異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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矮人と巨人

PHASE-1310【迷惑な隣人】

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 切っ先を向けてくるカクエンに対して嘆息をもらし、首を横へと向け――、

「ほら喜べコクリコ、ミルモン。待ちに待った脅威の到来だぞ」

「オイラ、ああいった低俗なのはちょっと。相手にすると勲功爵としての品位が下がりそうだよ」

「そもそもが、あんな連中など脅威じゃないでしょう!」
 ミルモンとは違って戦う気満々なコクリコがワンドの貴石を黄色へと輝かせれば、自分の子を産めと発言してきた面頬を上げたカクエンへとワンドの先端を向ける。
 俺に向けてくるロングソードの切っ先に対抗するように。
 
 そして、 

「ライトニングスネーク!」

「ちょ!?」
 俺が制止するよりも速く、自分に対する下品な発言にお怒りとなったコクリコは、歪んだ告白はお断り! とばかりに、面頬に守られていない顔面へと躊躇なく電撃の蛇を放つ。
 怒りの混ざった声がそのまま魔法に憑依したかのような威力。
 顔面へと直撃を受けたカクエンは、蹲踞の姿勢で枝に乗っていたが、電撃の衝撃で体は真っ直ぐとなり、そのまま地面へと落下。
 
 ガサガサ――ドサリ。
 
 下生えに触れながらそのまま地面へと叩き付けられた。
 しばらくすればフラフラと立ち上がってくる。
 お怒りではあったが、手加減はしたようではある。

「ふざけた事を言えば、いまの者のようになりますよ!」
 挑んでくれば次は命はないというコクリコからの警告。
 いくら魔王軍に組みした連中とはいえ、話し合いに応じてくれるなら戦いは避けたい。
 会話が出来るのだから、そこから打開策を見つけたい。

 ――……のだけど……、

「おまへ! らまってまふぁをふぃらけぱいいんらよ!」

「なんて言ってんですかね?」

「聞き取れない方がいいだろうな」
 黙って股を開けばいいんだよ! って言ってたんだろうけど……。
 電撃のショックで呂律が回らないようだけども、怒りを抑える事は出来ないのか、ふらついた足取りで、手にしたロングソードを引きずらせながらこちらへと向かってくる。

「警告はしましたからね」
 言いつつコクリコが見渡すも、こちらを窺うだけで仕掛けてこない他のカクエン達。

「したぎゃわないにゃら、ころしゅ!」

「最後の発言は聞き取れました。なので今度は――手加減なしです!」
 二発目のライトニングスネークが再び面頬に守られていない朱色の顔面へと直撃。
 ビシャァァァァァン! という大気を劈く音。
 発言どおり二度目は本気のコクリコ。
 直撃すれば体を硬直させたまま、力なく地面へと倒れる。
 一度目とは違い、受けたカクエンの鎧の間からは、濛々と煙が上がってくる。
 同時にこちらにはチリチリという小さな音と、毛が焼けた時の独特なニオイが鼻孔まで届いた。

 間違いなく絶命。

「さあ、どうします? 大人しく下がりますか!」
 コクリコの威圧に対し、

「「「「ギャハハハハハハハハハハハハ――!!!!」」」」
 一斉に声を上げる。
 こちらを威圧するために吠えているのではなく、明らかな哄笑だった。

「なんです急に……」
 仲間の一人が命を奪われたのに哄笑。
 威圧をしていたコクリコもこれには困惑するし、俺達も困惑する。
 唯一、パロンズ氏だけが弱々しく首を左右に振っていた。

 そんな中で俺達の困惑を払拭させるような答えを対峙する側から一人が発した。

「一人が死んだ。これは実にいい。その分、俺達が女を抱ける回数が増える」
 という内容を……。
 女たちを仲良く共有するという考えは間違っていた。コイツ等の仲間意識は、こちらが思っているより希薄なようだ。
 女を攫う。攫って抱く。こういった共通の考えだけで動いているというのが哄笑と発言から理解できた。

 こちらへと矢を放って距離を詰めてきた時は、曲がりなりにも統率のあるような動きだったけども、それが今では完全に消え去っている。
 こちらを初手で視認した時、女をまだ確認していなかったから、ああいった動きが出来たのだろうか?
 女がいると分かれば連携なんて呆気なく崩れ去る連中なのかもな。

「トール。コイツ等……、いままでに出会ってきたどんな奴等よりも気持ち悪いですよ……」
 然しものコクリコも、コイツ等の女に対する執着心には呑まれそうになっていた。
 そして俺に話しかけてくるコクリコの姿を目にして、当然ながら怒りの声をカクエン達が上げる。
 上がる声が放たれるのは当然、俺に向けてのもの。
 そして仲間が死んで抱ける回数が増えたという安直な考えでテンションが上がったカクエン達は、女性陣に向けて腰を振るという下品な動きで自分たちをアピール。
 もしかしたらあいつ等にとっては求愛行動なのかな? 言動から察するにそうでもないんだろうけど……。

 ――……うん……。

「ああいった手合いなんですね……」
 唯一、理解しているであろうパロンズ氏に問えば、

「そうなんです」
 と、即答だった。

「あれじゃあ、話し合いなんて無理ですね」

「出来ていたなら、隣接する我が故郷の者達とも良い関係性を築けていましたよ」

「…………ですね……」
 侮蔑な声音のパロンズ氏とのやり取り。
 こんな連中がアラムロス窟の側にいることが心底、嫌なようだ。
 隣人に変態がいれば誰だって嫌だわな。
 しかもそれが種族全体となれば迷惑この上なし。
 男には怒りと殺意を向け、女には色欲で染まった行動ばかりをしてくる。

「こりゃ話し合いなんて土台無理だな。そもそも、対話よりも早くに俺が先んじて蹴ったしな……。その後にコクリコ怒りの電撃。相手も話を聞くなんて事はしないよな……」

「会頭。全くもって気にしなくていいです。お二人以外でも同様の行動を選択しますので」
 パロンズ氏からフォローをもらえば、後方の面々も首肯でその発言に賛同してくれる。

 継ぐパロンズ氏は、

「さっきも言いましたが、友好関係は築けません。我々ドワーフがその生き証人です」
 となると――、

「致し方なし」
 脅威となるなら振り払うだけだ。

「戦いとなるならこっちは一切の容赦はしないからな。味方に対して腰を振られるのなんて絶対に嫌だし!」

「五月蠅い! 男共は惨たらしく殺す!」
 男に対しては一貫してぶれないスタイルだね。
 相手が殺意をもって仕掛けてくるなら――、

「こっちも同様の力を振るわせてもらうから!」
 樹上から見下して余裕ぶっているようだけども、兜の奥側でにたついているであろう表情を一瞬で恐怖に変えてやる。

「アクセル」
 で、目の前に移動し、

「まず一人」
 容赦なく残火を振って命を奪う。
 あっという間に目の前に現れた俺に対し、周囲の連中は呆気にとられている。
 なにが起こったのか理解するにはまだ時間がかかるといったところか。
 やはり初手の連携のような動きは偶然か。
 女を見た途端に乱れたし、味方が倒されても笑うし。
 会話は出来ても、中身はとても残念な連中だ。
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