異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1395【拝む必要なし】

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 前線指揮と精鋭であろう取り巻き達がいとも容易く討ち取られ、その死体に酷薄さを混じらせた発言。
 眼前でソレを見せられ震え上がる魔王軍。
 三万という大軍勢にて侵攻してきたが、トップが討ち取られれば恐怖による悲鳴を上げながら壊走を始める。

「横隊を割かれるように突撃をされている時は、混乱から動きが鈍かったのですがね~」
 コクリコの呆れ口調に、

「逃げる姿に一切の乱れ無し!」
 と、俺が続いてやる。
 戦いの中でその動きが出来ていたなら、俺達は苦戦したことだろうな。
 と、継げば、周囲の兵たちが失笑。
 相手の情けない姿に侮蔑の笑いを放っていた。

「笑うのはここまで! 追首といきましょう!」
 ロンゲルさんはまだまだ戦う気満々。

「いや、逃げるならそうさせればいい」
 勝利の勢いのまま追い打ちをし、多くの敵を倒した方が今後の脅威も減るというものでしょう。と、ロンゲルさんが具申するも、高順氏は却下。

「追首は恥ってことですかね?」
 逃げ惑う相手を眺めつつ俺が高順氏に問えば、

「そういったことではない。ここで苛烈に追撃し、後方の連中が逃走不可と判断すれば、決死の抵抗をしてくる可能性がある。決死――即ち死兵となられれば、こちらにいらぬ被害が出る」

「なるほど」

「ここに河でもあれば話は別だがな」

「――ああ」
 北伐の時を思い出す。
 逃げる敵兵の半分が渡河したところで攻撃をしたな。
 半分が逃げれば、最後尾の者達も逃げられるという考えに支配されて抵抗しなくなるってやつだったな。
 ここは足場の悪い湿地帯だけども、大きな河があるわけじゃないしな。

「今は追い払うだけでいい。無駄に長引けば、こちらも無駄に消耗をする。今回はこれで終わらせる。後は敵が捨て去った物資を回収してこちらで使わせてもらう。ワーグも捕らえてほしい。巧みな者に任せたい」

「ならば公爵様のギルドの者に頼みましょう」
 テイマー系のメンバーが要塞にて活躍しているようで、前回もそういった面子が活躍したということだった。

「最初に分断した連中も逃げてるようですね」

「他の敵と違い、あの者達は無事ではすまんだろう」
 エイトリ付近の湿地で深くなっている場所は俺も以前に経験をした場所。

「あの辺りには確か――」

「巨大な蚯蚓キュウインが生息している」
 ウォーターサイドってワームがいたな。
 逃げ惑う連中が深みに入って逃げ回れば、そこを狙われる事になろうだろうな。

 湿地により進行を鈍らせるだけでなく、生息している生物も防衛の為に利用する。
 使えるモノは全てを使って難攻不落の要塞へと変えていく。
 ――先生の当初の考えが活用されている。

「不愉快ではあるが、知者の深謀遠慮は評価しよう」

「高順氏に認めてもらえば、先生も喜ぶと思いますよ」

「憎き知者に喜ばれても嬉しくはないがな」
 とか言う割には、かみ合っているのが先生と高順氏なんだよな。
 お互いに共通するのって、清廉潔白という四字熟語が似合うところだろうね。
 だから相性はいいと思う。
 全幅の信頼を持っているから、先生は高順氏に要塞指揮を任せているんだろうし。
 
 ――それにしても、

「本当にわずかな手勢で三万を撃退したな~。まるで遼来々だよ」

「遼来々?」
 おっと、以前に先生もその部分が気になったよな。

「高順氏も知っている張遼の事ですよ」

「文遠がどうしたのだ?」
 先生は文遠君と敬称をつけていたけど、高順氏は字を呼び捨てか。
 呂布軍の時って、高順氏の方が張遼より偉かったのかな?
 その辺の細かな歴史は無知な俺。

 ――孫権率いる10万の軍勢を800の兵で撃退したことを説明すれば、

「戦巧者ではあったが、そこまでのことをしているか」

「合肥の戦いとして歴史に名が残っています」

「そうか。三万に対して五千となれば、まだまだ文遠にはおよばないな」

「十分な大勝利ですけどね」
 逃げていく敵をビジョンで見ながらそう思う。
 肩越しにこちらを見ながら逃げていく姿は、追撃によって自分たちの命がいつ奪われるのだろうか? という恐怖に支配された目だった。

「フヘヘヘ……」
 急に俺の左肩でオタクを思わせるような笑い方をするミルモンの表情は恍惚。
 壊走する者達から伝わってくる負の感情が極上だったようだ。

「なにはともあれ――大勝利です! 勝ち鬨を上げなさい!」
 指揮官を差し置いて勝利の声を轟かせよ! と、戦いが始まってから徹頭徹尾、曲芸乗りを貫いたコクリコが発する。
 これにロンゲルさんが続けば、騎兵たちに波及し、輪唱による勝ち鬨が上がる。
 自分に向けられる勝ち鬨に悦に入るコクリコの表情はミルモンと同様のもの。

「勝ち鬨もいいが、戦後処理に移る」
 指揮官の発言にピタリと勝ち鬨が止むと、騎兵達が一斉に散開。
 投げ捨てていった装備や物資の回収。乗り手を失って興奮しているワーグは、テイマー系のギルドメンバーを中心として捕獲。

 ――物資の回収も大事だが、何よりも重要なのが――、

「死体の回収ですよね」

「ああ、全てを回収して弔う」
 ここだと湿地だから埋めることが難しいので、要塞付近の埋め立てた部分に大穴を作ってから荼毘に付して埋めるという。

「死体をこのままにしていれば疫病が発生する。それにこの世界では亡者となって甦ることもあるようだからな」

「重要なことですよね」
 大きな戦いが起こればそれだけ死者も出る。そうなれば当然ながら勝利した側は死体処理も行わないといけないわけだ。

「ふぃぃぃ……」
 相手を荼毘に付すことは経験している。
 森の中でもやってきたけども――、

「死屍累々だな……」
 大規模戦闘となれば死体の数は俺達が戦い命を奪ってきた時とは比較にならない。
 
 農耕馬のような軍馬は、装備を戦闘用からそりに変更。
 兵士たちが敵の死体を無造作に橇へと積み、運んでいくという光景。
 死体を積んでいく要塞兵たちの行動は、死に触れているというより事務的なものに感じられる。

「命が軽い……」

「そんなものだ。多くの敵の死体に対して一々感情的になっていては心が折れるからな。一人一人を拝んでいては切りがない」

「そう……ですね……」
 ここは魔王軍との最前線の地でもあるからな。再度の侵攻も考えられる地で俺のように遺体に対して拝んでいる暇なんてないし、わざわざ攻めてきた敵の遺体に拝んでやるような義理立てもないわけだ。
 
 疫病対策とアンデッド回避こそが最前線の地では第一。
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