところは変わらない。
 変われないし、変わるつもりもないんだろうけど。

「それはそれとして、どうぞ楽しんでください」
 せっかく冷えた状態なんだからな。ぬるくなる前に飲んでいただきたい。
 ミスリル製タンカードの登場から話が脱線してしまったので、ここで軌道修正とばかりに、栓抜きで王冠を取ってから注ぐ。

「勇者からの酌とは光栄だ。ほう、ラガーだな。強くはない酒だが好きだぞ」

「ならもっと好きになってくれますよ。のどごしを楽しんでください」
 と、のどごしがなんなのかをちゃんと理解はしていないが、ゲッコーさんが口にしていたのを耳にして、口から出しているだけの薄っぺらい説明と共に注ぎつつ、タンカードの縁から泡が出てきたところで、

「さあ、どうぞ」

「おう!」
 勧めると豪快にグビリ、グビリと喉から音を出して勢いよく飲んでいく。
 ――最初は目を閉じていたが、喉から音を数回だしたところで目をクワッと見開けば、コクリコに負けないくらいに胸を反らして天井を見上げながら飲み干す。
 ――全てを飲み干し姿勢を戻す親方様。

「……」

「……あの。どうでしたか?」
 ――……飲み干してから一言も発しない親方様。
 周囲は早く感想を聞きたいようだし、早く飲みたいという思いもあり、両方の思いが混ざったゴクリという音を喉から鳴らす。
 石庭という場もあって、静寂という二文字が似つかわしい。

「――ムッフゥゥゥゥゥゥゥ――――」
 その静寂を打ち破る豪快な鼻息。
 口周りのヒゲに付着した泡がその鼻息で吹き飛ばされ、

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 継ぐ声も鼻息のように豪快なものだった。
 間違いなく館近くの目抜き通りで酒を楽しんでいた面々にも聞こえたであろう大音声。

「なんなのだこのラガーは! こんなもんを作れるのがこの世の中におるんかい!!」

「お、親方様?」
 ダダイル氏の呼びかけが聞こえないほどに興奮し、二杯目を欲することに集中しているようで、タンカードを俺の方へと突き出し、

「もっとくれい!」

「はい喜んで」
 目を血走らせての催促に言われるままに酌をすれば、もう待てんとばかりにタンカードに注ぎきる前に口へと運ぶ。
 一杯目よりも速く飲み終えると、

「雑味もなくキレも良い。喉に来る刺激――。どれをとっても文句なしのラガー! というよりこんな美味いラガーは我が人生、百四十七年において初だ!」
 百四十七歳なんだな。
 大絶賛の親方様を目にして、もう辛抱たまらんと他のドワーフさん達が我も我もとビール瓶へと群がってくる。
 タンカードを手にするのは近衛さん達だけでなく、パロンズ氏とダダイル氏もその中に入っていた。
 二人はともかく……。本当に近衛さん達よ~……。
 仕事してね~……。
 
 呆れている中で、

「注いで~」
 と、ゲノーモスたちもペットボトルのキャップよりやや大きいカップを掲げて俺へと催促してくる。
 俺とシャルナ、コクリコにタチアナ、コルレオンがドワーフとゲノーモスに対応。
 やはり野郎ということもあるのか、俺とコルレオンに注がれるよりは、美人、美少女に注がれるのがいいようで、男性陣の酌作業は楽だった。
 
 ――皆さんに注ぎ終えると、

「本日の出会いに!」
 なんとも簡素な親方様の挨拶。
 この国のまとめ役としての挨拶なのだから、もっと気の利いた内容であってもいいだろうと思いつつ、これがドワーフという種族なのかもな――とも思う。
 何よりも、挨拶より注がれたビールを一気に口に運びたいという欲のほうが強いんだろう。
 我慢できないと、挨拶がすんだと同時に皆して豪快に喉を鳴らして飲んでいく。
 一口、二口と進むにつれて、飲んでいく皆さんの表情がほころんだものへと変わってくのが分かった。
 この表情を見る限り、俺達のお土産チョイスは間違っていなかったと自信を持てた。
 小さい体でありつつも、ゲノーモスたちの飲みっぷりもドワーフ顔負けである。

 口周りに泡が出来れば、

「おヒゲ~」
 などとお互いに言い合って、キャッキャと笑い合っていた。
 ベルがいたら間違いなく可愛さに悶絶していたことだろう。

 ――ゲノーモス達の愛らしさと酒豪さに笑みを湛えて眺めているところで、

「実に最高であった! 強い酒もよいが、喉にくる刺激を楽しむというのであれば、このくらいの方が丁度いいのだろうな」
 度数が強すぎると刺激よりも熱さを感じるからってことなんだろうね。
 この辺は挨拶程度でしか嗜むことがない俺でも分かるというもの。

「あと、これもどうぞ」
 木箱に最後に残ったブランデー一本は親方様専用ということで俺から手渡せば、周囲からはズルいですな! という声が平然と上がる。
 このやり取りからして、ドワーフの上下関係ってのは結構フランクなのかもしれない。
 でもってソレを奪い取ろうと、親方様に迫る近衛たち。
 近衛からブランデーを守るように親方様は両手でがっちりと持って抱きしめれば、捕まってなるものか! と、石庭を走り出す。
 
 自らが整えた玉砂利の部分を自らが荒らしながら走る親方様と、それに続く近衛の面々とゲノーモスたち。
 ゲノーモスたちは追いかけっこが楽しいといったところだが、近衛の面々はわりかし本気で追いかけているというのが、目力と気概から伝わってきた。
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