異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,314 / 1,861
矮人と巨人

PHASE-1314【いいキック力だろ】

しおりを挟む
「初対面だし、出来れば顔を見て挨拶したいもんだね。お宅のそのいかしたデザインの兜を取ってもらって、瞳を見せてもらいたいところ」

「? なぜわざわざ急所になる部分をさらさねばならん。エルフに眼窩を狙わせるつもりか?」

「単純に赤いお目々とかだと面倒かなと思ってね」

「ほう。レッドキャップスを知っているのか」

「その発言でお宅が魔王軍ってのは理解できたよ」

「これは乗せられたな」
 誘導尋問をするつもりじゃなかったけども、結果として収穫があったので良しとしよう。
 肩に乗るミルモンが俺に対して強いだけでなく、頭も切れる主だと喜んでくれているからな。
 
 ――やはり魔王軍はここに入り込んでいたか。
 カクエンの装備から理解はしていたけども。
 ここで武装した兵を立ち上げて、ドワーフの国に再度、侵攻をと考えていたのかもな。

「なにやら考え事をしているようだな」

「待ってくれていることに感謝するよ。で、ここで何を?」

「別段、お前達に話すことはないな。それで、そちらはいつ名乗ってくれるのだろうか?」

「おや、この俺をご存じではない? 心外だな」

「小僧がなんともふざけた言い様だ」
 このやり取りで分かったのは、俺やパーティーメンバーの素性を知らないってのが分かった。
 となると、ここへと入り込んでから一年の間、外の情勢が理解できていないというのも分かる。
 外と連絡を取り合っていないってのも理解した。
 うん――俺いま凄く切れ者みたいな立ち位置だな。

「名乗ってくれないのかな? こちらには名乗らせておいて名乗らないのはどうかと思うぞ。存じないので名乗ってほしいものだ」

「いいでしょう。我が名はコクリコ・シュレンテッド。偉大なるロードウィザード!」

「……そうか。それは大したものだな」

「馬鹿にしてますね!」
 こういった横から出てきての名乗りは、魔王軍であっても同じようなリアクションになるようだな。

「で、小僧」

「俺は遠坂 亨。勇者として活動させてもらっているよ」

「……そうか。それは大したものだな」
 ――……あれ!? コクリコと同じ反応をされたぞ……。
 なんだろうか……。馬鹿にした笑いで、お前のようなうだつの上がらない者が勇者であるはずがない! って、言われた方が慣れているから、心に傷を負うのも軽減するんだけども、いつもと違うリアクション――まるで可哀想で残念な者に対するあしらい方をされると、俺の精神世界アストラルサイドが大きく抉られる……。
 精神攻撃……。流石は上位悪魔といったところか……。

「ハイエルフのシャルナさん。俺の説明を!」

「間違いなくトールは勇者だよ」

「――ほう。そうなのか」
 と、山羊の頭部をモチーフにした兜がぐるりとこちら全体を見渡せば、次に信頼性の高いと思われるドワーフのパロンズ氏に問うてくる。

「嘘偽りなく!」
 強い語気でヤヤラッタへと返答してくれるパロンズ氏。

「――そうか。貴様が勇者なのか」
 人間から見て叡智なる存在であるエルフとドワーフが発せば、説得力はあったようだ。

「ここまで話に乗ってくれたんだからな。対話も可能と思いたいんだけど」

「この森へと赴いた時点で死んでもらう。勇者というのならば尚更だ。一年前、貴様の存在が我々の覇道を妨げたのだからな」

「何が覇道だよ。外道の間違いだろうが」

「物の見方というのは、立つ位置で変わるというものだ」

「見る位置がお宅等と一緒でも、外道な行動だと胸を張って言ってやるよ」

「このやり取りの時点で我々は相容れない。よって対話は無意味だ」

「殺意の籠もったハルバート投擲の時点で理解してたよ」

「あれを回避したのは褒めてやろう」

「褒めてもらわなくて結構。それに不意打ちをしたいなら、回避されないように声を発せずに狙うべきだな」

「それはそうだ。だがその発言は勇者としては正解なのかな?」

「不正解だよ。俺個人はアンブッシュでの不意打ちは極力避けたいと思っているからな」
 デミタスとの戦いが何とも格好悪かったからな。

「極力というのは、実行した時のための逃げ口上かな?」

「味方が危機に瀕しているなら、その時、俺は不意打ちをすることも厭わないってことだよ」

「その考えは良いと思うぞ」
 なんか武人タイプだな。
 デスベアラーに似ているかもしれない。

「では会話はここまでとして――やろうか!」

「そいや!」

「ぬ!?」
 兜の奥から驚きが上がる。
 俺の眼前から消えた移動方法は、アクセルや縮地のような高速移動系。
 そこから背後に回ってのハルバートによる振り下ろしってのは想像できた。
 高速移動系だとこういった攻め方がポピュラーだからな。
 肩越しに背後を見つつ、振り下ろされるハルバートに対して、残火とマラ・ケニタルを交差させ、鎬で斧刃の部分を受け止めてやった。

「我が膂力による振り下ろしを受け止めるか」

「受け止めますとも」

「余裕のある言い様だな」

「余裕があるからな。お宅より膂力があるのと最近も戦ったから」
 デミタスと比べれば、このグレーターデーモン――ヤヤラッタの力は大したことはない。
 受け止めて喋る余裕がある程に。
 
 ――しばらくはお互いの力比べ。
 全体が俺達を見守り、しじまが訪れる。
 この間もギチギチと長柄武器を力任せに押し込んでくるが、足場の悪い地面で両足を踏ん張って耐えてやれば、兜の中から息を荒げて更に力を込めてくる。
 
 ――でも耐える。

「あ、ありえん」
 自身の膂力によほど自信があったんだろう。荒い息と共に驚きの声を漏らす。
 ならば――もっと驚いてもらおう。

「ブーステッド」
 と、小声にて発動。

「ふんすっ!」

「なんだと!?」
 ハルバートを逆に押し返せば、諸手に持ったまま万歳の姿勢となる漆黒の鎧を纏う巨体。

「せいや!」
 反転して同一方向にて二刀の横薙ぎを打ち込めば、急ぎ柄の部分だけを垂直にし、俺の横薙ぎを受け止める。
 立派な鎧の時点で分かっていたけど、ハルバートには魔法付与が施されており、二刀の刃でも断ち切る事が出来なかった。
 しかし万歳姿勢から急な防御へと移行したことで、巨体は受け止める方向に力を注いでおり、逆方向が隙だらけ。

「どっこいしょ!」

「がぁ!?」
 がら空きになっていた腹部にケンカキックを見舞ってやれば、勢いよく吹き飛んでくれる。
 四メートルはあろう重装備の存在を吹き飛ばせる俺のキック力って凄いじゃないか。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...