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矮人と巨人
PHASE-1318【値千金】
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「人質を取られてしまえば、正義を背負う存在である勇者と従者たちは、何も出来なくなるのだろうな」
「どうだろうな?」
「余裕ある佇まいだが、声は焦燥そのものだな」
――……くそ!
「がっかりだよ。武人だと思っていたけど、かけ離れていたな」
「こちらは戦いをしている。更に正攻法では太刀打ちが難しい相手となれば、このようなやり方も対策として考えているものだ。こちらも次の一手を実行しなければならない以上、恥辱な行動を選択してでも勝ちを手中に収めなければならん」
「随分と饒舌になったな」
「余裕が生まれたからだろうな」
「余裕っていうより、自分の言動に対する言い訳のために、饒舌になっているようだけどな!」
「……本当に小賢しい小僧だ」
やはり生粋の武人ではあるようだな。
武人としての誇りを蔑ろにしてでも、どうしても次の一手なるものが重要なようだ。
この森に来た以上、コイツ等の次なる一手というのは、俺達が絶対にぶっ壊してやるけどな!
「武器を捨てろい!」
――……ぶっ壊してやりたいが……。
バックアタックを仕掛けてきたミノタウロスから、人質を取ってからの常套句を聞かされるこの状況をなんとかしないといけないのが第一だ。
「さあ! 早く捨てやがれい!」
「す、捨てては駄目です……」
掴まれて苦しむ中でも、タチアナは俺達に従わないようにと懸命に伝えてくる。
従えば結局は全滅。それなら自分ごとミノタウロスを倒してほしいと続ければ、
「黙れい! 抵抗するなよ!」
「くぁ……」
両手で掴まれる体からは、ギシギシとこちらにまで聞こえてくる体や骨が軋む音。
この音にこちらは更なる焦燥感に襲われるが、俺達とは逆にこの音に高揚感に包まれているのがカクエン達。
馬鹿笑いや雄叫びを上げて大喜び。
ミノタウロスを真似るように、抵抗するなの唱和もはじまれば、無抵抗になった女たちを自分たちのモノに出来ると大喜び。
こちらの神経を逆撫でするのが得意な連中のようだ。
今すぐにでも命を刈り取ってやりたいね!
「トール!」
と、コクリコ。
構えをとくことはなく、琥珀色の瞳からは降伏なんて絶対にしない! という強い思いを俺へと届けてくる。
――一人のために無抵抗になるのはどのみち全滅。
ならばこのパーティーにおいて、リーダーとしての立ち位置である俺が選択しなければいけないのは――、
「悪いな……タチアナ」
「会頭!」
「コルレオン。全滅は避けないといけない。こういった危険性もあるからということを理解してから、皆この冒険に参加したんだよな。俺の選択に従ってくれ」
「そ、その通り、で……す……」
俺とコルレオンのやり取りに、か細いながらも覚悟からくる芯の通ったタチアナの声。
「タチアナの思いを汚すわけにはいかないな!」
「中々に酷薄だな勇者よ」
「全体を優先するなら酷薄ではないと思うけどな!」
「まあ――確かに判断は正しい。我も同じ立場なら同様の選択をする。矜持は別としてな」
一々とこっちの精神を攻めてくるよ!
「おいおい本気か? 人質に価値がないなら、お前たちの目の前で惨たらしく喰らってやるぞ!」
「そうなったら惨たらしく殺してやるさ! で、お前をミンチにしてコイツ等の口にねじ込んでやるよ! 牛ぃ!!」
「ト、トール……」
――……。
「……すまん。本気で苛立ってしまった」
自分でも驚くほどに口汚い発言だった……。
戦くコクリコの呼びかけと、他のメンバー達がギョッとした目で俺を見ていた。
苛立つと発言が荒くなるのは幼い証拠。これじゃあ打開策なんて生まれない。
焦燥と苛立ちを吐き出すように再び深呼吸。
「やるならこちらも総力戦にてお前たちを倒させてもらう」
声音を正して言い直したところで、
「この俺を気安く牛と呼ぶとは生意気なガキだい! 望み通りに――」
「ミルモン!」
「おまかせ――さっ!」
「ぐぁ!?」
暴言を吐いた後に、皆が俺を驚いた表情で見てくれたのは――ある意味よかった。
打開策が生まれたからな。
皆の視線を感じて、パーティー全体を見る事が出来たのは幸運だった。
やはり深呼吸は大事だ。この状況を打開してくれる存在を見落としていたけど、それを拾うことが出来た。
――小さくても頼りになる存在を。
タチアナが掴まった時、素早く三つ編みとうなじの間に隠れたミルモン。
俺の発言に驚いた表情を見せてきた時には申し訳なかったが、好機を到来させてくれる愛らしい存在に全力で頼れば、頼りになる声と共に、両手で握ったミスリルコーティングが施されたサーベルを振り上げて、タチアナを掴んでいる右手の甲を切り裂く。
短い刀身ながらもギムロンが制作したサーベルの切れ味は抜群。
刃は深く入ったようで、唐突な激痛に襲われた右手がタチアナから離れる。
「せやっ!」
ミルモンに呼応するようにアクセルからの双剣で、左腕へと斬撃を見舞うコルレオン。
二人の攻撃でタチアナがミノタウロスの手から解放される。
コルレオンのここぞというところで仕掛けたのも見事だけど、そのきっかけを作ったミルモンの一振りは値千金。
ヤヤラッタと俺が対峙していた時には、自分が原因で俺が仕掛けられなかったと落ち込んでいたけど、そういった思考を引きずらず、戦闘時に最良の行動ができる精神は、俺なんかよりも遙かに達観している。
後で頭を目一杯、撫でてあげよう。
「どうだろうな?」
「余裕ある佇まいだが、声は焦燥そのものだな」
――……くそ!
「がっかりだよ。武人だと思っていたけど、かけ離れていたな」
「こちらは戦いをしている。更に正攻法では太刀打ちが難しい相手となれば、このようなやり方も対策として考えているものだ。こちらも次の一手を実行しなければならない以上、恥辱な行動を選択してでも勝ちを手中に収めなければならん」
「随分と饒舌になったな」
「余裕が生まれたからだろうな」
「余裕っていうより、自分の言動に対する言い訳のために、饒舌になっているようだけどな!」
「……本当に小賢しい小僧だ」
やはり生粋の武人ではあるようだな。
武人としての誇りを蔑ろにしてでも、どうしても次の一手なるものが重要なようだ。
この森に来た以上、コイツ等の次なる一手というのは、俺達が絶対にぶっ壊してやるけどな!
「武器を捨てろい!」
――……ぶっ壊してやりたいが……。
バックアタックを仕掛けてきたミノタウロスから、人質を取ってからの常套句を聞かされるこの状況をなんとかしないといけないのが第一だ。
「さあ! 早く捨てやがれい!」
「す、捨てては駄目です……」
掴まれて苦しむ中でも、タチアナは俺達に従わないようにと懸命に伝えてくる。
従えば結局は全滅。それなら自分ごとミノタウロスを倒してほしいと続ければ、
「黙れい! 抵抗するなよ!」
「くぁ……」
両手で掴まれる体からは、ギシギシとこちらにまで聞こえてくる体や骨が軋む音。
この音にこちらは更なる焦燥感に襲われるが、俺達とは逆にこの音に高揚感に包まれているのがカクエン達。
馬鹿笑いや雄叫びを上げて大喜び。
ミノタウロスを真似るように、抵抗するなの唱和もはじまれば、無抵抗になった女たちを自分たちのモノに出来ると大喜び。
こちらの神経を逆撫でするのが得意な連中のようだ。
今すぐにでも命を刈り取ってやりたいね!
「トール!」
と、コクリコ。
構えをとくことはなく、琥珀色の瞳からは降伏なんて絶対にしない! という強い思いを俺へと届けてくる。
――一人のために無抵抗になるのはどのみち全滅。
ならばこのパーティーにおいて、リーダーとしての立ち位置である俺が選択しなければいけないのは――、
「悪いな……タチアナ」
「会頭!」
「コルレオン。全滅は避けないといけない。こういった危険性もあるからということを理解してから、皆この冒険に参加したんだよな。俺の選択に従ってくれ」
「そ、その通り、で……す……」
俺とコルレオンのやり取りに、か細いながらも覚悟からくる芯の通ったタチアナの声。
「タチアナの思いを汚すわけにはいかないな!」
「中々に酷薄だな勇者よ」
「全体を優先するなら酷薄ではないと思うけどな!」
「まあ――確かに判断は正しい。我も同じ立場なら同様の選択をする。矜持は別としてな」
一々とこっちの精神を攻めてくるよ!
「おいおい本気か? 人質に価値がないなら、お前たちの目の前で惨たらしく喰らってやるぞ!」
「そうなったら惨たらしく殺してやるさ! で、お前をミンチにしてコイツ等の口にねじ込んでやるよ! 牛ぃ!!」
「ト、トール……」
――……。
「……すまん。本気で苛立ってしまった」
自分でも驚くほどに口汚い発言だった……。
戦くコクリコの呼びかけと、他のメンバー達がギョッとした目で俺を見ていた。
苛立つと発言が荒くなるのは幼い証拠。これじゃあ打開策なんて生まれない。
焦燥と苛立ちを吐き出すように再び深呼吸。
「やるならこちらも総力戦にてお前たちを倒させてもらう」
声音を正して言い直したところで、
「この俺を気安く牛と呼ぶとは生意気なガキだい! 望み通りに――」
「ミルモン!」
「おまかせ――さっ!」
「ぐぁ!?」
暴言を吐いた後に、皆が俺を驚いた表情で見てくれたのは――ある意味よかった。
打開策が生まれたからな。
皆の視線を感じて、パーティー全体を見る事が出来たのは幸運だった。
やはり深呼吸は大事だ。この状況を打開してくれる存在を見落としていたけど、それを拾うことが出来た。
――小さくても頼りになる存在を。
タチアナが掴まった時、素早く三つ編みとうなじの間に隠れたミルモン。
俺の発言に驚いた表情を見せてきた時には申し訳なかったが、好機を到来させてくれる愛らしい存在に全力で頼れば、頼りになる声と共に、両手で握ったミスリルコーティングが施されたサーベルを振り上げて、タチアナを掴んでいる右手の甲を切り裂く。
短い刀身ながらもギムロンが制作したサーベルの切れ味は抜群。
刃は深く入ったようで、唐突な激痛に襲われた右手がタチアナから離れる。
「せやっ!」
ミルモンに呼応するようにアクセルからの双剣で、左腕へと斬撃を見舞うコルレオン。
二人の攻撃でタチアナがミノタウロスの手から解放される。
コルレオンのここぞというところで仕掛けたのも見事だけど、そのきっかけを作ったミルモンの一振りは値千金。
ヤヤラッタと俺が対峙していた時には、自分が原因で俺が仕掛けられなかったと落ち込んでいたけど、そういった思考を引きずらず、戦闘時に最良の行動ができる精神は、俺なんかよりも遙かに達観している。
後で頭を目一杯、撫でてあげよう。
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