異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,476 / 1,861
天空要塞

PHASE-1476【メンタル――大事】

しおりを挟む
 トラウマの恐怖からヘタレになって、全体を見るだけの余裕がない……。
 だからこそ本当にミルモンには助けられた。

「今の突きは本当に危なかったよ。兄ちゃん……」

「助かったよミルモン」
 礼を述べたところで、

「一騎討ちの中で口を出すのはいかがなものかな――使い魔よ!」
 決定打となりえたと本人も思っていたのだろう、だからこそミルモンの発言によりその決定打を無下にされたことに怒り心頭のようで、俺からターゲットを変更。
 白刃が狙うのは俺の左側。
 豪腕からの刺突。
 見舞われれば間違いなくミルモンは……、

「させるかよ!」

「ぬぅう!?」
 自然と前に出る俺の体。
 次には蹴撃をジージーの脇腹に見舞っていた。

「なんだ。腰が引けていない蹴りも出来るんじゃないか」
 烈火を見舞っても弾き返してきただけあって、ダメージは皆無。
 インクリーズにストレンクスンで強化していても効果なしか。
 だが、蹴りで剣の間合い外に押し出すことには成功した。

「今までと違って気迫がこもっていたな。見事だった」
 と、継いでジージーは称賛。そして急に動きが良くなったからか、警戒したのか構えるだけで仕掛けてこない。

「いいぞトール。それでこそだ。以前を思い出せ。お前が初めて脅威に対して振るい、命を奪った一刀を」
 ここでベルが一年前の事を思い出すように言ってくる。
 命を奪った一振り――。
 二度目の王都防衛の事後処理だったか――。
 子供たちも作業を手伝っていた時だったな。
 死体に紛れていたゴブリンが子供に襲いかかってきた。それを俺は斬った。
 初めて奪った命に呆然となったし、ベルにはその姿が情けないと言われたっけ。
 でもその後、ゲッコーさんからは自分の事では動けなくても、人を守る為に力を振るえのは間違いなく勇者だって感じで褒めてもらったな。
 それが凄く嬉しかったし、救われた。

「あの時は私も感情のままにトールを侮蔑した。そしてゲッコー殿、荀彧殿の発言に自身の発言を恥じた」
 あの後、俺に謝罪してきたもんな。
 あの時の俺はベル達に全てを任せて、自分は何もしないという丸投げ思考に近かったからな。
 不愉快になって当然だ。
 だからキツい言葉を投げつけられても仕方なかった。

「トール。今のお前はミルモンを守る為に動いた。ゲッコー殿の言葉をお借りするなら――自分のことでは躊躇が生まれても、人のためとなれば行動し力を行使することが出来る。間違いなくお前は勇者だよ――だ」

「お、おう……」
 なんか体の底から熱く――というより温かなものが湧き出てくる感じだ。

「トラウマがどうした。今、トールは動けていた!」
 普段からは想像できないベルの大声。
 凛として涼やかでありながらもよく通る声がベルなんだけども、今のベルの声音は非常に強いものだった。

「他者のためになら動ける。それがお前がこの世界で得た勇者としての最初の素養だろう。トラウマは勇者となる以前のものだ。勇者となったいま――そのようなトラウマなど些事。他者のために振るえる力こそ克服の証」

「ベル――」

「見せてやれトール。本来のお前の実力ならば、眼前の相手は取るに足らないということを」

 ――おお――。
 なんだよ。この沸々と心底からこみ上げるものは――。

「兄ちゃん」

「見せて上げなさいトール」

「トールの真の実力をね!」
 ミルモン、コクリコ、シャルナからの背中を押してくれる激励。
 ややあって――、

「勝てる相手にいつまでも手間取らないことね」
 と、皆の視線を受けてからリンも続いてくれる。
 
 他者のために動ける存在――それが勇者。
 勇者と呼ばれる以上、俺はその名に恥じないための責任も課せられる。
 セミが原因で死んだ俺と、今の俺は違う。
 他者のため。
 この世界にて力を持たない人々のためにも、セミで命を落としたというトラウマ
をいつまでも引きずり続けている場合じゃないし、そんな暇もない。
 
 ――そう、セミなんかにいつまでもかかずらう暇なんてないんだよ!

 ――深く長い呼吸を一つ――。

「立ち止まっている暇はないからな。勝たせてもらう!」

「ほお! 随分と言葉と姿勢が変わったな。初対面時のような悠々とした余裕がある」

「だろ」

「そういった者に勝たなければ意味がない」

「情けない姿ばかりで申し訳なかったよ。お礼になんかしてやるよ」

「首を斬り落とす時も雄々しく表情は崩さないでもらいたい。弱々しい表情からなる首級を主に渡してもお喜びにはならん」

「無理な相談だね。だって俺が勝つから」

「上からな言い様。生意気な態度も戻ったな!」
 まあ、言動に強気は戻ったけど、正直まだ気後れしているのも事実。

 でも――、

「今までのような無様な姿は見せないように努力するさ!」

「だね♪」
 誓いを立てる発言に、左肩に座るミルモンが機嫌良く短く返す。
 俺の負の感情がさっきまでより緩和しているってことなのか、ミルモンの表情は柔らかなモノになっていた。
 実際、体はさっきまでと違って鯱張ってはいない。
 
 やっぱりメンタルコントロールって大事だな。

 特に勝負事の最中で左右されれば、勝てる相手にも負ける。
 安定した精神力を常に維持する事が出来る者こそが強者でもあるわけだ。
 剣術に体術だけでなく、精神面もまだまだ強者の域にはほど遠いね。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...