異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1391【一体化】

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「公爵様のお供である、偉大なるロードウィザード殿が道を開いてくれましたな!」
 ここぞとばかりにロンゲルさんがコクリコを持ち上げる。
 高火力を目にしたことで、本心からってのもあるんだろうけど、太鼓持ち的な部分が大きそうだな。
 パーティーを称賛しましたよ! といった視線を俺に向けてきたのが良い証拠……。
 敵隊列に接近している中でも、自分と部下達の地位向上のためにヨイショを行うロンゲルさんは肝が据わっている。

「開いたところから崩してやりましょう。ロンゲルさんと配下の武勇を耳にすれば、バリタン伯爵も喜ぶことでしょう」
 なので当人が喜ぶ内容を言葉にしてやれば、

「我らが奮闘を見ていてください公爵様!」
 意気揚々に発せば、方言に統一性のない部下たちに報酬という言葉を餌としてぶら下げると、地頭であるロンゲルさんに付き従い続けたことで性格も似てくるのか、揃って戦意が高揚していた。

「会話はここまでだ。発するなら咆哮にしておけ」
 敵隊列へ衝突する一歩手前で、槍を新体操のバトンのように振り回す。
 ヒュンヒュンと小気味の良い風切り音を槍で奏で、柄をぐっと握り穂先を横隊へと向ければ相手も迎撃とばかりに、

「槍衾です」
 盾による壁がなくなった箇所に長槍を展開してくる。

「跳べ絶地」
 俺の警告など意にも介さずワーグに語りかければ、

「おお!」
 ワーグこと絶地が高い跳躍。
 足元の悪い湿地帯でありながら、五メートルを超えるトロールの頭部まで四肢が達する。

「フッ」
 達したところで小さく息を吐いて槍を振るう高順氏。
 トロールの首が簡単に飛んだ。
 パルチザンと比べると高順氏の槍は突きに特化している形状だが、そんな事はお構いなしとばかりの斬撃で、巨大なトロールの首を斬り落とした。
 着地と同時に下方で長槍を展開しているゴブリンやオークからなる部隊を絶地が兜から伸びる金属の前立てで突き刺しつつ、強靱な牙と爪も使用しながら引き裂きさけば、跨がる高順氏も手早く槍を振り回して周囲の命を屠っていくことで槍衾が機能しなくなっていく。
 
 瞬く間に命を奪っていく姿を目にしながら――、

「よいしょ!」
 俺も高順氏に続いて二刀を振るって命を刈り取る。
 ――流石はダイフク。
 俺が手綱から両手を離しても、俺の姿勢が崩れないように支えてくれる。
 なので攻撃に集中することが出来る。
 普段、馬上で戦闘をすることがない俺。
 適当に刀を振るえば、勢い余ってダイフクを傷つけてしまう可能性もある。
 なので気迫とは裏腹に、斬撃は慎重なもの。
 慎重であるが故に太刀筋は単調なもので、馬上から振り下ろすだけ。
 ありがたいのは単調な振りでも、相手の鎧や盾を切り裂いてくれる残火とマラ・ケニタルの切れ味。
 馬上戦闘の経験が浅くても、この切れ味でカバー。

「ラララララライィィィィィィッ!」

「すげえ」
 高順氏が切り開いたところにロンゲルさんが大音声で入り込み、そこに部下の面々と他の騎兵達も突入。
 相手の横隊が他愛なく崩れていく。
 穴を穿って大穴にし、そこからヒビを走らせて壊していくイメージが浮かぶ。

「左へ転進」

「ハッ!」
 横隊の中に入り込めば、高順氏が左へと移動。
 一糸乱れず後方の騎馬隊もそれに続く。
 
 ――横隊の中を突き進むことで相手の隊列を割くように突き進んでいく。
 シャルナの位置から見れば、竹を縦に真っ二つにしているように見えることだろう。
 
 オークやゴブリンだけでなくトロールもいる敵軍。
 巨人がいようとも、高順氏を先頭にした進軍を止める事は出来ないといったところ。

「しかしこれだけ進んでしまえば後方の歩兵が」

「彼らには最初に突撃した箇所から分断した右側の連中に対応してもらう。こちらに続く必要はない」
 スキルの恩恵を受けない歩兵には無理はさせないってことか。
 その分、騎兵の負担が大きくなるけど。
 千五百の騎兵が三万弱を相手にするんだからな。

「どんどん進みますよ!」
 そんな事をまったくもって考慮していないコクリコが高順氏を追い抜いて進もうとするも、そこは冷静に行動してもらいたいのか、高順氏が制する。
 馬上においてはこちらの組織で右に出る者がいない高順氏の制しという事もあってか、コクリコはすんなりと従っていた。
 コクリコを素直にさせるってのが凄いよ。

「今はただ圧のみで叩きつぶしていく。姑娘クーニャンは先ほどのような力をいつでも放てるように備えてくれ。時が来たら豪快に頼む」

「承りましょう」
 返しつつコクリコは高順氏の一つ後ろまで下がる。

 ――それにしても、

「随分と相手の横隊を簡単に割いていきますよね」
 高順氏の騎兵指揮能力の高さってのもあるんだろうけど、それにしても相手の動きも遅い。

「鈍いのは――長柄が原因かな?」
 眼界で蹴散らしていく連中の立ち回りを見ての感想。

「その通りだ」
 と、簡単に返してくる高順氏。
 続きは自分がとばかりに、馬の加速力を利用しての槍による刺突で相手を絶命させながらロンゲルさんが説明をしてくれる。
 
 ――長大な横隊を側面から襲えるようになれば、こちらは一方的になるそうな。
 理由は、こちらが騎兵であるから相手は槍衾を展開してくるのは分かっていた。
 その槍衾に対し、こちらから見て敵右翼側から突撃。
 そこから割くように横隊を横断。
 相手はこちらに穂先を向ける為、左向け左を行いたいわけだが、突撃を受けて混乱。
 しかも突撃してくるのがこの地を守り続けている恐怖の騎兵集団となれば、その恐怖も跳ね上がり動きが鈍くなる。
 加えて手にするのが長柄となれば、体の向きを変えたくてもその長柄が邪魔になる。
 正面に向けての槍衾と違い、左へと穂先を向け直そうとすれば、両隣の仲間に長柄が当たり動きに制限がかかる。
 なのでこちらの突撃に対して迎撃が遅れるわけだ。

 ダメ押しとばかりに――、

「弓箭――狙え」
 こちらに対応しようと動く部隊を捕捉すれば、高順氏がその方向へと穂先を向ける。
 連動するように後方から直ぐさま騎射が実行され部隊を一掃。
 相手に迎撃の機会を与えないよう、動きを徹底的に潰していく。

 騎兵達の人馬一体に加え、その騎兵達との意思疎通を一つの生き物のように一体化させているのが高順氏の用兵術。
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