異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1348【風立たぬ】

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 ――二人が中央部分で敵を縦横無尽に蹴散らす事が可能なのも、二人の実力だけが原因ではない。
 パロンズ氏、コルレオンとタチアナの三人が、二人のサポートを良くこなしてくれているからだ。
 搦手サイドの中心となっているシャルナに攻撃がこないようにと、タチアナがプロテクションを展開し、そのタチアナに迫る連中をコルレオンが双剣で対処。
 
 大太刀回りをするコクリコには、この拠点の最初の防御壁の時と同様に、倒しそびれた連中をパロンズ氏が自らが召喚したマッドゴーレムと共に対処していく。

「これだけの数を両手で数えられる程度の連中が突破だと!」

「同じことを口に出すくらいには驚いてくれているようだな。指揮官殿。どうだい、俺の仲間は強いだろう」
 不愉快そうにこちらを見上げてくるハルダームに対して、高所を利用してガッツリと見下してやる。
 コクリコを真似るように、胸を張ってのガイナ立ち風で。

「その余裕――不快でしかない」

「敗北するまでその不快感を抱いてくれ」

「どこまでも生意気な小僧だ。だがどこまでその強気な発言が出来るかも楽しみだな」
 ――……なんだよその余裕の笑みは?
 ついさっきまでの苛立った表情だけでいればいいのに、直ぐに余裕ある顔つきに戻ったな。
 数の有利はまだ覆されていないという余裕から――ではないな。
 やはり何かしら別のものがあるのか?

 ――楽観的な考え方はよくないからな。ブラフではないと思っておくべきだな。
 未だに姿を見せることのないヤヤラッタの事を考えれば、警戒しつつ相手の思い通りに事を運ばせないように立ち回らないとな。

 てなわけで、

「何かしらを画策してんだろうけど、それが整う前に――」

「ん!?」

「大将首だけは獲らせてもらう!」
 一気に戦いを決めて、周囲の兵の士気を挫く。
 この人数の敵兵に、士気が高い状態を保たせたくはない。
 大将首を落として、戦闘継続という気概を崩壊させたい。
 崩壊させたところで一気に殲滅。
 
 勇者という立場上、一度は停戦を促すつもりだけども――、

「大将だけは犠牲になってもらわないとな」
 屋根で身を低くして構える。
 足を踏ん張って力を入れてから、

「ブーステッド」
 と、小声で発する。
 踏ん張っていた足で屋根を蹴り、アクセルとの併用で距離を詰めると考えていたところで、ヒュリィィィィィィィ――――ッといった甲高い音。

「鏑矢?」
 シャルナが使用した矢とは違う音色が空に鳴り響く。
 音源の方向を見やれば、青空の中、一本の矢が天へと上がっていく。
 当然ながら俺たちのものではないので相手側だろう。
 なんの連絡だ? 編制した部隊がC-4の爆発現場へと到着するにはまだ時間はかかるはず。
 なによりも爆煙の上がる方向とは違うところだ。
 
 でもって――、

「以外と近い」
 ブーステッドを解除して足を止めていれば、

「さて、少しは苦労してもらおう。生意気な口がきけないくらいには――な!」
 声の方向へと視線を下げれば、矢を見ている間に曲がり歪んだ鼻の治療を済ませたようで、鼻のかわりに笑みを歪めて語るハルダーム。
 先ほどの鏑矢は向こうには吉報。こちらにとっては凶報のようである。

「なんの報告だ?」

「なんだと思う?」

「癪に障る余裕の表情だな」

「ならばそれは鏡を見ているのと同じだ。先ほどまで貴様等がこちらに向けていたのと同様の表情なのだからな」
 この余裕――よっぽどのことがあるってことか。

「一方的――とはいかんだろうが、それなりにこちらの好きに暴れさせてもらおう」
 謙虚さを見せるところに不気味さがある。
 そんなハルダームが発言と同時に、得物の石突きを地面へと突き刺して立てれば、持ち主は片膝をつく。
 無手となった両手を合わせてから離し、両手を地面へと触れさせる。

「有名な錬金術師みたいな動きだな」

「高名なようだが知らんな。そして錬金術でもない」
 不敵にこちらを見てくるハルダーム。
 その下では両掌を中心として暖色からなる魔法陣が顕現。
 円形に菱形なんかが五芒星、六芒星を描き、それらがハルダームを中心として放射状に広がっていく。
 直ぐさま俺の立つ屋敷にまで迫ってきたので距離を取るも、

「無駄だ。ここへと来た時点でな」
 相対する方からの発言どおり、距離を取ったところで俺よりも速く魔法陣は広がっていく。
 ――最終的にはこの拠点の中心部――つまりはこの一帯を支配してから止まった。

「この中心部にのみ影響があるみたいだな」

「察しがいいな勇者」

「で、これはなんだ? 即死系とかだと非常に困るんだけども」

「だとすればこちらは楽でいいのだがな」
 一方的ではないが好きに暴れさせてもらうって発言の時点でそういった類いのモノじゃないのは理解しているけども、余裕からくる笑みは崩れることはないので、こちらにとっては非常に宜しくない状況になっているのも理解できる。

「結局はなんなんだ?」

「教えてやろう。これは大魔法――ラプスだ! クラスミドルのな!」

「大魔法……ラプス……だと……」
 ――……ってなんだ?

「シャルナ」
 戦闘中のシャルナに問うのも申し訳ないが、俺の声を長い耳が拾ってくれれば、

「最悪だよ!」
 と、イヤホンマイクを使用することもなく会話が可能な距離から、とても不愉快な声が返ってきた。
 シャルナがそう言う時点で本当に最悪の事態のようである。

「抗ってみせろ! 最終的に我らによって蹂躙されるがな!」
 俺達のやり取りにハルダームが割り込んでくれば、発言と同時に暖色系からなる魔法陣の輝きが、禍々しい赤色へと変わった。

「……へ?」
 赤色へと変わった瞬間に俺に変化が起こる。
 正確には俺が手にする二振りの愛刀の一振りである、左手に持つマラ・ケニタルに……。
 纏っていた風が俺の意思に関係なく霧散するように消え去ってしまった。
 視認できるほどに密度のあった風が消え去り、灰色の刀身が露わとなる。
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