異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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矮人と巨人

PHASE-1386【ちょっかい出してきたね】

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「よっし! じゃあ王都に戻るか!」

「なんだ。せっかく四阿が整ったのだ。食事の次は本格的な酒宴といこうではないか!」
 本格的な酒宴て……。貴方方は常に飲んでるでしょうよ……。

「お気持ちは嬉しいですが、直ぐに王都に戻りたいので」
 親方様に断りを入れると、残念そうに眉毛を八の字にする。
 森からの脅威が無くなったと考えていいからな。この窟の方々からすれば、憂いが消えた記念に宴会を開きたいんだろう。
 俺達も息抜きはしたいけど、エビルレイダーを王都に連れて行くまでが冒険だからな。
 とりあえずは約束通り、地底湖でミズーリを召喚して酒を――、

「失礼します!」
 石庭にいる俺達のところへドワーフ兵の一人が勢いよく駆け寄ってくる。
 玉砂利を荒らしながらの移動。
 親方様の庭を荒らしても仕方ないほどの事があったか?

「何事か?」
 荒らされてもそこを咎めない親方様はちゃんとした器の持ち主。

「ドドイル殿から火急の報せです」

「弟からか?」
 ここでダダイル氏も参加。

「それで報せとは?」
 親方様が伝えよと言ったところで、ドワーフ兵は俺を見てくる。
 この時点で俺ないし、俺達がらみってことだろうな。

「南方の要塞であるトールハンマーに魔王軍が迫っております!」

「ええ!?」

「おう、そうか」

「ええ!?」
 なんで俺が驚いているのに、親方様はそんなにも冷静なのかな?

「数は?」

「三万ほどとのこと」

「ええ!?」

「そうか」

「ええ!?」
 なんでそんなに冷静!

「なんでそんなに冷静!」
 思っていたことが口から出てしまう。

「確かに大軍であるし、久しぶりにちょっかいを出してきたようだが、あの要塞を守る者の指揮と実力はトールが一番知っているであろう。だから要塞指揮に就かせているのだろう」

「まあ、そうですけど」

「三万というのは確かに強大。が、問題はないだろう」
 トールハンマーは非戦闘員も含めれば三万。
 数としては同じだけども、実際に戦えるのは七千。
 四倍以上の戦力と戦わないといけない……。
 ――……四倍以上……。
 ――……あれ? 全くもって心配しなくていいような気がしてきた。
 単純に一人で四、五人を倒せばいいだけなんだからな。
 なんだろう。慌てていたのがアホらしくなってきたぞ。

 ――――。

「どうです?」

「まずは目的を達成できたことを嬉しく思う」

「有り難うございます」
 三万の敵が迫ってきているというのに、なんとも余裕のあることだ。
 要塞まで戻ってくれば、壁上にて南の方へと睨みを利かせていた高順氏と挨拶を交わす。
 行きより帰りの方が人数が増えている事と、シャルナがレビテーションを習得したことで俺達の成功をいち早く耳にしていた事もあって、迎撃準備を整えながらも兵やギルドメンバーは強張った表情とは違い、高順氏同様、余裕のある笑みで俺達を迎え入れてくれた。

 ――高順氏と供に要塞内を見て回る。
 緊張をほぐしてやるためにも、要塞の主である俺が皆を労ってやれということだったのだが――、

「必要なさそうだな」
 と、独白。
 非戦闘員の面々にも余裕があり、戦闘はしなくとも後方支援に励むと気勢を上げ、防御壁が破壊されることを想定し、緊急修復用の土嚢の数をチェックしていたり、手早く食せるように子供の拳サイズのパンをいくつも焼き上げていた。

「余裕ですね」

「余裕をもって行動することで冷静な行動に繋がるからな。焦っていては見落としてしまう」
 大軍が迫ってきているのにそれが出来ているのが凄いんだよな。
 それも皆して。
 高順氏の指揮の下、今まで迎撃に成功しているから非戦闘員の面々も心にゆとりがあるんだろう。
 そこが油断に繋がらなければいいけども――という心配を口に出すのは野暮ってほどに必要ない。
 余裕は持っているけど、目は高順氏のように炯眼。
 揃いも揃って覚悟の出来ている目だ。

「少しは見習わないといけませんよ。その大きな一つ目がここの者達の目力に負けています」

「あ、はい……」
 これから魔王軍が迫ってくるということで、ようやく自由になったのにまた辛い目にあうのだろうか……。という思いから大きな単眼が弱々しくなっていたようで、コクリコが活を入れるように、ゲシリと三兄弟の巨大な足に蹴りを入れていた。

「大きくとも気が優しいのだな」

「わずかでいいので、高順の勇ましさを分けてほしいですね」

「いや、私よりも姑娘クーニャンが尻を叩いた方が励みそうだな」
 巨人に臆さず蹴りを入れる事の出来るコクリコの胆力を高順氏はお気に入りの模様。 
 その言葉を素直に受け取るコクリコは、

「戦闘になれば何かと要塞内は忙しなくなるでしょう。その巨躯を活かして人の十倍の仕事をしてもらいたいですね。貴男方サイズの工房はないでしょうから、修復や投石機の石を運ぶような協力を頼みますよ」

「「「分かりました!」」」
 素直に聞き入れてお三方が動き出す。
 姐御モード時の指導力の高さには感心する。
 近くの作業員に指示も出して、三兄弟がどこで働けば良いかも案内させるテキパキとした行動には俺同様、高順氏も感心。

「それで、残ったこの巨大な生物はどうするのかな?」
 戦えるのならば活躍してもらいたいと高順氏。
 電撃の射程範囲内で大軍に対しての戦いとなれば無類の強さを発揮できるのだろうけども――戦線には出せない。というか、今後の事を考えると絶対に避けないといけない。

「防御壁に迫ってくる連中に対してのみの迎撃に限定させてほしいです」

「無理はさせられないわけだな。分かった」
 俺の意図を汲んでくれる高順氏は、迎撃にも参加させず、要塞内の厩舎で待機させておけばいいと言ってくれる。
 南方からの脅威を防ぐ最前線の拠点が有する厩舎は、大型生物がゆっくりと休めるほどに広いからね。
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