異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1368【ここでも電撃】

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「俺の知っているのよりは、まだ可愛げがあるけどな」

「十分に目の前のも大きいと思うけど。兄ちゃんが知ってるのはどれだけ大きいのさ?」
 映画の方は幼虫でも百メートル近くはあるからな。
 眼前のモドキも十分に威圧感はあるけど。
 ――全長は頭部の角も含めて二十メートルほどくらいか。アジャイルセンチピードの成虫と同じくらいだな。
 同じくらいの全長だけども、こっちの方を大きく感じるのは、胴回りが原因だろうな。
 細長いムカデの胴回りと比べると、筋肉質で逞しさを感じさせるし、腹部は蛇腹状になっていて、見るからに硬質。
 黒い鎧のような蛇腹に、体節から伸びる無数の腹脚は、先端がエッジの効いた殺傷力がありそうなもの。
 重量ある存在が鋭利な腹脚で歩むだけで、進行ルートを破壊しつくすだろう。
 腹部同様に背面も硬質のようだ。
 発達した筋肉からなる体表は外骨格を思わせる。
 通常の矢どころか、槍のような矢を放つバリスタでも通用しなさそうな体。
 メーサー兵器が欲しくなるところ。

「どうするの? 戦うんだよね。命を奪わない程度に」
 シャルナはいつでもいいとばかりに、MASADAを構える。

「当然でしょう!」
 と、俺に代わってコクリコが発し、口に出すと同時にワンドをモドキに向けようとするので、いつものようにフードを引っ張って制する。
 引っ張った時の「ぐぇ」ってのは相も変わらず美少女から聞きたくない声ではあるね。

「とりあえず落ち着け」

「いやいや、見た目からして完全に敵でしょう。相手もこちらを敵として判断しているようですし」

「主従関係を分からせるって理由で、生まれるところにファイヤーボールを三発同時にぶち込まれれば、誰だって敵認定するだろうよ……」
 どのみちヤヤラッタ達が生み出している時点で敵ではあるんだけども、それでもミルモンの見通す力を信じれば、あのモドキは味方になるのは間違いない。
 
 ――うむ、

「よければ正式名称を教えてくれるかな?」

「我らが作り出した生体兵器に名はまだない。そうだな。おざなりで悪いがエビルレイダーというのはどうか?」

「禍々しいこって。生みの親が子に適当な名前をつけるなよ。つけられる子の今後を考えてやれ。役所に行ってやり直してこい!」

「正式な名は後々、名付けさせてもらう」

「お前たちを倒してからな――ってか?」

「その通りだ」
 へたり込んでいる割には余裕ある発言だな。

「トール!」
 コクリコの切羽詰まった声の原因は、目の前のモドキ改めエビルレイダーが鎌首を上げていた姿勢から更に背を反らし、頭部の金色からなる角に同色の輝きを発生させたから。

 角を包む輝きは躍動感のある迸ったもので、バリバリと音を立てる。
 狭い空間だから壁にも音が反響し、凶悪さに拍車を掛けてくる。

 間違いなく――、

「電撃くるぞ!」
 発せば、それに合わせて角に纏っていた金色に輝く電撃が放たれる。

「おお!?」
 シャルナとタチアナが即応し、プロテクションを展開。
 電撃は防いでくれるけど、障壁の向こう側から伝わってくる衝撃は、ハルダームの手にしていたパルチザン・プロトスから放たれる青白い電撃とは段違いの威力だというのが伝わってくる。

「直撃すれば黒焦げだぞ」

「しかも全体攻撃という煩わしさですね」
 コクリコが言うように、角から放たれた電撃は複数に枝分かれし、それが生き物のように敵味方を判断。
 岩石からなる大地を穿ちながら俺達だけを狙って向かってきた。

「後衛は障壁魔法で掩護を頼む」

「分かりました」
 と、タチアナ。

「これは私も後衛に徹した方がいいかもね」
 シャルナも後方にてタチアナと共に回復と障壁に徹してくれるようだ。
 タチアナには悪いけども、シャルナが後衛に回ってくれると安心感が上がる。
 とりあえずとばかりに、後衛へと移行する前にMASADAによる射撃をシャルナが行う。
 狙うのは蛇腹状の腹部。
 一発撃てば、チュンといった音を発し、跳ね返してくる。

「まあ、そうなるよね」
 5.56㎜では意味がないと理解しつつも、実行する事でシャルナは効果があるかを確認したかったようだ。
 あの体の中で弱点になり得そうな複眼を狙わなかったのは、こちらにとって必要な存在だというのを認識しているからだろうな。

 当然ながらこちらの厚意など相手は知る由もないので、

「くぅ!」
 問答無用に頭部の角から次なる電撃を放ってくる。
 今度のは全体にではなく、一点集中とばかりに射撃を行ったシャルナに対してだった。
 シャルナはプロテクションを展開して防ぐも、威力が高いと判断したのか、一枚目の後、直ぐに二枚目を展開。

「おお……」 
 一枚目が破壊され、二枚目のプロテクションでなんとか防いだ。
 一点集中の電撃となれば、シャルナのプロテクションを一枚破壊するだけの威力。
 全体攻撃の時はプロテクションは消滅しなかったけども、単体攻撃の電撃となれば威力が跳ね上がるようだな。
 火力はティーガー1のアハト・アハトに近い。
 しかも全体攻撃から単体を放ってくる速度が速い。
 ――三撃目はタチアナが三重のプロテクションを展開し、三枚目でかろうじて防いだが、その三枚目も相殺といった形だった。

 ――絶え間なく迫る電撃。シャルナとタチアナが幾重ものプロテクションを展開することで、なんとか攻撃を乗り切っている。
 相手のリキャストタイムの短さに対応するために、シャルナも五重のプロテクションを展開して確実に防ぎきる。
 シャルナとタチアナのプロテクションによる障壁は要塞を彷彿とさせた。
 だが高火力を防ぐ為に、常に新しい障壁を展開するのは流石にきつそうだった。
 対してエビルレイダーは、連続で電撃を放っても疲弊しているという様子はない。

「手数の多い生意気な電撃。仕置きと躾が必要ですね!」
 二人が防いでくれることで魔法に意識を集中させるコクリコ。
 装身具であるオスカーとミッターのタリスマンを強く輝かせて火力バフを施せば、

「ポップフレア!」
 自身のワンド。アドンとサムソンも連動して炸裂魔法を発動。
 バランスボールサイズのファイヤーボールよりも一回り小さな火球ではあるけど、威力は中位魔法であるポップフレアの方が高い。
 相手に対して手心なんて加えてやらない! というコクリコの念が籠もった火球がエビルレイダーに当たれば、小規模爆発が立て続けに発生。

 中位の炸裂魔法ながらも、バフによる三発は、上位の炸裂魔法であるバーストフレアを凌駕する爆発力。
 連鎖爆発が起こる度にこちらの体にも衝撃が伝わってくる。
 地下施設の天井や壁、地面も大いに揺れる。
 ――……落盤どころか一帯が崩落しそうな不安を植え付けてくる威力を容赦なく放ったな……。コクリコ。
 主従関係を分からせるって威力じゃねえよ……。
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