異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,320 / 1,861
矮人と巨人

PHASE-1320【風を纏う】

しおりを挟む
 そう恥だ! 今回、同行したパロンズ氏だって自分の弱さと向き合って努力しているんだからな。
 その努力をお手本とさせてもらう。

「惚けて立っているようだが、それは貴様と我との差が圧倒的だからなのなか? 不意を突かれても対応可能という事か?」

「そうじゃないよ――っと! だからそんなにお怒りになって得物を振らないでもらいたいね」
 高速移動からの攻撃は側面からのもの。
 振り下ろしからの刺突による連撃速度は今までで一番速かった。

「よく考えてるね」
 長柄には両手だけでなく鉤状の尻尾が巻き付いており、第三の腕のような役割を果たしていた。
 両腕のみの力で生み出す振りでは、俺に対処される。
 ならば尻尾も使って力を向上させる。という発想は素晴らしい。
 戦いの中で試行錯誤するのは相手も一緒。
 だからこそ勝つためには、更にその先を歩めるだけの試行錯誤と努力が必要になるって事だよな。
 後は――やれば出来る! というポジティブな思考も大事だ。

 イメージに最も近いのは――、

「マスリリース」
 残火を振り光斬を放つも、臆することなく轟音と共に振られるハルバートで打ち消すと、同時に俺にも攻撃を加えてくる。
 これを躱し距離を取れば、眼前から迫ってくるヤヤラッタは足を止めることなく、ひたすらに俺へと足を進めてくる。

 マラ・ケニタルからのマスリリース第二射はプロテクションで防ぎ、ここでわずかに足の運びが遅くなったところでイメージと集中。

「窮した――わけではないよな」
 俺が動きを止めれば、警戒から足の運びをゆるめるけども、接近する姿勢に変更はない。
 そんな中でシャルナが腕を上から下へと振り下ろして顕現させる風の刃を想像し――、

「生み出す! ウインドスラッシュ!」
 両手は愛刀で塞がっているので、勢いよく蹴り上げるモーション。

「!?」

「おお!? 出た!」
 見舞われる方より、出した方が興奮の声を上げてしまう。
 顕現した風の刃は一直線に飛翔。蜃気楼のように空気を揺らめかせる軌跡を描きながら、ヤヤラッタの右前腕を切り裂く!
 
 ――つもりだったが……、

「マスリリースと比べれば可愛いものだな」

「浅いか……」
 切断することは叶わず、ガントレットの表面に傷をつけた程度だった。
 しかもシャルナのように術者の身長サイズからなる風の刃ではなく、小太刀くらいのもので威力も低い。

 だがそれでも、

「出せた! 中位を出せた」
 自力で風の中位魔法という感動。

「なにを中位程度でそこまで喜ぶのか。本当に勇者なのかな?」
 こっちが喜んでいる時に水を差さないでもらいたいね。
 戦闘中にそんな事を思う俺も駄目なんだろうけど。

「ウンインドスラッシュ!」
 と、もう一度、蹴り上げて放てば――やはり小太刀サイズ。

「さっきから遠距離用の斬撃ばかり。斬るのが好きなようだ」
 ウインドスラッシュにはそこまで脅威を感じないようだけど、続けてマスリリースと発せばプロテクションで防いでくる辺り、威力の格差が窺える。
 
 ――立て続けに風の刃を放っていく。
 一度コツを掴むとマスリリースと同様で発動は難しくない。
 体内から発動するか、外部から力を借りるかの違いはあるけども、問題なく発動できている。

「面倒な事だな」
 ヤヤラッタは遠距離からの攻撃ばかりにうんざり気味といったところ。

 自身もバーストフレアを発動しようとするけども、

「プロテ――」
 シャルナ――やっぱり悪い子。
 炸裂の上位魔法を放とうとすれば、シャルナが同様の嫌がらせをしようとしていた。

「面倒な事だな」
 同様の発言をしつつ、山羊兜が重々しく左右に振られる。

「軍監殿~」

「情けない声を出すな。最初の勢いはどうしたのだ」
 ミノタウロスの声に対しても、やれやれと重々しく首を振るヤヤラッタに、

「そいや!」

「ふん!」
 やり取りを遮るように今度は蹴りではなく、マラ・ケニタルを使用してのウインドスラッシュ。
 ハルバートの一振りによって迎撃されるけども――、

「ぬん!?」
 兜の奥から驚きが漏れる。
 切り払うけども、その衝撃を殺しきることが出来なかったのか、巨体が仰け反り転倒しそうになっていた。

「なんだ!? 先ほどまでとは違うな。威力が上がっている」
 よしよし。やっぱり風魔法はマラ・ケニタルで放つべきだな。
 マラ・ケニタルは風の加護をルーン文字で刻んでいる。
 風系を使用すれば威力もアップ。
 俺のへっぽこウインドスラッシュであっても、マラ・ケニタルを介せば立派な中位魔法として使用できる。

「いいぞ。後はイメージの世界だ。火龍の鱗から作られた残火も、ブレイズを使用すれば刀身に留まってくれるからな」
 本来のブレイズは強力な火柱により対象を攻撃する上位の火炎系魔法だけども、俺の場合は用途が違うからね。
 残火で出来るんだ。

「マラ・ケニタルでも同様の事が出来るというのを信じたい」
 ヤヤラッタへと疾駆しながら、

「更に強い風を纏え!」

「これは!?」
 俺の思いを汲んでくれるように、愛弟子から賜った第二の愛刀のルーン文字が反応すれば、刀身が纏う風の密度が濃くなっていくのが分かる。

「新技のための実験体第一号にしてやる」

「御免こうむる!」
 言ってプロテクションを展開し、俺の侵攻を妨げるも、障壁ごと断ち切ってやるという気概を乗せて、密度の濃い風を纏ったマラ・ケニタルで袈裟斬り。

「おわっ!?」
 障壁に風が衝突すれば、衝撃が生じる。
 でもって頬に伝う温かいもの。

「トール!?」
 と、シャルナ。

「大丈夫。ミルモン」
 と、俺が問えば、左肩から大丈夫と返ってくる。
 ――かまいたちと例えるべきか、刀身から解放された風の刃が一帯に放たれた。
 で、使用者の俺も傷を負ってしまった。

 うむ……。無名の新技発動は、自爆スタートからか……。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...