異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1390【こじ開ける】

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「ハッハッハッハ! こちらの動きを止めることもできないとは、なんとも軽い矢のようですね。相手はおもちゃの弓矢を使用しているのでしょうかね?」
 喊声をかき消すほどのコクリコの呵々大笑からなる発言。
 もしかしたら相手側にも聞こえているかもしれないであろうコクリコの声に続いて、騎馬兵たちからも小馬鹿にしたような笑い声が上がる。
 コクリコの笑いの入った発言に、こちらサイドの勢いが更に増したように思える。

「人を引きつける力を持っているようだ」
 曲芸乗りで先頭にて目立つコクリコの言動に、高順氏が将器を有している存在だと、感心していた。

「協調性のない射撃だとしても、三万を有する兵力が放つ矢とは思えないほどに少ないのは――」

「長々とした横隊の結果でしょうな」
 高順氏に言うつもりだったけど、ロンゲルさんが俺の発言の続きを口にする。
 トールハンマーの防御壁に同時に攻撃を仕掛けるために長々とした横隊を敷いたことで、俺達を狙ってくるのは、俺達が接近する箇所とその左右からだけ。
 それ以外は放ったところで俺達には届かないからな。

「だが時間をおけば要塞ではなく、こちらに対して攻撃をしかけてくるだろう。そうなると――」

「長い横隊が俺達を包囲してくるような陣形をとる可能性もあるってことですね?」

「その通りだ。現状では常山蛇勢じょうざんのだせいにはほど遠いが、冷静さを取り戻せば、頭、胴、尾が正常に機能するだろう」
 ――……説明担当として、先生か荀攸さんがいてほしいワードが出てきたな。

「何のことやらさっぱりですが、ようは目の前の連中を倒して、横隊の横っ腹から突っ込んで叩きつぶしてやればいいだけです」

「何とも簡単に言うじゃないかコクリコ」

「だが姑娘クーニャンの言は正しい」
 横隊を分断して各個撃破って考えもいいのだろうが、コクリコの剛胆な考えも妙案だと思うから肯定的な高順氏。
 指揮官が自分の考えに賛同したことで気分が良くなったコクリコは、ドヤ顔を俺に向けてくる。

『なんか余裕あるやり取りしてるみたいだけど、矢が通用しないなら、お次はとばかりにトロールが大きな石を手にしてるよ』

「人力による投石機って事だな」

『流石に鎧や盾でどうこう出来るってものじゃないよね』
 トロールの膂力で投擲してくる投石となれば防ぎきれないよな。

「障壁の展開は?」
 シャルナとのやり取りから高順氏へと話し相手を変更すれば、

「可能だが、動きが鈍くなるので――このまま進む」

「オウ……大胆」
 鈍くなればそれだけ相手に包囲の機会を与えてやることになる。
 迅速に攻めて相手の士気を一息で挫き、厭戦の気運を高めさせ、弱ったところを叩いて潰すとのこと。
 
 その前に投石で俺達が叩きつぶされるのは御免こうむるので――、

「シャルナ」

『キツいのを叩き込んで上げるよ』
 レビテーションにより俺達の直上から単身、相手側へと接近。
 先の戦いで身につけた急降下爆撃のような戦法を俺達以外にもお披露目だな。
 今回はラプスによる妨害がないから、多様な魔法と射撃。グレネードによる三段構えからなる攻撃が可能。

『ジェロニモ!』

「いやそれは落下傘降下の時のかけ声だろ……」
 いらん知識まで教えているところがゲッコーさんとS級さん達らしい……。
 主に前者が教えてんだろうけど……。
 敵の陣形へと向かってシャルナが急降下。
 U-2 からシュトゥーカへと早変わり。
 ――降下しつつの銃撃。
 これに加えて前回と違い魔法を織り交ぜる。
 アッパーテンペストで盾を前面に展開しているトロール達のバランスを崩し、上空からの強襲に慌てふためく俺達から見て奥側の勢力にブラストスマッシュを叩き込む。
 去り際の一撃とばかりに、前回同様、急上昇しながらのフラググレネードを投下。
 爆ぜれば周囲に弾殻の破片が飛び散り、苦痛の声を上げ、爆音に慌てふためいているとシャルナからの戦果報告。

「弓箭」
 高順氏の一言に、

「構え!」
 と、大音声で続くロンゲルさん。
 続いて先ほども耳にした一つの音に纏まった弦音から放たれる矢。
 放物線を描いて混乱している盾の奥側に矢が突き刺されば、更なる苦痛の声が上がる。
 今まで以上によく聞こえる。
 それだけ俺達が接近しているということ。

 正面からの投石による攻撃はなく、両サイドからも飛翔体がくることはない。
 上空からのシャルナの攻撃が気になって、そちらに対して対空をするということに注力しているように見える。

 隙が出来たな。

「コクリコ。出番の緞帳は上がってるぞ」

「既に準備万端!」
 言われなくとも! とばかりに曲芸立ちのコクリコは左手で手綱を握り、右手に持つワンドを指揮者がタクトを振るように動かせば、アドンとサムソンを周囲に展開させる。
 これに先駆け、装身具であるオスカーとミッターも煌々と輝きを放っていた。
 魔力の能力向上は済んでいる状態。
 
 後は――、

「ファイヤーボール!」
 の一言を俺達は耳朶に入れるだけだった。

「おお!」
 ここで高順氏から驚きの声が上がる。
 今まで落ち着きある低い声だったけども、コクリコが顕現させた三つのバランスボールサイズの火球を目にして、普段とは違ったリアクションを見せてくれる。
 胆力ある要塞指揮官が驚きのリアクションを取るのだから、後ろに続く面々も喊声から驚嘆の声に変わっていた。
 自分を見る味方からのリアクションに、曲芸立ちのコクリコは大層ご満悦。

「ハハハハハハッ! 相手がこれからどうなるか刮目していなさい!」
 哄笑からの大音声。
 強兵たちが自分に向けるリアクションで気分を良くしているが、その有頂天な姿に相応しいほどの大爆発が眼界で発生。
 エルウルドの森にて築かれていた拠点を守る木壁を容易く木っ端にした火力はここでも健在。
 トロール達が自身の体を隠せるほどのタワーシールドを横隊の全面に展開しての簡易的な防御壁を築いていたが、それを破壊し尽くす。
 後方で盾を構えていたトロール達も爆炎に巻き込まれ、全身が炎で襲われる者や、上半身が消滅している者もいた。
 高速再生スキルを持っているトロールであっても、高火力の一撃が直撃すれば助からないというのは森の中で目にしている。

「一気に崩れたな」

「当たり前ですよ高順。このロードウィザードの偉大なる一撃に崩せないモノはありません!」

「大した姑娘クーニャンだ」

「然もありましょう!」
 自信に満ちた返しに、高順氏も笑みを湛えて返す。
 少女であっても強者という存在ならば、リスペクトを抱くところが武人である高順氏らしいところ。

 シャルナが上空で相手の視線を集めてくれれば、コクリコが陣形に穴を開ける。
 内の女性陣が突入ルートを作ってくれた。
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