異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1446【準備と装備は入念に】

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「偉観」
 と、俺の心の中を覗き込んだようなタイミングで先生が口を開く。

「一騎当千、万夫不当でも物足りない。天下無双と称するべき方々。二人といないという意味である無双の時点で矛盾していますが」
 と、継げば、

「それだけの英傑が揃っているということが喜ばしいよな! 荀彧殿!」
 と、王様。

「トール。そして各々方。次なる道を切り開くため、その力をこの世界の為に振るっていただきたい」
 国のトップが俺達に深々と頭を下げる。
 見栄など一切無い、自然体からの動作。
 王という立場が易々と頭を下げる。
 最高権力者なのだからただ一言、その地へと向かえ。と言うだけでいいんだろうけど、この王様はそんなことはしない。
 だからこそ慕われるんだろう。

「切り開いた道の上を一緒に進みましょう」

「轡を並べて最前線を共に進もう!」

「王と共に、勇者にして公爵である主が轡を並べて進むとなれば、この大陸でいまだ力を温存している者達も重い腰を上げてくれることでしょう。まあ、上げないなら上げさせるだけですが」
 語末の方で先生が怖い笑みを湛える。
 天空要塞攻略が成功したとなれば、要塞に囚われている水龍タレスを救い出すことになる。
 そうなると要塞トールハンマーより南に充満している瘴気の浄化に繋がる。
 
 南伐へと移行することになれば、魔王軍の中でも最大戦力を誇る蹂躙王ベヘモトとの直接対決がまっている。

「南伐となれば三百万が待っているわけだな」

「正面からの戦いとならぬよう、工夫はしますよ」
 と、俺の独白を拾ってくれる先生の笑みは、さっきよりも悪い笑みになっていた。
 この笑みを湛えた時の先生には、最強の存在であるベルとゲッコーさんも重圧を感じてしまうのか、背筋を真っ直ぐに伸ばした姿になるんだよね。
 やはりこの面子で一番おっかない存在は先生なのかもしれない。
 袁本初の如しとか以前言っていたからな。それに近い方法で蹂躙王ベヘモトの勢力を弱体化させてくれると信じたい。

 そうするためにも、

「準備が整い次第、天空要塞フロトレムリに居座る翼幻王ジズと出会ってみようじゃないか。話し合いか戦いか」

「是非とも後者であってほしいですね!」
 ぶれないコクリコ。
 後者となった場合、その漲る力に頼らせていただこう。

 ――。

「買うってのが謙虚だの」

「そりゃ買うよ。買わないと経済が回らないだろう」

「真面目なこって」
 執務室から解散し、各々準備に取りかかる。
 白んでいた空から今は朝日が上がり、ギルドハウス一階ではギルドメンバーだけでなく、野良の冒険者の方々もクエストの張り紙と睨み合い。
 案牌なクエストで済ませようとする者もいれば、「やってやる!」と意気込んで難易度の高いのを選ぼうとしている者もいる。
 あまりにも身の丈に合っていなかったのか、それを止めて悟らせるのは、認識票の色が一段階上の者。

 そんな面々を見渡していれば、

「会頭は張り出されている依頼なんぞが霞んでしまうくらいの最高難易度の案件に挑むんだよな~」
 俺が購入したハイポーションとアンチドーテを包んでくれるギムロンが、俺の視線を追いかけながら言う。

「当たり前のようにハイポーションが大量に出回ってきたのはいいよね」

「だの。生存率が高くなるのはありがたいもんよ。でも、アンチドーテは会頭には必要ないだろう」

「俺じゃなくても他が――主にコクリコが無茶した時のことを考えないといけないからな。対応できる手段は多い方がいいだろ」

翼幻王ジズの根城に赴くんだからな。毒も猛毒って考えた方がいいだろうな」

「ハイクラスの連中なんて相手にしたくないのが本音だけどな」

「ワシからは武運を――としか言えん。あと出来ることとなると、餞別でハイポーションを何本か奢るくらいだの」

「有り難う。というか、ギムロンも天空要塞の旅に参加してもいいんだぞ」

「いやいや。一緒には行けないの~。ワシが行けば足を引っ張るだけよ。会頭のメインパーティーの中に参加なんて荷が重すぎる」
 ギムロンの実力なら問題ないとも思うけども――、

「ギムロンにはギムロンに出来る事をお願いしないとな!」

「一級品から新人が手に入れやすい粗製まで。装備の生産は任せとけ!」
 と、樽型ボディで胸を張れば、胸よりも腹の方が主張してくる。
 ――自信を得て戻ってきたパロンズ氏。
 そしてキュクロプス三兄弟であるアルゲース氏。ステロペース氏。ブロンテース氏の登用によって、大型の装備は一括して任せる事が出来るから、今まで以上に自分の得意分野での装備生産に力を入れることが出来るとのこと。

「頼もしいね」
 俺の左肩からの声に、

「どれ、お前さんの装備も見てやる」

「お宅から貰ったサーベルだからね。見てもらえると助かるよ」
 小さなお手々が巌のような手にちょこんとサーベルを乗せる。
 ミスリルコーティングされたギムロン手製のサーベル。
 144/1のプラモに似合いそうな8㎝くらいの長さからなるサーベルを眺めつつ――、

「流石ワシが作ったモノ」
 と、自画自賛。
 使用されている形跡もあるが手入れをするほどではない。と言いながらも、わずかに付着した脂と血痕が気になったようで、布でそれらを拭き取り、刀油を塗布してから鞘へと戻しミルモンへと返す。

「使用した後はちゃんと手入れもしとけよ」
 ミスリルコーティングがされてはいても、完全なミスリルじゃないから付着した血が原因で錆びることもあるぞ。と、注意。

 もしそういった心配がない装備だったとしても、手入れはちゃんとしないとな。と続けるギムロンの発言に、俺自身も今以上に入念な手入れを行おうと肝に銘じる。
 大切に扱えば、装備もそれに応えてくれるからね。
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