異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1448【乗り心地、良し!】

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 ――――。

「万事、整ったようだな」
 翌日。場所は修練場。
 王様だけでなく、有力貴族にリズベッドやガルム氏に翁、サキュバスメイドさん達も集まっていた。
 現在、修練場は修練場としての機能はしておらず、これから天空要塞フロトレムリへと向かう俺達を見送るためだけに利用さている。

「お気をつけくださいトール様。相対するとなれば、ベスティリスは今まで対峙してきた者達とは別格です」

「おう」
 前魔王のリズベッドが言うと説得力がある。
 自然と姿勢が正しくなるってもんだ。

「ベスティリス様は脅威となるかもしれませんが、一概にそうとも言えないところもございます。何を考えおられるのか分かりませんから」

「おうランシェル」
 リズベッドに続くのは、インキュバスメイドのランシェル。

「どういった結果になるかは分かりかねますが、戦闘以外の方法も模索できればと願っております」

「有り難う」

「――よろしければ私も――」

「下がっていなさいランシェル。トール様の弱点になります」

「あ、はい……」
 随伴しようと考えるランシェルの思いを両断するのは、メイド長のコトネさん。
 ランシェルの実力は理解している。
 頼りになるのも分かっているけども……、

「リズベッドの世話兼護衛を頼むな」

「かしこまりました……」
 すまん……。
 項垂れるランシェルを見て申し訳ない気持ちになってしまうが、今回、向かう先にいる連中とぶつかるとなれば、こちらの弱点になってしまうのも事実。
 口に出してソレを言うのは酷。
 聡いランシェルは口に出さなくても理解していたようで、表情は暗いものだった。
 口に出さないで悟らせたのは逆に辛かったかもな。はっきりと言うべき所では言った方がよかったかもしれない……。
 本当にすまん……。

「次の機会を得る為に励むことですね。肩を落とすということは、実力不足を自覚している証拠。役に立ちたいと思うなら励むことです」
 やだ格好良い。コクリコの姐御。
 フォローも出来ず、心の中ですまんとしか言えない俺なんかとは大違いだ。
 こういった所は見習いたい。

「そういう事だ。南伐も控えているからな。その時は頼むよランシェル」
 コクリコの格好いい発言に乗っからせてもらう。

「分かりました!」
 肩を落としていたけども、俺が期待していると分かれば明るい表情に変わってくれる。
 本当、可愛いですよ。
 ――でも男なんだぜ。

「じゃあ乗ってみますかね」
 巨大カイコであるツッカーヴァッテのモフモフな足に触れれば、俺の発言に合わせて身を低くし、翅の外側を地面へと触れさせる。
 翅を使ってくれということだろう。
 さながらタラップ代わりといったところだな。
 蝶の翅はひらひらしていてか弱いけど、ツッカーヴァッテの翅はとても頑丈。
 翅に足を乗せれば、靴底から伝わってくる感覚は、板の上を歩いている感覚に似ていた。
 翅を歩いて胸部へと乗り、頭部側へと移動。
 モフモフの体は最高の絨毯のようで、腰を降ろせば白い毛に体が沈んでいくようでありながらも、わずかに俺の体を押し上げてくる低反発。
 これなら長時間の空の旅であっても体が疲れることはなさそうだな。
 エコノミークラス症候群とは無縁の空の旅が出来そうだ。

「おお、なんと素晴らしい感触なのだ! ツッカーヴァッテよ!」
 俺に続いて騎乗したベルの声は喜色。
 モフモフ感を堪能するかのようにうつ伏せにて寝転がっていた。
 モフモフ低反発と、揉み揉みしたい弾力が化学反応を起こしておられる。
 ずっと――見てられる!
 にしてもベルのヤツ。大勢の前でも可愛いものを堪能する事を隠さなくなったな。
 最強さんの威厳というものがないんだけども、コレはコレでいいといった判断を皆さんしてくれているみたいだ。
 ギャップがいいのだろう。
 俺もそう思います!

「あだ!?」

「馬鹿みたいな顔でベルを見てないで、もっと前の方に詰めてください。大きいとはいえ、我々パーティーを乗せるとなると場所は限られますからね!」
 些かご立腹のコクリコ。

「ベルもベルで寝っ転がらないでください。場所は限られているのですからね!」

「そうだよ!」

「す、すまない……」
 コクリコに続くようにシャルナも語気を強めている。
 これにはモフモフを堪能していたベルも居住まいを正して横座りに変更。
 さしもの最強さんも正論をぶつけられれば素直ですな。

 普段、引率する立場はベルなんだけども――、

「今回は立場が逆転してるな」

「元々の原因は、お前がベルを嫌らしい目で見ているからだ」

「俺の顔ってそんなにも緩んでました?」

「緩んでいると例えるより、歪んでいたわね」
 ゲッコーさんに質問したのに、リンから強烈な毒を見舞われてしまう。
 なんだよ歪んでるって……。
 まるで俺が残念フェイスみたいじゃないか……。
 自覚はしてますけども……。

「皆さん乗られましたね」
 落ち込んでいるところで同じ目線にて語りかけてくるアルゲース氏。
 羽化した後、俺達が執務室で話し合いをしている間、キュクロプス三兄弟によってハーネスがツッカーヴァッテに装着されていた。
 ハーネスで腰部分を固定するように指示を受け、素直に取り付け。
 ミルモン専用の小さなハーネスも準備してくれており、左肩から俺の前方に移動し、体を固定する。
 ツッカーヴァッテの白い体毛に沈むように座るミルモン。かろうじて顔だけが出ているところが凄く可愛かった。

 俺の後方に座るベルはこの愛らしさを見る事が出来ないのが残念なことだろうね。
 俺の側に座れば、この愛らしさを堪能することが出来るよ。と、ミルモンをエサにして誘えば成功するだろうけど、ミルモンからの好感度が落ちそうなのでやめておこう。
 それに、今ソレを実行してはいけないと、俺の第六感が告げている――ような気がする。


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