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矮人と巨人
PHASE-1379【留まった理由】
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「脅されていたのではないのかな?」
パロンズ氏の問いに、
「脅されてはいました」
「ならば語気を強めた理由は?」
ヒゲをしごきつつ、続けて問うパロンズ氏に対し、
「ヤヤラッタはそんなことをしませんよ。直接、戦った俺が保証します」
俺が代わりに述べる。
「――会頭がお認めになる存在ならば、そのような事はしませんな。となれば――」
「ハルダーム達――蹂躙王関係の連中によるものでしょう」
「はい……」
俺とパロンズ氏の視線を受けながら、返してくる語気はまたも弱々しい。
自分たちの技量の高さを利用されて、もっと良い物を作れと強要されていたという。
それこそ断れば命を奪われるのは間違いなかったそうだ。
軍監であるヤヤラッタが間に入って対応していたからこそ、命が保証されていたということだった。
それでも短期間で兵達の装備を作り出していることはかなりの重労働だったというのは、体を見れば分かる。
近くでようやく全体を見る事が出来たことで、ブロンテース氏の苦労がわかるというもの。
褐色の巨人の体を支えるには苦労しそうな体躯だった。
筋肉は痩せ細っているし、大きな一つ目の下には濃いクマ。
極度の疲労が溜まっているのが分かる。
親方様の館で見た建具に彫刻された、筋骨隆々な存在とはかけ離れた体。
「お疲れ様でした」
「ああ、いえ……」
俺がこれまでの苦労をねぎらえば、安堵したようにブロンテース氏は大きな体で座り込む。
重労働に加え、エビルレイダーを生み出すために力も注いだからだろう、疲れはピークに達しているようだ。
「まあ、これでも飲みなさい」
ここでコクリコがポーションを数本ブロンテース氏に手渡す。
八メートルサイズの巨人からすれば水滴を口にいれる程度なんだろうけども――、
「助かります」
恭しく頭を垂れて礼を伝えてから小瓶を受け取る。
人間が使用するサイズの小瓶に入ったポーション。
その小瓶の蓋を巨人の大きな指で器用に抜くところを目にすれば、本当に手先が器用な種族だというのが分かるというもの。
一息ついたところで、
「本当にヤヤラッタ殿には感謝しかありません」
と、遺体となったヤヤラッタの前に移動し、土下座に似た姿勢で額を地面につけて礼を述べていた。
ハルダームを中心とした蹂躙王の配下達による無理な酷使。
それから守り、安定した武具の生産や建築を頼んだヤヤラッタ。
自分の部下を中心に、ブロンテース氏たちの生産に助力したことで、一年間でこれだけの規模の拠点と装備を整える事が出来たそうだ。
ひたすらに働かせるのではなく、息抜きも労働には必要。それにより物事が捗るってのを学ばされる。
そして、そういった説明をブロンテース氏から聞かされることで、ヤヤラッタがなぜここに留まったのかが分かった。
「何が長距離飛行は苦手だよ。同胞をおいてはいけないとも言っていたけども。全ては――」
「自分たちを守ってくれるためです」
ブロンテース氏の大きな目には、目に負けないほどの大きな涙が溜まる。
この地にキュクロプス達だけを残し、自分たちだけが南に移動して現状を知らせる間、好き勝手に酷使するというのが分かっていたって事なんだろうな。
「だとしてもヤヤラッタを残して、一人くらいは飛行で南に行けばよかったんじゃないのかな?」
その通りと続きたくなるシャルナの発言だったけども、ブロンテース氏曰く、長距離飛行が苦手だというのも事実だということだった。
それに森に居続けたことで、外の状況が分からなくなってしまった以上、どこに敵の目――すなわち俺達が目を光らせているかも分からなかったというのも、この森から出られない理由の一つになっていたそうだ。
そういったいくつかの要因が重なり、留まるという原因になったお陰で、ブロンテース氏たちは過労死せずにすんだわけだ。
――って、
「達ってことだったから他の同族の方々は?」
「兄たちは無事です」
「兄たち――ですか」
となると、ここに連れてこられているキュクロプスは兄弟で、ブロンテース氏は末弟という事になるのかな?
「兄者!」
弱々しかった口調だったけど、コクリコからもらったポーションで少しは体力も回復したのか、はたまた自分たちを縛り付けていた魔王――蹂躙王軍の脅威がなくなった安堵感からか、張りのある声になっている。
――……反面……。
「お、おう……」
「だ、大丈夫かな……」
と、弱々しい声を発した二名が奥の方か登場。
ブロンテース氏同様、声とは正反対に地を震わせる歩みだが、全くもって迫力がなかった。
「うむ……」
見分けがつかない……。
「流石はご兄弟ですね。お三方の顔立ち、とても似ています」
「そうですか? 兄弟なのに似ていないと種族間では言われるのですが」
キュクロプス族はどこでどうやって見分けをつけているんでしょうかね……。
「まったくもって分からないですね!」
俺とは違って強い語気のコクリコの姐御。
小柄な少女のその発言に、三人の巨人はビクリと体を震わせて猫背スタイルとなって頭を下げてくる。
相手が巨人だろうがまったくもって怖がらないところは流石はコクリコである。
こういった時はコクリコに任せるのが正解なので、マスターオブセレモニーという立ち位置にそのまま居座ってもらう。
――コクリコの司会進行により二人が自己紹介。
長男のアルゲース氏と、次男のステロペース氏がこちらに深々と頭を下げての挨拶。
名乗ってもらってなんだが、シャッフルされると見分けるのが難しいのは変わらない。
「貴男たち。その乱れきった髪を整えてください」
司会進行がそう発せば、手ぐしで整える巨人のお三方。
そんなお三方に対し、
「整えても変わりません。そうですね――長男は髷一つ。次男は二つ。末弟は三つにしなさい。それで見分けます」
「「「はい!」」」
司会進行に言われるままに従う三人の巨人。
中々の圧を感じさせるコクリコの進行に、別段、自分が言われているわけでもないのに、パロンズ氏まで姿勢を正して三人の動きを見守っていた。
――圧によりキビキビと動く面々の姿。
結果発表という発言に定評のあるお笑い芸人の進行のもと、キビキビと動く若手芸人たちを彷彿とさせる。
パロンズ氏の問いに、
「脅されてはいました」
「ならば語気を強めた理由は?」
ヒゲをしごきつつ、続けて問うパロンズ氏に対し、
「ヤヤラッタはそんなことをしませんよ。直接、戦った俺が保証します」
俺が代わりに述べる。
「――会頭がお認めになる存在ならば、そのような事はしませんな。となれば――」
「ハルダーム達――蹂躙王関係の連中によるものでしょう」
「はい……」
俺とパロンズ氏の視線を受けながら、返してくる語気はまたも弱々しい。
自分たちの技量の高さを利用されて、もっと良い物を作れと強要されていたという。
それこそ断れば命を奪われるのは間違いなかったそうだ。
軍監であるヤヤラッタが間に入って対応していたからこそ、命が保証されていたということだった。
それでも短期間で兵達の装備を作り出していることはかなりの重労働だったというのは、体を見れば分かる。
近くでようやく全体を見る事が出来たことで、ブロンテース氏の苦労がわかるというもの。
褐色の巨人の体を支えるには苦労しそうな体躯だった。
筋肉は痩せ細っているし、大きな一つ目の下には濃いクマ。
極度の疲労が溜まっているのが分かる。
親方様の館で見た建具に彫刻された、筋骨隆々な存在とはかけ離れた体。
「お疲れ様でした」
「ああ、いえ……」
俺がこれまでの苦労をねぎらえば、安堵したようにブロンテース氏は大きな体で座り込む。
重労働に加え、エビルレイダーを生み出すために力も注いだからだろう、疲れはピークに達しているようだ。
「まあ、これでも飲みなさい」
ここでコクリコがポーションを数本ブロンテース氏に手渡す。
八メートルサイズの巨人からすれば水滴を口にいれる程度なんだろうけども――、
「助かります」
恭しく頭を垂れて礼を伝えてから小瓶を受け取る。
人間が使用するサイズの小瓶に入ったポーション。
その小瓶の蓋を巨人の大きな指で器用に抜くところを目にすれば、本当に手先が器用な種族だというのが分かるというもの。
一息ついたところで、
「本当にヤヤラッタ殿には感謝しかありません」
と、遺体となったヤヤラッタの前に移動し、土下座に似た姿勢で額を地面につけて礼を述べていた。
ハルダームを中心とした蹂躙王の配下達による無理な酷使。
それから守り、安定した武具の生産や建築を頼んだヤヤラッタ。
自分の部下を中心に、ブロンテース氏たちの生産に助力したことで、一年間でこれだけの規模の拠点と装備を整える事が出来たそうだ。
ひたすらに働かせるのではなく、息抜きも労働には必要。それにより物事が捗るってのを学ばされる。
そして、そういった説明をブロンテース氏から聞かされることで、ヤヤラッタがなぜここに留まったのかが分かった。
「何が長距離飛行は苦手だよ。同胞をおいてはいけないとも言っていたけども。全ては――」
「自分たちを守ってくれるためです」
ブロンテース氏の大きな目には、目に負けないほどの大きな涙が溜まる。
この地にキュクロプス達だけを残し、自分たちだけが南に移動して現状を知らせる間、好き勝手に酷使するというのが分かっていたって事なんだろうな。
「だとしてもヤヤラッタを残して、一人くらいは飛行で南に行けばよかったんじゃないのかな?」
その通りと続きたくなるシャルナの発言だったけども、ブロンテース氏曰く、長距離飛行が苦手だというのも事実だということだった。
それに森に居続けたことで、外の状況が分からなくなってしまった以上、どこに敵の目――すなわち俺達が目を光らせているかも分からなかったというのも、この森から出られない理由の一つになっていたそうだ。
そういったいくつかの要因が重なり、留まるという原因になったお陰で、ブロンテース氏たちは過労死せずにすんだわけだ。
――って、
「達ってことだったから他の同族の方々は?」
「兄たちは無事です」
「兄たち――ですか」
となると、ここに連れてこられているキュクロプスは兄弟で、ブロンテース氏は末弟という事になるのかな?
「兄者!」
弱々しかった口調だったけど、コクリコからもらったポーションで少しは体力も回復したのか、はたまた自分たちを縛り付けていた魔王――蹂躙王軍の脅威がなくなった安堵感からか、張りのある声になっている。
――……反面……。
「お、おう……」
「だ、大丈夫かな……」
と、弱々しい声を発した二名が奥の方か登場。
ブロンテース氏同様、声とは正反対に地を震わせる歩みだが、全くもって迫力がなかった。
「うむ……」
見分けがつかない……。
「流石はご兄弟ですね。お三方の顔立ち、とても似ています」
「そうですか? 兄弟なのに似ていないと種族間では言われるのですが」
キュクロプス族はどこでどうやって見分けをつけているんでしょうかね……。
「まったくもって分からないですね!」
俺とは違って強い語気のコクリコの姐御。
小柄な少女のその発言に、三人の巨人はビクリと体を震わせて猫背スタイルとなって頭を下げてくる。
相手が巨人だろうがまったくもって怖がらないところは流石はコクリコである。
こういった時はコクリコに任せるのが正解なので、マスターオブセレモニーという立ち位置にそのまま居座ってもらう。
――コクリコの司会進行により二人が自己紹介。
長男のアルゲース氏と、次男のステロペース氏がこちらに深々と頭を下げての挨拶。
名乗ってもらってなんだが、シャッフルされると見分けるのが難しいのは変わらない。
「貴男たち。その乱れきった髪を整えてください」
司会進行がそう発せば、手ぐしで整える巨人のお三方。
そんなお三方に対し、
「整えても変わりません。そうですね――長男は髷一つ。次男は二つ。末弟は三つにしなさい。それで見分けます」
「「「はい!」」」
司会進行に言われるままに従う三人の巨人。
中々の圧を感じさせるコクリコの進行に、別段、自分が言われているわけでもないのに、パロンズ氏まで姿勢を正して三人の動きを見守っていた。
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