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矮人と巨人
PHASE-1308【腸抉】
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――簡単な朝食をすませて水を一飲みする中で、俺の左肩では元気になったミルモンが、
「どうする?」
「もちろんお願いする」
主語がなくても意思疎通。
それが嬉しかったようで、ミルモンは笑顔のままに瞳を閉じてムムムッ――。と、見通す力を使用してくれる。
――見開いてから小さな食指を向ければ、前日みたくシャルナがその指先に従って樹上へと跳躍。
有能なスカウトを先頭にして、木から木へと移動するその下を隊伍を組んで俺達が続くというのも先日と同様。
――。
「ふむん」
「なんだ? 難しい顔なんて似合わないぞ」
「私がトールに言いそうなことをトールに言われたくないです」
「で、どうしたよ」
「物足りないですね」
「朝食の量がか?」
「それもありますが、冒険している感が」
「それは大いに賛同するよ」
と、俺の左肩からコクリコに同調する声が上がる。
同調を受けてコクリコが発言を続ける。
ただ森の中を歩いているだけ――だと。
脅威が少ない。ハラハラドキドキなスリリングさが足りないとのこと。
「なんて嫌な考え方なんだよ二人とも……。何事もなく目的地に近づけるのは良いことじゃないか」
二人に反論すれば唇を尖らせる。
脅威として唯一あらわれたのが、巨大ムカデのアジャイルセンチピードだけだったというのも不完全燃焼の原因のようだ。
あのムカデ、レベルは40前後あると思うんだけどな。それを物足りないと思えるだけ、コクリコも強くなっているのは嬉しいけども。
危険を求めているのは宜しくない。俺はNot welcomeの精神を貫きたい。
「何か来る!」
――…………貫きたい……。
――……貫きたかった……。
唇を尖らせていた二人が樹上からの警戒色ある声に、途端に口元の形を変える。
口角を上げるという形に……。
口角は上げつつも、身構える事が出来ているコクリコは場慣れしている証拠。
反面ミルモンはそれが出来ていなかった。
構えるとほぼ同時に、
「矢!」
と、鋭い一言が樹上から届く。
「イグニース」
即対応。
地上移動組の全員を守るように炎の障壁はドーム状で顕現。
樹上のシャルナへと目を向ければ、幹を盾にして射線から身を隠す。
その確認の中で、こちらへと飛んでくる矢が地面や木々に刺さる――。
「へたっぴ」
と、コクリコ。
「警告だったのかもよ」
「そんなわけないでしょう」
「だよな」
結構な矢を同時に放って警告なんてありえないもんな。
放つにしても一本くらいが警告には適しているよね。
となると、本気で狙ってきたと考えていい。
「狙ってコレか?」
「会頭が思うように練度は低いようですが――」
地面の石に弾かれた一本が障壁の外側で転がり、それをパロンズ氏が凝視。
俺もそれに続いて鏃を見やる。
「石鏃じゃないですね」
「鉄鏃ですね。しかも尖矢の作りは腸抉。突き刺されば回復手段がない場合、抜くのは苦痛を伴います」
鏃底辺の両側の逆刺という、釣り針のカエシに似た部分が大きな形状で目を引く。
体に刺さり、抜けばその逆刺によって臓器を大きく損傷させるという作り。
矢に疎い俺でもこの形状は知っている。
戦国時代を題材にした漫画の中では、武田腸抉ってのが有名だった。
「こういった技術をもった脅威は――」
コクリコの問いに対し、
「この森にここまでの物を作れる存在は……」
即答で返すパロンズ氏だが、発言の後半は尻つぼみ。
「現にいますけど」
歯切れの悪さに対して、コクリコは歯切れ良く返す。
「ですね……」
想定していなかった鉄製からなる鏃の存在に、パロンズ氏は困惑していた。
「やり取りはそこまでだな二人とも。――来るぞ」
今は迫る脅威に対処しようと伝えれば、言われずとも既に迎撃の姿勢。
隊伍を整えるのを確認してからイグニースを解除。
同時に抜刀。
次に飛んでくる矢は、俺が伝える事をしなくてもタチアナがプロテクションにて防いでくれる。
対して相手は、第二射と共に距離を詰めてきているのが木々の揺れから分かった。
「樹上移動だな。軽業な連中のようだ。弓の扱いはともかくとして、動きの良さから鍛えられている連中」
――だと思ったから口に出したんだけども……、
「女!?」
こちらに女が存在していると分かった途端。こちらが誰何する余裕もなく女性――シャルナへと目がけて木々から木々を移動し、大の字になって躍りかかってくる鎧兜の存在。
「おらっ!」
躍りかかろうとする一人へと向かって跳躍し、蹴りによる側撃で吹き飛ばしてやった。
「別によかったのに」
接近と同時に射抜いてやろうと思っていたようだけども、まずは話し合いが可能ならそっちで対応したいからな。
――……蹴っちゃったけど……。
とりあえずは、
「なんだお前ら! 初対面の相手に面頬越しってのはどうなんだ? その兜をとって挨拶しろ。というかまずは謝罪しろ!」
と、やはり初手で矢を放たれ、シャルナに襲いかかろうとしたもんだから俺の声は怒気を纏ってしまった。
「黙れ! 女を置いて死ね!」
わぉ。立ち去れじゃなくて――死ねかよ。
友好的な関係性を構築するのは出来ない手合いのようだな。
いきなり女に向かって躍りかかるくらいだから、最初から友好的ではないのは理解しているけども。
「どうする?」
「もちろんお願いする」
主語がなくても意思疎通。
それが嬉しかったようで、ミルモンは笑顔のままに瞳を閉じてムムムッ――。と、見通す力を使用してくれる。
――見開いてから小さな食指を向ければ、前日みたくシャルナがその指先に従って樹上へと跳躍。
有能なスカウトを先頭にして、木から木へと移動するその下を隊伍を組んで俺達が続くというのも先日と同様。
――。
「ふむん」
「なんだ? 難しい顔なんて似合わないぞ」
「私がトールに言いそうなことをトールに言われたくないです」
「で、どうしたよ」
「物足りないですね」
「朝食の量がか?」
「それもありますが、冒険している感が」
「それは大いに賛同するよ」
と、俺の左肩からコクリコに同調する声が上がる。
同調を受けてコクリコが発言を続ける。
ただ森の中を歩いているだけ――だと。
脅威が少ない。ハラハラドキドキなスリリングさが足りないとのこと。
「なんて嫌な考え方なんだよ二人とも……。何事もなく目的地に近づけるのは良いことじゃないか」
二人に反論すれば唇を尖らせる。
脅威として唯一あらわれたのが、巨大ムカデのアジャイルセンチピードだけだったというのも不完全燃焼の原因のようだ。
あのムカデ、レベルは40前後あると思うんだけどな。それを物足りないと思えるだけ、コクリコも強くなっているのは嬉しいけども。
危険を求めているのは宜しくない。俺はNot welcomeの精神を貫きたい。
「何か来る!」
――…………貫きたい……。
――……貫きたかった……。
唇を尖らせていた二人が樹上からの警戒色ある声に、途端に口元の形を変える。
口角を上げるという形に……。
口角は上げつつも、身構える事が出来ているコクリコは場慣れしている証拠。
反面ミルモンはそれが出来ていなかった。
構えるとほぼ同時に、
「矢!」
と、鋭い一言が樹上から届く。
「イグニース」
即対応。
地上移動組の全員を守るように炎の障壁はドーム状で顕現。
樹上のシャルナへと目を向ければ、幹を盾にして射線から身を隠す。
その確認の中で、こちらへと飛んでくる矢が地面や木々に刺さる――。
「へたっぴ」
と、コクリコ。
「警告だったのかもよ」
「そんなわけないでしょう」
「だよな」
結構な矢を同時に放って警告なんてありえないもんな。
放つにしても一本くらいが警告には適しているよね。
となると、本気で狙ってきたと考えていい。
「狙ってコレか?」
「会頭が思うように練度は低いようですが――」
地面の石に弾かれた一本が障壁の外側で転がり、それをパロンズ氏が凝視。
俺もそれに続いて鏃を見やる。
「石鏃じゃないですね」
「鉄鏃ですね。しかも尖矢の作りは腸抉。突き刺されば回復手段がない場合、抜くのは苦痛を伴います」
鏃底辺の両側の逆刺という、釣り針のカエシに似た部分が大きな形状で目を引く。
体に刺さり、抜けばその逆刺によって臓器を大きく損傷させるという作り。
矢に疎い俺でもこの形状は知っている。
戦国時代を題材にした漫画の中では、武田腸抉ってのが有名だった。
「こういった技術をもった脅威は――」
コクリコの問いに対し、
「この森にここまでの物を作れる存在は……」
即答で返すパロンズ氏だが、発言の後半は尻つぼみ。
「現にいますけど」
歯切れの悪さに対して、コクリコは歯切れ良く返す。
「ですね……」
想定していなかった鉄製からなる鏃の存在に、パロンズ氏は困惑していた。
「やり取りはそこまでだな二人とも。――来るぞ」
今は迫る脅威に対処しようと伝えれば、言われずとも既に迎撃の姿勢。
隊伍を整えるのを確認してからイグニースを解除。
同時に抜刀。
次に飛んでくる矢は、俺が伝える事をしなくてもタチアナがプロテクションにて防いでくれる。
対して相手は、第二射と共に距離を詰めてきているのが木々の揺れから分かった。
「樹上移動だな。軽業な連中のようだ。弓の扱いはともかくとして、動きの良さから鍛えられている連中」
――だと思ったから口に出したんだけども……、
「女!?」
こちらに女が存在していると分かった途端。こちらが誰何する余裕もなく女性――シャルナへと目がけて木々から木々を移動し、大の字になって躍りかかってくる鎧兜の存在。
「おらっ!」
躍りかかろうとする一人へと向かって跳躍し、蹴りによる側撃で吹き飛ばしてやった。
「別によかったのに」
接近と同時に射抜いてやろうと思っていたようだけども、まずは話し合いが可能ならそっちで対応したいからな。
――……蹴っちゃったけど……。
とりあえずは、
「なんだお前ら! 初対面の相手に面頬越しってのはどうなんだ? その兜をとって挨拶しろ。というかまずは謝罪しろ!」
と、やはり初手で矢を放たれ、シャルナに襲いかかろうとしたもんだから俺の声は怒気を纏ってしまった。
「黙れ! 女を置いて死ね!」
わぉ。立ち去れじゃなくて――死ねかよ。
友好的な関係性を構築するのは出来ない手合いのようだな。
いきなり女に向かって躍りかかるくらいだから、最初から友好的ではないのは理解しているけども。
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