異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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前準備

PHASE-1435【初期スタイル】

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 ――二メートルを超える体躯の後退。
 ここは絶対に見逃してはいけない。
 攻勢にでないと勝ちを取る機会を逸してしまう場面。

「ララララララララライィィィッ!」
 連撃――というよりは乱撃。
 二振りの木刀を一心不乱に振りながら、足を止めることなく前へと進める。
 エルウルドの森にて経験を積んできた二刀。
 同じ方向に振り下ろすだけの単純な攻撃ではなく、あらゆる方向から対象に向かって振っていく。

 多方向からの高速斬撃に、ガルム氏もファースンからアンリッシュにするタイミングが掴みにくいようで、反撃よりもガードを優先してくる。

 ダメージが入っているわけじゃないけど、打ち込めば打ち込むだけオーラを削ぎ落とせているのが見て取れる。
 一振りによる削りは微々たるものだけど、着実に削り取っている。
 
 ――煩わしいとばかりにガードからガルム氏の反撃。
 こちらを振り払うようにオーラの腕を振り回してくる。
 それを躱しつつ、前進を止めることなくひたすらに木刀を振り、オーラアーマーを削っていくということにだけ力を注いでいく。

「流石に鬱陶しいぞ!」

「それを狙ってるんで!」

「だが連撃の威力が落ちているのは分かるぞ」
 でしょうね。
 だからガードから攻撃へとシフトチェンジしてきたんだろうから。
 俺がブーステッドの使用を止めているのを動きから理解しているご様子。
 振り続ける間、限界突破状態を維持する持続力はないからな。
 
 俺の動きは鋭さが無くなってはいるだろうけども、俺の攻撃に対してカウンターを合わせづらいようではある。
 攻撃速度よりも足を止めることなく前進する姿に圧倒されているようだ。
 なのでこの状況を続けさせてもらうよ。
 
 でも……、

「火力不足は否めない!」
 ならば!

「マスリリース!」
 左の木刀に黄色い輝きを纏わせ、

「フンスッ!」
 思いっきり投擲。
 斬光を放つのではなく、木刀ごとガルム氏へと投擲。

「窮したか。そんな使い方は見たことがない」
 投げた木刀をガルム氏が巨大なオーラの腕でガード。
 イメージでは、触れたらその箇所が爆発――みたいな事が起こるかと思ったけど、炸裂系ではなく斬撃系であるマスリリースを纏った木刀は、オーラの腕に掠り傷を入れた程度でしかなかった。
 斬光を放つ本来の使用法じゃないから十全な効果を発揮することはなかった。
 窮したと思われても仕方がない動作――と、思ってくれればしめたものだ。

「どりゃぁぁぁあ!」
 上段からの渾身の一振りは、両手持ちによる一刀。

「これは!」
 手数は少なくなるけども、一撃の重さと威力。そして振る速度は二刀より一刀が勝る。
 纏っているオーラの削れ方が二刀の時よりも遙かに大きかった。
 
 ガルム氏本人は無傷だが、俺の攻勢に嫌気が差してくれたのか、ここでようやく俺が待ち望んでいた距離を取るという行動を選択してくれた。
 一刀の威力だけでなく、気迫に呑まれたと思いたい。
 戦いでは相手にその感情を芽生えさせた方がイニシアチブを握ることが出来るからね。
 こんな事なら分厚いオーラアーマーである豺覇になった時、ヤヤラッタとの最終戦時のような初期スタイルである一刀に、素早く変更するべきだったな。
 二刀を習得していることで無駄に固執してしまった。
 臨機応変って発言をした以上は、柔軟に戦闘スタイルを変更できるようにもならないといけない。
 
 ――戦いを重ねれば、学ぶことも増えていく。

「さあ! さあ! さあぁ!」
 反省をしつつ、距離を取ったガルム氏へ威圧をするように、すり足でゆっくりと近づいていく。
 先ほどまでの一気に詰め寄ってのラッシュから一転し、気勢を吐きながらズリズリと距離を縮めようとすれば、ガルム氏は一定の間合いを維持する。
 距離が縮まることはない。
 ガルム氏――明らかに俺の気迫に呑まれているようだ。

「アクセル」
 ここぞとばかりに虚を衝く接近。
 体の重心を整え、両手持ちに変えた一刀にて、背後より上段から零距離マスリリースを見舞えば、大きくオーラが削れる。
 当然ながら俺もダメージを受けるけども、気にしないで手首を返しての下段から切り上げ。
 青いオーラがチリチリと舞う光景は美しい。
 といった光景を目で追えるくらいの余裕が出てきている。

「はい! ほい! ていや!」
 小気味よく三連撃を打ち込む。
 オーラの中で眉間に皺を寄せるガルム氏。ここでも距離を取る。
 
 ――いいぞ。

 戦いを有利に進めるための最初のステップである、相手を気後れさせることは成功。
 次のステップは、こちらが思い描くように相手に動いてもらうよう誘導すること。
 今のガルム氏は、正に俺がこう動いてほしいという動きを行ってくれているので、それも成功。

「続けていきますよ!」
 発せば、

「ええい!」
 わずかに焦燥が混ざった声と共に、両掌を俺の方向へと突き出すと、バランスボールサイズの気弾を二発放ってくる。
 それを待っていたとばかりに跳躍。

「当たりませんよ!」
 ――さあ、次を!

「ならば!」
 対空の為に気弾をばらまいてくる。
 サイズは地壊雨槍という技と同サイズの野球ボールサイズ。

「兄ちゃん!」
 どうする? って聞いてくる前に、

「気合いで押し通る!」
 と、返す。

「ええ……」
 無策とばかりの精神論の返答に、呆れ声のミルモン。
 迎撃に耐える為だけではないんだミルモン。
 この戦いの幕を閉じるため、最後のブーステッド発動に――持ってくれ俺の体! という自らを奮い立たせる意味もあるんだ。
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