異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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矮人と巨人

PHASE-1373【その挑発、乗りましょう】

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 動き出す十四人の取り巻きが足を向けるのは――俺。
 主を守る為、一気に俺を叩こうとしているのだろうけど、それを許さない者達がいる。
 間髪入れずに相手の初動を遮るのは、こちらの頼りになる面々。

「まったく。また首級を得る事は出来ないようですね」

「そう言わずにトールに任せようか。こっちの連中も今までのとは違うからね」

「そのようですけども、幹部や十体長より下となれば、歯ごたえはなさそうですけどね。弱ってますし」
 コクリコのこの発言には挑発に乗りにくい連中であっても、生意気! と発してパーティーへと方向転換。
 一時の休息を得られたからか、動きに勢いがあるようだけど、あの動きは――、

「玉砕か?」
 盾を前方に突き出し、一塊となって突撃するスタイルは後先を考えた動きには見えない。

「捨て鉢による戦いではない。全身全霊で戦うという姿だ」

「さいですか」
 ハルバートによる頭部を狙っての刺突と共に、部下の気概を代弁してくるヤヤラッタ。
 強烈な刺突であっても鋭さはないので見切るのは簡単。

「お前も少しは全身全霊でぶつかってみせよ!」
 ヤヤラッタがこちらに向けて鼓舞。
 当然ながら俺にではない。向ける相手は俺が立つ存在。

「動くと折檻だぞ」
 右手に持つ鞘に収まる残火を軽く振って脅してみれば、巨体がビクリと震える。
 本当にメンタル弱いな。

「電撃を放つだけでいいのだ!」

「だから見えてんだよ」
 次なる刺突も上半身だけを動かして躱しつつ、マラ・ケニタルを左手で抜刀しながらの逆袈裟によるウインドスラッシュを放ち、手首を返してからの――袈裟斬りによるマスリリース。
 ネイコスとピリアの二連撃を放てば、プロテクションでかろうじて防いでくるヤヤラッタ。
 かろうじて防ぐほどに反応速度が遅い。
 回復してきているとはいえ、弱体化は顕著。

 それに――、

「エビルレイダーは大事な存在だよな」

「それはお互い様だろう」

「だな」
 俺の上半身だけを狙ってくるハルバートにる攻撃は刺突ばかり。
 もし下半身を狙って躱されれば、穂先がエビルレイダーに刺さる可能性があるからだろう。
 だから斧部分による振り下ろしもしなければ、攻撃範囲が広い魔法の使用も避けているわけだ。

「地の利は我に有りってね」

「得意げに言うが、こちらから見れば人質を取って戦っている卑怯者のようだ」

「ぬぅ」
 そう言われると中々に俺は卑怯だな。
 発言を受けて俺の動きが鈍くなったからか、ダメ押しとばかりに、

「森にて神官姿の娘をクワノスが捕らえ人質にした時の事を――思い出した」

「ぬぅぅ……」
 タチアナが人質に取られた時の怒りに染まった自分の事を思い出してしまう。
 俺がミノタウロスと同様の戦い方をしていると言わんばかりだな。

「兄ちゃん。挑発に乗ったらダメだよ」

「……おう」
 ミルモンにここに留まるように言われる。
 ここでエビルレイダーから離れてしまえば、電撃が再び放たれ、パーティーメンバーに迷惑がかかるからな。

「勝てる相手と対峙し、且つ人質も使用する。大した勇者様だ」

「ああ!」
 ここで乗っかると皆に迷惑がかかる。
 俺は和を以て貴しとなすを心がける人間。
 協調性を大事にしたい人間。
 挑発を受けてわざわざ皆を不利にすることなんて出来ない。

「兄ちゃん。乗っちゃダメだからね」
 と、可愛い小悪魔ミルモンが俺を制してくれるからね。癒やしですよ。

「マメのような小悪魔は助言――甘言しか出来ないのか?」

「はあ! デカいだけの悪魔がこの魔界の勲功爵であるオイラになんとも生意気な事を言うね! 兄ちゃん。やってやろう!」
 ――……まあ、この面子の中だとコクリコ並みに短気な性格だったな……。
 俺を制していた時のミルモンとは真逆で顔を真っ赤にし、俺の左肩でサーベルを抜く。
 お願いだから振り回さないでくれ……。
 他者が怒る姿を見ると、不思議と冷静になるのが人間というもの。

「格下で尚且つ弱体化している存在がそんなにも怖いか?」
 必死になって挑発をしてくるのは、それだけ自分が一杯一杯の状況ってこともあるんだろうな。
 武人として尊敬できる存在。
 そんな存在が少しでも勝機を得るために挑発を繰り返す。
 心底では自らの発言に対し、恰好の悪いことだと思っているのかもしれないな。
 
 ――だが乗ってはやらない。
 俺の矜持という我が儘に周囲を付き合わせたくはない。だからこの有利なポジションのまま――、

「トール! 勇者がそこまで言われて受けて立たないのはどうかと思いますよ」
 ミルモンと短気ではいい勝負をするコクリコから声が上がれば、

「そうだね! 気持ちよく力の差を見せてやればいいよ!」
 とシャルナも続く。
 二人によるゴーサインに残りの三人も異を唱えることはない。
 ヤヤラッタの挑発に乗って戦っても文句は言わない。むしろ堂々と戦って勝てというのが伝わってくる。
 このまま有利な状況で戦っても恰好が悪いから、発破を掛けてくれているんだろうな。

「トールは馬鹿なんですから、素直に挑発に乗って戦えばいいんですよ」
 ミルモンと同レベルで挑発に乗りやすいコクリコに言われたくはない。
 
 でもまあ――、

「確かにこの戦い方は格好が悪いよな~」
 ゴーサインをもらったことだしな。
 そのご厚意に甘えさせていただきましょう。
 異を唱えなかったタチアナ、コルレオン、パロンズ氏にも目を向ければ、戦いの最中でも笑顔で返してくれた。

「どうした? 仲間が背中を押しても、その魅力的な一等地から立ち退くことはしたくないか?」
 ――兜の奥でくぐもった笑いと共に発してくるその挑発に――乗ってやろうじゃないの!

「んだコラ! やったら!」

「ぐぁ!?」
 エビルレイダーの頭部を踏みつけての一足飛び。その勢いのまま、裂帛の気迫と共に空中に留まる挑発者に蹴りを入れてやる。
 このまま安全圏で戦えば、危なげなく勝利を得ることも出来たんだろうけどな。
 我ながら阿呆な選択をしたもんだ。
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