異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1392【じゃじゃ馬ならし】

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 ――横隊内部への突撃となれば乱戦に近いものになるからか、相手は同士討ちを避けたいことから、弓矢や魔法の使用を躊躇しているというのが見て取れた。
 対してこっちはひたすらに突き進むだけだから、騎射や魔法もやりたい放題とばかりに相手へと放っていく。
 要塞滞在のギルドメンバーが魔法攻撃の中心となって活躍してくれている。

「うう……」
 自分も撃ちたいのか、ウズウズしているコクリコの感情に反応するように、二つの装身具がギラギラと輝いていた。
 いつでも強烈なのを撃てるという状態なのだけども、

「まだだ姑娘クーニャン。一番いいところをくれてやるからそれまでこらえてくれ」
 という高順氏のおいしいところはくれてやる発言にぶっぱ欲を抑えているといったところだ。
 ――高順氏、コクリコの扱いに長けているな。
 常に行動を共にしているわけじゃないのに、我が強く、直上タイプのじゃじゃ馬を上手く御している。

 ――……。

「あ、そりゃそうか」

「どうした?」

「いえ、別に」
 扱いが上手くて当然だよな。
 コクリコ以上に我が強い存在であろう呂布という、三国志最強の武将を諫めるポジションでもあった人だもんな。
 虎のような存在を諫めるんだ。高順氏から見ればコクリコなんて子猫みたいなもんだろう。

 ――しかし、痛快だな。

 命のやり取りにおいて思ってはいけない感情なんだろうけども、馬が進むだけで相手の陣形が崩れていく様はどうしても高揚感を抱いてしまう。
 こんなにも簡単に大軍が崩れていくんだからな。
 基本、軍勢と軍勢による戦いという経験が少ない俺。
 しかも万を超える大軍に対して馬上の人となって突っ込んでの戦いとなれば、初めての体験でもある。

「それにしても眼前の敵だけでなく全体の敵の動きも鈍いですよね」

「横隊だからこそ、我々から離れた位置にいる者達は何が起こっているのかが分かりづらい。湿地だから砂塵も上がらないことで特に分かりづらいだろう。そして分かった時には目の前に我々がいるといった状況だな」
 これに加えて混乱もしているから伝達が上手くいっていないというのも推測できるとのこと。

「練度の低さが窺えますな! 指揮官殿!」

「全くもってその通り」
 余裕ある会話を交わしながらも敵陣を割くように進んで行く千五百からなる騎兵。
 三万の軍勢であっても横隊を割くように進めば、こちらは数の不利を感じることなく進んでいける。
 数の有利性を相手に活かさせない戦い方を強いる事が出来るのも、こちらと相手の練度の差によるものだな。

「欲を出した結果だ」
 と、ここでも高順氏が突撃前と同じような事を言う。
 この突撃の先頭を駆ける立ち位置にいることでその発言も理解できる。
 三万による包囲や全兵力でこちらにぶつかってくるってことを初手で実行せず――、

「長大に伸ばした横隊にて要塞全体に攻撃を行うという欲を出した事で、相手はこの状況に対応出来なくなっているってことですね」

「その通りだ」

「練度が低く混乱しているとはいえ、突撃箇所の反対側にいる連中がそろそろ本腰入れてこちらに仕掛けてくる可能性もありますよね?」

「だからこそ迅速に攻めるのだ。相手が要塞攻めから我々に攻撃を集中させるという思考に切り替える前に戦意を挫く」
 言えば、目の前で立ち塞がるトロールに向かってここでも跳躍。
 容易く槍で首を斬り落とせば、着地と同時にワーグ――絶地が前立てと牙、爪でオークとゴブリンの命を奪っていくという一連の動作は先ほども目にした。
 この動作がワンセットになってる感じだな。
 先頭で槍と牙、爪を振るいながら敵の命を奪いながらも、前進する速度は落ちない。

「人馬一体ならぬ、人獣一体だな」
 一つの生き物のように、乗り手と巨狼が心を通わせている。
 そして一つの生き物として行動するのは騎兵も一緒。
 乱れることなくひたすらに俺達の後ろに続く騎兵隊の強さも異常だ。
 農耕馬のような大きな馬が馬甲を装備して走るだけで敵兵達を蹴散らしていく。
 騎馬の突撃に巻き込まれたくないという敵兵の中には、恐怖で隊列から離れていく者達も出てくる。
 
 それも逃がさないとばかりに――、

「矢」
 と、指揮官が先頭で一言発せば、横隊から離れていく敵兵が瞬く間にこちらの矢により容赦なく射殺される。
 死体はまるでハリネズミのようだった。
 こちらが数では不利だというのに、その死体の姿を見れば、こちらの方が数で勝っているとすら錯覚してしまう。

「横隊の中央部分まで辿り着きたかったが――流石に相手も愚かではないか」
 高順氏が周囲をぐるりと見渡すのを俺も真似れば、

「相手も機動力を展開してきましたね」

「そのようだ」
 横隊から飛び出し、俺達の方へと勢いよく迫ってくるのはオークの軍勢。
 跨がるのは高順氏と同じ。

「オークとワーグからなる騎獣隊か。数はざっと見て二百ってところか。中々に壮観だな」

「余裕があるようだな。勇者よ」
 ワーグの牙と爪と跳躍力。
 馬とは違い、乗り手以外にも攻撃方法が多様なワーグが脅威なのは先頭を駆ける存在が見せてくれたから理解は出来ているけども――、

「この突撃を止められるほどの脅威は感じませんね」
 高順氏の指揮する騎兵隊の強さは、ワーグの牙と爪による脅威以上だからな。

 それに――、

「相手の牙と爪はこっちには届かないでしょう」

「確かにな。待たせたな――姑娘クーニャン
 俺に続いて口を開き、曲芸乗りの頼りになる自称ロードウィザードに二人して目を向ければ、

「ここでも刮目してもらいましょう!」

「刮目するさ! 見せてやれお前の強さを! 初撃以上の衝撃を敵だけでなく、要塞の猛者たちにもな! 皆の度肝も抜いてやれ!」

「ではトールの言うように度肝を抜いてやりましょう」

「よろしく頼むぞ姑娘クーニャン

「その余裕ある語り口を上擦ったものへと変えてやりますよ! 高順!」
 横隊から飛び出てこちらへと突撃を仕掛けてくる騎獣隊に、不敵に口角を上げたコクリコがワンドを向ける。
 
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