異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,443 / 1,861
前準備

PHASE-1443【今度はちゃんと生まれてね】

しおりを挟む
 ――――。

「いよいよですか」

「いよいよです」
 エビルレイダーが繭を作ってから二週間が経過。
 長男のアルゲース氏に問えば、大きな首肯と共に返してくる。
 
 ――キュクロプス三兄弟に、ザジーさんが見守ってくれていたこともあって、順調に成長してくれた。

「頼むぞ」
 と、懇願するベル。
 可愛くあってくれ! と、強く願っていた。
 数日前に俺を完膚なきまでにボコボコにした時とは別人なんだよね……。
 そんなベルを見つつ、周囲にも目を向ける。
 前回、繭に触れて願いを伝えた面々と一緒に誕生の瞬間を見守る。

「眠い……」
 目を擦るコクリコの姿は、ナイトガウンの寝間着姿というレア衣装。
 空が白み始めた時間。睡魔との格闘に苦戦しているご様子。

「次の目的地まで世話になる新たな仲間の誕生なんだ。ちゃんと見守っておかないとな」

「です……ね……」
 立ったまま眠りにおちていくコクリコ。器用なヤツだよ……。
 仕方ねえな。
 睡魔に打ち勝つ言葉を送ってやろうじゃないの。

「新たなる仲間に乗り、魔王軍大幹部の拠点へと攻める。歴史に名を残す偉業に人々は大きな関心を抱くだろうな」

「そうでしょうとも! さあ! 我が翼となる者よ、目覚めるがいい!」
 コクリコにとって歴史に名を残すという台詞は、どんな目覚ましよりも効果があるようで、俺の発言で目がくわりと見開き、琥珀色の瞳をギラッギラに輝かせて繭を注視。

 ――シャルナとリンによるファイアフライで照らされる繭は幻想的。
 その幻想さを更に強めるかのように――、

「「「「おお!」」」」
 繭が淡い緑光を放ち始める。
 この光景に、集まった皆で驚きと期待を混ぜた声を上げる。

「もうすぐですよ!」
 髷一つが目印である長男アルゲース氏の興奮した声。それに続くように共に見守っていたザジーさんも鼻息を荒くしていた。
 緑光の輝きは繭の内部からのもの。
 その輝きが徐々にだが強くなっていき、繭だけでなく、それを固定する同成分の周囲に張り巡らされた糸にも伝播。
 ファイアフライの輝きと一緒になって防御壁と修練場を照らす。
 
 これには白装束で全身を隠しながら、防御壁の強化に日夜励んでくれているスケルトン達も動きを止め、何事かとばかりに壁上から眺めていた。
 上位ではないスケルトン達は命令を黙々とこなすだけなんだけども、作業を止めて眺めてくる辺り、主であるリンの思考とリンクしているのかもしれない。
 そんなスケルトン達とは違い、同じ高さにいる王都兵が見てこないのは流石の一言。
 繭からの誕生よりも、立哨として王都外の見張りを優先していた。

「おお、間に合ったか!」
 と、

「王様」

「報せを聞いて馳せ参じたぞ」
 王城から西の防御壁までは距離がある。
 普段は大通りを馬を利用しての移動だが、今回は速度重視だからか、エンドリュー候のワイバーンを借りてきての上空からの登場だった。

「乗れるんですね」

「王都に留まっているエンドリューに時間がある時に指導を受けていてな。直ぐに騎乗できたので驚かれたものだ」
 王様自身の実力もなんだろうけど、先生が王都にいる時点でユニークスキルである【王佐の才】の能力下にあるからな。
 その恩恵もあって、習得速度も上がっているんだろう。

 それはさておき、

「こちらへどうぞ」
 特等席の一番前を勧める。

「上空からも見えていた輝きだが、近くで見ると神々しいものだな」

「こちら側の反攻のきっかけを作ってくれるであろう存在ですからね」

「そうだな。神々しくて当然だな。我々の未来を照らしてくれる輝きなのだから」
 呵々と笑う王様。
 まだまだ寝ている方々もいる時間帯なので迷惑な笑い声なんだけども、声よりも先にこの輝きが原因で、修練場近くで寝泊まりをしているギルドメンバーや冒険者の面々が目を覚ましていた。
 厩舎で寝泊まりしている新人さんや倹約家さん達が遠巻きで見ており、徐々にざわつき始める。

「このような神秘に立ち会ってこその冒険者であろう。遠巻きに見ていてどうするか! 我らと共に指呼の間にて誕生を目にせよ!」
 遠慮せずにもっとこっちへ来いと、手振りを入れての王様。
 リアクションに対し、遠巻きにいる面々はなんだあのおっさんは? みたいな感じだったけど、言っていることはもっともだと思ったようで、冒険者としてこの神秘な光景を至近で見ないのは損とばかりに、王様の声に応じて冒険者の面々が駆け寄ってくる。
 
 ――声の主がただのおっさんじゃなくて王様だったことを知るのは、俺達の立つところまで近づいてからだった。
 相手が相手だったので緊張する新人さん達だったが、気さくな王様は背中をバシバシと叩きながらもっと近づいて見ないか! と言って繭に近づかせていた。
 その姿は王様というよりは、田舎あるあるの距離感がバグってる近所のおっちゃんのようだった。

「皆さん。もうすぐのようですよ」
 アルゲース氏の発言に、テンションが高かった王様も口を一文字。
 王様が静かになったところを見計らったかのように繭の方から――ピシッ! と、短い亀裂音。

「キタキタキタッ!」
 亀裂音と共に、繭の中心部分にヒビが走る。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...