異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1312【げに弱し】

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「さっさと終わらせよう」

「もちろんですよ」

「俺の女と喋るな!」

「「五月蠅い!」」
 ラピッドで幹を蹴って、自分勝手な発言者へと接近。俺とコクリコで左右から仕掛ける。
 左右から迫る動きに翻弄されてしまうカクエンは、面頬で守られた頭を忙しなく動かし、手にしたロングソードの切っ先をどちらに向けるかで迷っていた。

「視界が狭まる兜での訓練くらい終わらせてから挑んでこい。でもって女が大好きなら、切っ先は迷うことなく俺だけに向けとけ!」
 迎撃の態勢が整ってもいないところに蹴りを打ち込んでやる。
 肉体強化のピリアである、ストレンクスンとインクリーズは発動済み。金属装備に守られているカクエンであっても、蹴撃で簡単に吹き飛んでくれる。

「良いところに蹴ってくれますね」
 と、右手に握ったミスリルフライパンを自分の方へと飛んでくるカクエンへと目がけて振り下ろす。
 ――……フライパンの縁部分を……。
 リーンというミスリルの音と、ゴシャリといった金属の鈍い音が織り交ざり、兜が大いにヘコめば、その時点でカクエンはピクリとも動く事なく地面へと落下。
 同時に左手に持ったワンドを振ってのアークウィップで、コクリコの側の枝に立っていた別のカクエンの首へと巻き付ければ、電撃の衝撃と振り回しで絶命。
 手早く仕留める姿は前衛としてとてもお手本になる。
 見習わないとな。
 ――……と、思えるほどに、コクリコのポジションは前衛だと俺の中で確定。

「男は邪魔なんだよ!」

「同じようなことしか言えないんだよな……」
 迫ってくるカクエンを呆れからくる半眼で見るだけの俺。

「ほいっと!」
 跳躍で俺へと迫ろうとしても無駄。
 俺が対応しなくても、後方から軽い調子のかけ声と共に弦音を奏でれば、他のカクエンと同様に、頭に矢を生やして地面へと落下。

「ナイスキル、シャルナ」

「私が対処しなくても良かっただろうけどね」

「いやいや、全体を見渡すだけの視野の広さを持つスカウトの掩護があると思うだけで、前衛の俺達はのびのびと動けるからな」

「その通りです」

「二人にそう思ってもらえるならこっちも励めるよ。それにしても高圧的で下品な言い様しか出来ないよねコイツ等。それに見合っただけの実力がないなら軽口は叩かないでほしいよ」

「まったくだな」
 シャルナはカクエン達に対し、侮蔑と挑発を含めた発言を放ちながら矢も放つ。
 そしてこの間だけでもシャルナの二射によって二人が絶命。
 一発必中とは正にシャルナのためにある四字熟語。
 俺達が樹上にて戦闘を行い、出来るだけ俺とコクリコにヘイトを集めさせる中で、中衛と後衛も地上に降りた少数のカクエンに対処してくれる。

「数は多く、恰好は一丁前でも――」

「中身無し! ですね」
 パロンズ氏がスリングを使用し迎撃――そして命中。
 巨大ムカデほどの脅威がないからなのか、使用したのは鉄球ではなく、そこいらに転がっている石ころ。
 それでも兜を大きくヘコませるだけの力を有していた。
 投石を見舞われ昏倒一歩手前で足がふらついているカクエンへと目がけて、コルレオンが地面を滑空するように疾駆。
 隆起した地面がまるで平坦であるかのように錯覚させる快足だった。
 速度を落とすことのないまま、逆手に持つ双剣にて命を刈り取る。
 ムカデの時と同様、鎧と鎧の隙間を狙っての精密な斬撃だった。

「ファイアフライ!」
 と、ここでタチアナが中衛と後衛――とくに自分がターゲットとなる中でも冷静に魔法を発動。
 強い輝きによる目眩ましが決まれば、カクエン二人の動きが止まる。
 止まったところにパロンズ氏がマッドバインドを唱え、地面より蔦や土、草がロープ状へと姿を変えれば、瞬く間に二人のカクエンを拘束。
 慌てふためき声を上げるカクエン達を黙らせるようにコルレオンが接近し、二人ののど笛を切り裂いて黙らせる。
 派手に鮮血が吹き上がる光景の中で、中衛と後衛の三人は次に迫ってくる者達へと体を向けて、迎撃態勢で構えるという隙のなさ。

「即席であってもいい連携」
 タチアナは言わずもがなだが、二人も良い動き。
 特にコルレオンがいい。
 即席でも最高の結果を出していた元野良冒険者である、ドッセン・バーグのしごきの賜物ってやつだな。

「感心してないで、後ろ来てるよ!」

「分かってるよ」
 ミルモンの危機を纏う指摘よりも速くに反転し、残火にて袈裟斬りで一人。
 ヒーターシールドを前面に構えてこちらの側面へと飛びかかってくる相手には、マラ・ケニタルによる上段からの一振りで、シールドごと唐竹割りで仕留める。

「早業だね」
 素早い反転からの素早い二振りでの対応に、ミルモンが驚嘆の声。
 俺も二刀による実戦で、多数を相手にここまで上手く立ち回れていることに高揚感を覚える。
 命を奪っておいて覚えるような感情ではないんだけども。
 どんどんと戦いの場に馴染んでいくね。俺……。

「それにしても――」
 樹上移動はエルフにも引けを取らないとか耳にしていたけども――、

「それはない。誇張もいいところ」
 移動する素早さだけなら――まあ分かる。
 だがシャルナのように枝を揺らさず、葉を落とさずな樹上歩法と比べれば、音は立てるし木々を揺らすから、どこからどう接近してくるのかが丸わかりなんだよね。

「これでも場数は踏んでいるからな。この程度の連中が死角から接近してこようとも対処は容易い」

「流石は兄ちゃん」

「ミルモンも流石だぞ。俺の動きに振り回されないでいるからな。もっと動くけど大丈夫か?」

「余裕だよ」

「だったら離れないようにな。辛くなってきたら言ってくれ、動きを緩めるから」

「問題ないって!」
 強気な返事。
 ミルモンの身体能力を信頼しよう。
 ――王都に戻ったら、ワックさんかギムロンにお願いして、左肩の部分にミルモンが安定して座れるようなクッションと、握って体を支える支持具をつけてもらおうかな。

 ――。

「おらっ!」

「ギャァン!?」
 切りよく俺が十人目を斬り伏せたところで残った連中を睨みながら見渡せば、途端に動きが鈍くなる。
 俺とシャルナが十ずつ。
 コクリコが七。
 コルレオンを中心としたパロンズ氏とタチアナの共同撃退で五。
 合わせて三十二の命を奪った。
 三十以上いたカクエン達も片手で数えられるだけになり、樹上の幹に寄り添ってこちらを窺ってくるだけ。
 初手で放ってきた腸抉からなる矢と弓は手にはしていても、構えることはない。
 こちらが動けば、直ぐさま幹の裏側に身を隠すという事だけに注力しているようで、こちらに仕掛けてこようという気概は最早ないようだ。
 
 最初の頃の下劣な発言や笑いも完全に鳴りを潜めてしまった。
 包囲される前に穴を開けると俺が言えば、コクリコはぬるいと返して殲滅と言ったが、それが現実になりそうだな。
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