異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1436【背、投】

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「ブーステッド!」
 大量の気弾を一本の木刀で切り払っていく。
 心底で念じる台詞は【踏み込みが足りん!】
 この台詞のもと、迫る気弾を悉く切り払い……出来るほど俺は器用じゃない……。
 そこそこのダメージをもらいながらも、

「貴男の目の前に――参上!」

「なんとも。素晴らしいことだ!」
 見事に耐え凌いだ。と、ガルム氏は感嘆の声。
 ちょっと前の焦燥の混じった声から一転して明るくなるのは、本心から俺が耐え凌ぎきった事への称賛からだろう。
 だからこそ、その称賛を裏切らないためにも、

「勝たせていただきます!」

「ねじ伏せる」
 オーラの豪腕を着地した俺の上方から振り下ろしてくる。
 その一撃は瞥見。
 俺が凝視するのは――ガルム氏の腹部一点。
 放った大型の気弾二発に、対空迎撃の面制圧による大量の気弾。
 そして、ちまちまとだったけど、これまでに木刀で削ってきた行為。
 小さな事でもコツコツと積み上げることが大事だというのを体感できる。
 腹部回りのオーラに厚みがなくなっているのは見ただけで分かる。
 再度のオーラを展開させないために、気迫を吐きながら間断なく連撃を実行した事が奏功へと繋がった。
 
 ガルム氏は次の攻撃で俺を仕留めようとしているからだろう、腕部のオーラは今までのサイズを維持。
 防御ではなく一撃に全霊を注ぐというのは、ガルム氏らしいのかもしれない。
 故に得物である槍の穂先は、火力重視の馬鹿でかいV字のものにしているんだろう。
 攻守なら間違いなく前者を優先するといった人物だ。

 だからこそ――、

「勝てる! マスリリース!!」
 ブーステッドと併用してのマスリリース。
 木刀に留まる黄色い輝き。同色の燐光が俺の周囲を舞う。
 後は普段とは違う使用法を試すだけ。
 線を書くのではなく――点を打つ!

「届けぇぇぇぇぇぇえ!」
 勢いよく足を踏み入れ、腹部に向けて切っ先を打ち込む。
 オーラに遮られる感触が柄から伝わってきた。
 自分が思い描いた通りになれ! という一心による声にて薄くなったオーラ部分へと放てば、

「がぁ!?」
 明らかにダメージを受ける声が相対する方から俺の耳朶へと届く。
 ガルム氏の一撃よりも速く、俺の一突きが一歩速く届いた。
 苦しみからこちらに迫っていた巨腕の一撃がとまり、腹部を押さえて後退り。

 ――浅い!

 吹き飛ばすつもりだったけども、刺突バージョンのマスリリースによる初撃は決定打にはならなかった。
 ここで一気に決めないと後がない。
 後退りするガルム氏を追撃。
 ダメージを受けた箇所に同様の刺突。
 切っ先がオーラに触れたところでマスリリースを放とうとすれば、アンリッシュによるカウンター。
 腹部のオーラが爆ぜる。
 ガリオンの攻撃反応外殻であるニージュに似つつも、火力が上回るその防御に、

「うそん……」
 俺は堪えたものの、爆ぜるオーラに耐えきれなかったのか、木刀が柄を残して木っ端を舞わせながら折れてしまう……。
 決定打の前に折れてしまった無念さと、巨腕を今まで受けて捌ききるという酷使の中でよく耐えてくれたとも思う。
 刹那で折れた木刀に感謝をしつつ、

「刀身がなくても、まだ柄がある!」
 アンリッシュによって腹部のオーラが消費され、更に本体へと届きやすくなっている。
 柄であろうとも突いて届かせる。
 高順氏が指揮する騎馬突撃をイメージ。
 敵陣を貫いて裂くように――、

「マスリリース!」
 折れた柄の部分から放つ黄色い光弾。
 今までは黄色い斬光だったけども、青いオーラの中を光弾が突き進んでいき、

「ごおっぅ!?」
 ガルム氏の顎門が大きく開き、激痛に顔が歪む。
 
 そして――、

「しっ!」
 声と表情から直撃を確信し、次へと移行するために短く声を発し、左手を強く握って拳をつくる。
 眼前では纏っていたオーラアーマー――ガルム氏の奥義である豺覇さいはから本体がようやく外へと出てきた。
 ガルム氏の姿を象っていた巨大な青いオーラは、霧散するように消えていく。
 これでガルム氏は丸裸。
 が、残心は尚早。
 オーラを纏っていないだけで、元々の状態に戻っただけ。戦いはまだ終わらない。
 腹部を押さえてくの字気味になっているガルム氏。
 相手に呼吸を入れさせるのは下策。
 くの字となったガルム氏に容赦なく追撃のブーステッドからのアクセル。
 
 背後に回ってから――、

「らぁ!」

「あがっ!?」
 先ほど左手で作った拳にてレバーブロー。
 一撃を見舞えばガルム氏はくの字から背を反らす、そこを狙っての、

「もう一撃」
 今度は正面に回り込み、がらんどうとなった腹部へと拳を叩き込む。
 狙うのはマスリリースでダメージを与えた箇所。
 声を上げずに苦しみから表情を更に歪めるガルム氏。

「こ、これは……、久しい痛み……だ……」
 強者が久しく追い込まれていると述べつつも、会話が出来るということは、呼吸を整えているということでもある。
 スゥゥゥゥ――っと、吸気を行う音が聞こえれば、息を止めて拳を俺へと打ち込んでくる。
 ブーステッドによる限界突破の状態によるビジョン。
 弱ったガルム氏の拳打を捕捉するのは容易く、

「どっせいや!」
 拳打を掴んで自分の方へと引っ張り、背中をガルム氏に勢いよくぶつけての貼山靠てんざんこうモドキを突き上げるように打ち込む。
 長身の両足が地面から離れたところで、一本背負いへと繋げる。

「ごっ……ふ……」
 二メートルを超える体躯を背中から地面へと叩き付ければ、ズシンッ! と、地面が揺れる。
 手応え十分な揺れだった。
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