異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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矮人と巨人

PHASE-1394【一瞬で終わる】

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「我らを止める事など出来るものか! 公爵様、指揮官殿。そろそろ横隊の中央に辿り着くのでは?」
 ロンゲルさんがそう言えば、

「そうだろう」
 短く高順氏が返す。
 念のために上空のシャルナに聞けば、はたして正にだった。

 ――中央部分か。
 
 つまりは――、

「敵将がいるでしょうね」

「その通りです公爵様! 首級です!」
 ロンゲルさんの目が今まで以上に貪欲にぎらついたモノになる。
 その眼力に俺の背中が些か冷たくなった。
 首級を渇望するという貪欲さが生み出すプレッシャー。
 
 その貪欲さを宿す眼力は、ロンゲルさんだけではない。
 背後にいる面々は手柄を得て、報酬を手にするという考えが強い。
 最前線の地で力を磨き上げる面々が欲するのは報酬。
 報酬に見合った相手を倒せば、名声も同様に上がる。
 戦いに身を置く者として、報酬と名声を欲するのは至極当然。

「三万もの軍勢を率いるのだ。さぞ名のある将なのだろうな。価値のある首よ!」
 欲望を口から漏らすロンゲルさんに、麾下の方言兵達も同様の声を上げ、他の騎兵達も続く。
 自分たちの今の力量に見合った首を欲しいという思いが気炎として噴き出しているように見える。
 
 俺がそのように幻視するのだから――、

「相手もそう思ってんだろうな」
 一つの生き物のように一糸乱れずに動く騎兵達の進軍。
 進軍に気圧されることで、巨大な怪物でも幻視していることだろう。
 
 その証拠とばかりに、

「進んで行く先々が負の感情に支配されてるよ~」
 気分が良くなっているミルモンが俺の左肩でご機嫌に尻尾と羽を動かしている。
 いままで大人しかったのは、相手が纏う負の感情をまったりと堪能したかったからなのかな?
 ミルモンがご機嫌ってことだから、こりゃ間違いなく相手は崩れる一歩手前だな。
 
 もしも相手側もそれを理解し、総崩れを避けたいと思うならば――、

『相手に動きがあるよ。十数騎がそっちに迫ってる』
 思っていたところで上空から報告が入る。

「まあ、間違いなく向こうの強者でしょうね」
 瓦解を避けるなら強者を投入してくるのは当然。
 いまの移動位置と、士気向上の為に動くとなれば――、

「将を中心とした部隊が動いていると判断するべきでしょうね」

「だろうな」

「これは是非とも首を手に入れたいですな!」
 高順氏との会話の最中、ここでもロンゲルさんが入ってくる。
 今まで以上に目に力が籠もっていた。
 手柄への渇望が最高値に達しているのか、目には狂気を宿らせている。
 怖いよ……。
 
「是非とも自分達に!」
 と、自分と麾下の兵達が首級を上げてみせると続ける。

「見極めて決めさせてもらう」
 滾っているロンゲルさんと違って冷静な高順氏。

「御意!」
 素直に応じるロンゲルさん。
 ここで再度、是非! という発言をしないあたり、高順氏の裁量に従うという、組織で動くという事に重きを置くだけの冷静さはまだ残っているようだ。

「さて――来ますよ。お二人」
 やり取りをしている中で俺が割って入る。
 眼前からはぼけっと立っている不甲斐ない部下達を鼓舞するでもなく、押しのけるようにワーグを駆って迫ってくる騎獣隊。

「我はこの軍を指揮する――蹂躙王ベヘモト軍前線指揮のガランダ」
 先頭がそう名乗り、その横を併走する一人が掲げるのは、蹂躙王ベヘモト軍である証の緑色のバナー。

「敵将!」
 ロンゲルさんが息巻く。
 だというのに、この中でロンゲルさんよりも首級を渇望するであろうコクリコからはリアクションが起こらない。
 不思議に思ったから曲芸乗りをしている方へと顔を向けば、俺の視線を感じたのか――、

「私が欲するほどの相手ではありません」
 と、淡泊に返してくる。
 首級であっても弱いと判断して興味がないとのこと。
 今までとは違い、自分に見合った相手かを選別するようになってらっしゃる……。
 これもまた成長か。
 コクリコが欲しないならと、俄然やる気になるロンゲルさんだけども、

「両翼の随伴をお任せする。手柄は大将首と同等とさせてもらう」

「承知!」
 高順氏の決断。
 ロンゲルさんも強くはあるんだろうけども、正面切ってガランダとかいうハイオークを相手取るには、ロンゲルさんでは力不足と判断したようだ。
 真紅のマントを靡かせ、白銀の鎧を装備した派手な出で立ちが先行。
 そこを捕捉して相手が高順氏を目がけて迫ってくる。

「貴様がこの寡兵の大将だな! 名乗れぃ!」

「……」

「名乗れと言っている!」

「……」
 徹底して無視してる感じだな。

「この我を侮辱するか! 我は蹂躙王ベヘモト軍前線指揮のガラ――!?」

「はっや!」
 一瞬だった。
 再び名乗るところで高順氏の穂先がガランダの首に触れれば、いとも容易く首が飛ぶ。
 前線指揮の首が飛んで呆気にとられている随伴の両翼をロンゲルさんと麾下の兵達が仕留める。
 そして残った騎獣兵を続く騎兵たちが討ち取っていった。
 最も近い場所でそれを見ていた俺の感想は――奔流に逆らうことが出来ないままに呑み込まれた枝葉――。
 一度の交戦で全ての騎獣隊がこちらの騎馬兵によって駆逐されてしまった。

「敵将が目の前にいるのだ。二度も名乗る暇があるなら、手にする得物を振るえ。それが出来ないから首が飛ぶことになる」
 首がどこに転がっているかも分からない状況だけど、ワーグに残った首より下の体に向けて、酷薄が混じる声音で語る高順氏。
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