異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1422【力は健在】

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「近くで見るとより強そうだね。この狼男」

「ヴィルコラクのガルム氏だ。実際、とんでもなく強いぞ」
 魔大陸での衝撃的な出会いは今でも忘れない。
 ハンヴィーを追走してきてボンネットへと飛び乗ってくれば、防弾使用の車体に槍を突き立ててきたからな。
 ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? って情けない声を上げたもんだ。
 あの時の穂先に付着していた切り潰された若草の芳香は、今も鼻孔が記憶しているよ。

「新たな仲間も出来たようだな」

「オイラはミルモン。魔界の勲功爵にして見通す悪魔。勇者の進む道を照らす者さ」
 ガルム氏の顔の前まで飛行しての自己紹介。

「勇者の道を照らす者か。体は小さいが大きな役割を担っているようだな」

「まあね♪」
 得意げに胸を張るミルモンに余裕をもった対応で接するガルム氏。
 初対面でガルム氏に対して偉そうに接しているところが凄いなミルモン。
 普通はルッチやカルエスみたいになると思うんだけどな。
 合同演習まで俺の側にいた黒色級ドゥブの二人は、俺達が足を進める先にいたガルム氏の姿を目にし、おっかないからと俺の後に続くことはせず、遠目からやり取りを見るという選択。

「息子さん達も活発な日々を送って何よりです」

「そちらの美姫のところで世話になっている」

「どちらかというと、ベルの方が世話になっているんですよ。可愛いのに囲まれることが幸せなんですから」

「それは……そうみたいだな……」
 モフモフに目がないのを把握してくれている語気なので、これ以上、伝える事をしなくていいのは助かる。

「案内しよう――といっても目の前だが」
 ガルム氏と翁が目を向ける先に立つのは、ウィンプルを目深に被り顔を隠している人物。
 体全体もローブで包まれており、体のラインは分からない。
 一見すれば何者なのかは分からない。
 周囲の顔ぶれを理解しないかぎりはね。

「久しぶり。元気そうでなによりだよ」

「お久しぶりです」
 と、少しだけウィンプルを上げて出てくる面貌は、相も変わらず庇護欲をかき立てるものだった。
 大きな瞳。透き通るような水色の髪がウィンプルからわずかに見える。
 ベルやシャルナと並ぶ美しい雪肌の持ち主は――リズベッド。

「リズベッドがこんな所に来てるなんてね。お忍びなのかな?」

「一応、国王には許可をいただいております」
 王様も出歩いているけども、こうやってリズベッドも出歩いてるんだな。

「誰なのこの美少女は?」
 挨拶をする中でミルモンからの質問。
 ガルム氏の時は目の前まで飛んでから名乗っていたけども、なんだろうか――ただならぬオーラでも感じ取ったのか、飛翔してリズベッドへと近づこうとはしない。

「この子はリズベッド――ええっと――」
 いかん……。久しぶりにど忘れしてしまうという悪いクセが出てしまった……。

「リズベッド・フロイス・アンダルク・ネグレティアンと申します」
 ローブの側面を摘まんでのカーテシーにてミルモンに挨拶。

「オ、オイラはミルモンっていうんだ」

「ミルモン様ですね」

「そうだよ♪」
 様と敬称をつけられてご満悦。
 隠せない威厳というオーラに当てられていたようだけども、この様付けによって調子に乗ったのか、パタパタと羽を動かしてリズベッドへと接近――する手前でガルム氏が手を伸ばして進行を妨げる。

「なんだい? 狼さん」

「いくら勇者の従者とはいえ初対面だからな。警戒はさせてもらう」
 まあ、そうなるわな。
 ガルム氏の行動は正しい。
 不服そうに俺を見てくるミルモン。

「あ~。戻っておいでミルモン」
 言えば唇を尖らせながら俺の左肩に戻ってくる。

「で、何者なんだいこの美少女は?」

「前魔王様だ」

「…………ふぇ?」

「前魔王なんだよ」
 再度、伝えてあげれば、訪れるのはこの一帯だけの静寂。
 周囲は模擬戦の余韻が残っており、未だに騒がしい。

「……えぇぇぇぇ! 魔王なの!!」

「ミルモン。声が大きい」

「あっ!?」
 可愛い両手で可愛い口を急いで塞ぐ仕草も可愛かった。
 と、同時に周囲を見渡し、自分の発言が聞かれていなかったかを確認。
 興奮冷めやらぬ周囲に自分の声が届いていないことに安堵したのか、ほっと胸をなで下ろし、

「本当にこの美少女が魔王なのかい?」
 語気を整えての質問。

「そうだぞ。今は訳あってこの王都で匿ってもらっているんだ」

「魔王に前ってつくくらいだからね。現魔王との確執的なものがあるってことは分かるよ」

「理解が早くて助かる」
 前魔王ということと、得も言えぬオーラを感じ取ったからこそなのか、ミルモンは居住まいを正し、ピンと姿勢を伸ばしてからリズベッドへと目を向ける。
 小悪魔だからな。魔王というワードには畏敬の念を禁じ得ないのかもね。

「その様に緊張しなくてもいいですよ。今の私には力など無いのですから」

「それはない」
 リズベッドの発言を俺がすっぱりと否定する。
 すっぱりと言い切ったからか、リズベッドは目を丸くして俺を見てくる。
 対して護衛の面々は、俺の発言に鷹揚に頷いていた。
 自分達の主の力を理解している者がいるということに、気分をよくしているご様子。

「今回の合同演習を見ていて思ったことは、普通なら無事じゃ済まない状況で無事だった事だ」
 騎馬の加速力を活かしてのリーバイの刺突を受けて、派手に地面を転がったゴブリンがその一例だ。
 見舞われた方は矢庭に立ち上がり、何事もなかったように退場した。
 申し訳ないけども、ゴブリン個人の能力で対処したとは思えない。
 となれば、何かしらの種があるに決まっている。

「で、この場にリズベッドがいるとなると答えが出たよね。騎獣側だけでなく騎馬側にも怪我人が出ないように、力を使ってくれたんでしょ?」

「はい」
 はたして正にその通りだったな。
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