異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1449【鼓舞の有り難み】

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 ――全員のハーネス装着を終えたところで、

「皆さんが無事に辿り着くことを祈り、この子に思いを託します」
 アルゲース氏が頭部を優しく撫でれば、ツッカーヴァッテは心地よさそうな鳴き声? を上げていた。
 俺達と違い、幼虫の時から力を受けているからか、アルゲース氏が撫でるととても嬉しそう。
 
 ――鳴き声? が、誕生時から気になってたんだけど――、

「ツッカーヴァッテって口がないですよね?」
 エビルレイダーの時は指を組ませたような縦型形状からなる牙があったけど、成虫の今はない。
 蝶々や蛾のような口吻もない。

「もしかして儚い命とか言いませんよね?」
 カイコの成虫も一週間くらいしか生きられないと浅い知識で記憶している。
 栄養摂取ができないのであれば――、

「そんな事はあってはならないぞ!」
 アルゲース氏の説明よりも前に、俺の後方からベルが声を上げる。
 滅多に聞く事のできない恐れを纏った声音。
 愛らしいツッカーヴァッテが短命なのは受け入れられないといったところだった。

「ご心配なく。天寿を全うするなら人間よりも長命ですよ」
 アルゲース氏の発言にベルは安堵したようで、ほっと息も漏らす。
 元々は戦闘用として生み出そうとしていた存在。
 電撃を放ち、広範囲を破壊するための戦略生物。
 長く運用するという観点から長命であるという事も念頭に置いていたという。
 それを耳にすると、こちらとしては完全体になる前にヤヤラッタやハルダームの思惑を叩きつぶせて良かったと心底おもうよ。

「長命だとして、食事はどうやって摂取するのですか?」
 安堵したベルが質問をすれば、

「この子は電撃で攻撃するだけでなく、電撃に完全耐性を持つ生物です。これら加え、電撃そのものがこの子の食事にもなります」

「――おお」
 不完全体だった幼虫の時は耐性がなく、自らの電撃でダメージを受ける恐れもあった。
 接近されたら使用できないということが弱点となって、俺達は勝利する事ができた。
 成虫となったいま、電撃に完全耐性を持ち、尚且つ自身の栄養源にもする。
 電撃の吸収はヤシの葉の形状をした金色の触覚からだそうで、それ故に口部はないそうだ。
 
 エビルレイダーを生み出す行程で誕生した武器。ハルダームが使用していたパルチザン・プロトス。
 雷系魔法を封じた槍は戦闘だけでなく、エビルレイダーの栄養摂取源としても利用される予定だったという。
 中々に無駄のない思惑を巡らせていたな。ヤヤラッタ。
 唯一の失敗は臆病な性格であったキュクロプス三兄弟の力をエビルレイダーに注いだことで、その性格まで反映したことだな。
 そういったこともあって俺達は勝てたわけだけど。

「道中では適度に雷系の魔法を与えてあげてください」

「だってさ。リン」
 言えば、

「面倒なことね~」
 台詞を反映させるかのように、だらけきった姿勢で返してくる。
 
 なので――、

「ベル~。このままだとツッカーヴァッテがグーペコの可哀想な子になるよ~」

「ちょっと貴男!?」
 焦るリンの首がゆっくりと俺が名を発した人物へと向けられる。
 ゆっくりと首が稼働する時、ギギィィッと建て付けが悪いドアみたいな音を脳内再生で楽しむ俺氏。
 さぞ俺の顔は悪い笑みを湛えていたことだろう。

「生まれたばかりの子に食事を与え、養う事は先達の責任だろう。それを面倒だからという理由で片付けられると思っているのか?」

「励ませてもらいましょう!」
 鶴の一声で食事の心配は無しだな。
 古の大英雄リンの我が儘は、最強様ベルに任せるに限る。
 悔しそうに俺を見てくるリンからの今後あるであろう意趣返しが少し怖かったりもするけども……。

「では、トールよ。朗報を待つ!」

「最高の報告を届けてみせます」
 王侯貴族を代表して王様からお言葉を賜れば、それに続いて王都兵、王都に集った公爵領の兵達。エリシュタルトのエルフさん達。リズベッドと前魔王派閥の皆さん。
 各地から集った兵、ギルドメンバーや野良の冒険者にラルゴ達。
 王都住民に旅商人の方々からも暖かい歓声をいただく。
 多様な種族が同じ方向を見て、同じ思いで声を上げるという光景。
 こういった歓声を受けると、体の心底から熱意が漲ってくる。
 戦いにおいて鼓舞によって士気を高めるのが如何に大事なことなのかというのが分かるというもの。
 歓声を受けるだけで――やってやるぜ! って気持ちになるからね。

 俺がそうなるんだから当然――、

「ハハハハハハハハ――ッ! 我が奇跡の偉業を現場で目に出来ないのは痛恨の無念でしょうが、凱旋にて我々を迎える権利を与えてあげましょう」
 歓声に酔いしれるコクリコがなんとも調子に乗った発言をするけども、それに対して集まった皆さんは「いいぞ~!」や「流石は頼れる偉大なロードウィザード様だぜ!」などなど、コクリコを喜ばせる遣り口を心得ていた。
 
 満足できるほどの歓声をコクリコも受けた事だし、

「じゃあ、ちょっくら行ってきますよ」
 最寄りのコンビニにでも行くような軽いノリで言ってみる。
 次の場所はこれまでの中で最高難易度になることは理解している。
 理解しているからこそのラフな発言。
 自分自身を落ち着かせる為に暗示をかけるようなもんだな。
 コクリコの胆力を少しでもわけてほしいところだ。

「勇者様にお姉ちゃん達。頑張ってね!」

「……あまり危ないことをしてはいけないぞ……ゴロ太」

「分かってるよ。ミユキちゃんのお世話もボク達に任せておいて」
 見送りに来たゴロ太とコボルト、ヴィルコラクの子供たち。
 その子たちの引率にワックさん。
 ゴロ太の激励にベルは嬉しそうではあるが、寂しげでもある。
 別れの寂しさもあるんだが……。

 ――……明らかに俺を睨んでんだよね……。

 勇者様にだったからな……。
 俺と違って、ベルは他のメンバーと一括りにされた事がお気に召さなかったご様子。
 でも、ゴロ太には強く言えないので俺を睨んでくるわけだ……。
 ベルも傷ついてんだろうが、俺はそれ以上に傷ついてますよ……。
 これからやってやろう! って時に、俺の士気を下げないでいただきたい……。
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