異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1317【ブラフ】

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「非道を行わないための目付役の軍監って言うけども、王都では大層な非道が繰り返されていたんだけどな!」

「バロルドの行動はこちらの管轄外。我々はアラムロス窟の侵攻を担当していたのだからな。そもそも多少の非道を諫める事はせんさ。王都を落とせばこの大陸での一大拠点を魔王軍の支配下に出来たのだからな」

「小さな犠牲は仕方なしって事か」

「そもそもが非道を回避したい対象はドワーフやエルフであって、人間は含まれていない」

「人間差別!」

「亜人を差別していたのはどの種族だったかな?」

「ぬぅ……」
 だからこそゴブリンやオークなどが中心となった侵攻を受ければ、人間達が非道な行いの中に晒される。
 その原因を作ったのは昔の驕った人間達が原因。
 なので仕方ないってことらしい。

「落とせる手前で遊びに耽った事で、王都を落とせなかったのは事実。王都侵攻側に軍監がいなかったのが問題でもあった」
 人間よりもドワーフの命を優先したいヤヤラッタが軍監として任に就くなら、後者の侵攻側に就くわけだよな。

「だがそのお陰で侵攻に遅れが生じたからこそ、なんとかギリギリで防げたし、力もつけることが出来た」

「勇者の力は偉大だということか。そして言も正しい。簡単に攻め落とせる段階でゲスな行動に移行するのは如何にも蹂躙王ベヘモトの軍勢よ!」
 デミタスがフーヤオ族最後の一人と分かっているからこそ、蹂躙王ベヘモトの行いにはかなりの嫌悪感を持っているご様子。

「もっとデミタスやその周辺の者達の現状を聞きたいものだな」

「とんでもなく長話になるな」

「我は構わんが?」

「そうやって完全に回復するまで待ってほしいなら待ってやるけどな」

「余裕があるのは、デミタスと我の実力差を推し量ったからということなのだろうな。それほどまでに差が開いているか」
 本当に強くなっているのだろうな。と、喜んでいた。
 なんかやりずれえな……。

「トール。好機に攻めないのはどうかと?」

「分かってるさコクリコ。でもここから先は俺一人でやるから手を出さないように」

「いいでしょう」
 素直に聞いてくれて感謝するよ。

「余裕も度が過ぎれば自らの首を絞めることになるぞ。攻めない時に攻めないのはバロルドと変わらん。こちらは傷を癒やせるからいいが」

「あいつとは一緒にされたくないね」
 この武人気質の悪魔。でもってデミタスの話で喜ぶって事は、魔王軍の中でも話せるタイプだろう。
 デスベアラーに似たタイプだから、やはり話し合いでなんとかなればとも思えてくる。
 何よりも四メートルは優にある身長が俺に攻撃を躊躇させる。
 人間である俺から見れば、四メートル越えの身長は巨人にカテゴライズされる。

 ――そう巨人。

 ミルモンが見通す力で教えてくれた巨人の存在。
 そしてその存在が生物と一緒に力を貸してくれるという内容。
 もしかしたらこのグレーターデーモンであるヤヤラッタが、その巨人にあてはまるのではないのだろうか?
 性格的には敵対者であっても好感を持てる存在でもある。ちょっと小者臭が漂う時もあるけど。

「こちらの実力差を分からせて、屈服させてやる」

「例えこちらの実力が劣っていようとも、屈服するつもりは毛ほどもないし、我々は負けてやるつもりもない」

「だからカクエン達は動かないよね」

「強くはあるし、存外に相手の心理を慮ることも出来るようだが、全体を見通すことは出来ていないようだ」
 声音が不敵なものへと変われば、次にヤヤラッタは右足を上げ、地面に向かって強く踏みつける。
 大地系か何かしらの魔法を発動したのかと、相対する者の全体を窺いながらも足元にも注意を払う。

 が――。

「きゃあ!?」
 と、劈くような短い叫び声は後方から。
 肩越しに見れば――、

「タチアナ!?」
 ここで全身で振り返る。

「フッハッハ――!」
 何とも馬鹿みたいな高笑いの存在は、ヤヤラッタよりも縦も横もある五メートルサイズの怪物。
 そんな怪物がタチアナを両手で掴んで持ち上げていた。
 茶褐色の肌は筋骨隆々であり、その自慢の筋肉があるから重装備は不要! 最低限あればいいというのが伝わってくる鎧皮から出来た胸当てと、同素材の腰鎧。
 手首、足首部分にはリベットが沢山打ち込まれた革製バンド。
 そして兜を装備していない頭部は、特徴的な頭部であり、俺でも直ぐに分かる怪物である――、

「ミノタウロスだな」
 牛の頭部をもった巨人がこっちのパーティーを見渡せば、

「妙な動きをすればこの女を喰らう!」
 牛の口の部分が大きく開けば、歯茎をむき出しにして実行に移すという事を伝えてくる。
 牛の歯とは違って、肉食獣のような牙からなる歯で噛みつかれたら、人間の体なんて簡単に噛み砕くことも容易いだろう。

「逆転だな。勇者よ。先ほどから我が口にした我々には、カクエン達は含まれていない」
 ヤヤラッタからの余裕ある発言を背で受け、肩越しに睨みで返す。
 怒りに駆られて周囲を見落とすのはよくないから、即現状の精神を冷静なものに切り替えるため、長い深呼吸を一つ行い、

「地中にああやって潜ませていたなんてな」

「少しでも地中移動を気取られないために工夫させてもらった」

「工夫したから本気が出せなかったのかな?」

「いや、本気だったさ――そこそこな」
 てことは全力じゃなかったって事だな。
 しかしシャルナが気付けないなんてな……。

 ――……なるほど……ね……。

「登場の時から手を打っていたんだな」

「頭の回転は速いようだな」
 馬鹿ながらも先生なんかと今後の話もしているからな。少しくらいは知恵だってついてくるってもんだ。

 ――ハルバートを俺の直上から投擲しての登場。
 不意打ちなのに声を出しての攻撃は駄目だと指摘したけども、それも自分に目をひかせるためだったのかもしれない。
 そして戦闘によって生ずる音。
 物事が上手く運ばずに、地蹈鞴を踏む小者のような行動もブラフ。
 フロックエフェクトからのパーティクルティンダーを放射状に放ち、こっちが消火作業の為に魔法を使用して音を立てさせるのも計算の内か。

 ――それらの推測を述べれば、称賛を贈ってくれる。

 それにしても、地中を移動してくるってのは盲点だったな。
 攻城戦なんかだと普通に使用される軍略だけども、まさか森の中を地中移動とはね……。
 
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