異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1488【最強さん前に出る】

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「容易かったようだな」

「だから助力がなかったんだろう」

「この程度の手合いには不要だろう」

「コイツには悪いけど、ベルのその発言には肯定で返すよ。大魔法を使用してくる時点でかなりの相手だったんだろうけど、コイツ以上の相手と戦って生き残れたからな」
 デミタスの経験が活かされて大助かりだ。
 あの時の絶望感に比べれば、大抵の戦いは乗り切る事ができる。

 ――まあ、その絶望感もこの天空要塞で更新されることになるんだろうけど。

「さてと、後はコイツをふん縛って翼幻王ジズの――」
 シャルナかリンにマッドバインドをお願いしようとしたところで、

「ガァァ!」

「ここで動き出すか。フッケバイン」
 ラズヴァートを拘束しようとしたところで、そうはさせじと巨大な黒い鳥が動き出す。
 大きく翼を広げた姿。
 翼長が50メートルは超えている。大迫力だ。

「トールは休んでていいですよ。ファイヤーボール!」
 ここで真打ち登場とばかりに、コクリコが練りに練ったファイヤーボールをアドンとサムソンも込みで巨鳥へと放つ。

 ――当然ながら、

「ぬぅぅ……」
 フッケバインへと着弾する前に、三つのバランスボールサイズの火球が潰れるように爆ぜれば、蜘蛛の巣のように放射状に広がり、弱々しい火の糸を引きながら霧散していく。
 効果はなかったものの一応の警戒か、一度、上空へと移動してから態勢を整え、こちらの次の動きを窺っているようだった。

「私のライトニングサーペントが通用しないのだから当然でしょう」

「ぬぅぅ……」
 リンから指摘されれば、コクリコは通用しなかった時と同様に唸るだけ。

「これからが本番だな」
 今まではラズヴァートをサポートするような立ち回りだったけども、そのサポートをしなくていいとなれば、フッケバインは本腰を入れて動くだろう。
 さっきまで俺が戦っていたすかしとは比べものにならないくらいの難敵となりそうだ。
 魔法が通用しない。
 動くだけで突風、暴風を生み出す。
 巨体を利用した質量攻撃。
 どれを取っても脅威。

「気を引き締めろよ皆」
 言えば、隊伍を整えつつ首肯が返ってくる――ベルを除いて。
 なぜに? と、視線を向ければ、一人だけ応じてくれなかったベルが隊伍に加わらず一人で前へと出る。

 これは、

「もしかして――戦う気か?」

「流石にトールばかりに戦わせていては申し訳ないからな。ここは私が出よう」
 それを耳にした瞬間、

「はい、皆。距離を取ろう。ベルの邪魔になるだけだ」
 いつもなら手柄ほしさに前に出たがるコクリコも、ベルが出るとなれば実力差というのを理解しているからか、シャルナと一緒になって俺の発言を聞き入れて距離を取る。

「見学させてもらいましょう」
 唯一の天敵と言ってもいいベルの戦いが気になるリン。
 ベルがガチモードで、尚且つ一人で戦うという所をリンは見たことがないかもしれないからな。

「姉ちゃんの戦いってのを見せてもらおうかな」

「うん。事が済んでも、今まで以上におっかないと思わないように。思っても顔にだけは出さないように。ベルが傷つくからな」
 と、ミルモンには決着後の対応には細心の注意を! と、伝える。
 笑顔ですごいや♪ って言ってあげれば喜ぶから。
 既に勝ちが確定した内容でお互いに話し合いを始める俺達。
 その最中に上空で円を描いていた巨鳥が動き出す。

「来るぞ!」
 今までと違って自由に動くであろう巨鳥。
 その巨鳥が上空から嘴を広げれば、鳴き声。
 バインドボイスを彷彿とさせるその鳴き声に耳を塞ぎたくなるが、それに耐えつつ相手の出方だけに意識を傾倒。

 鳴き声で開いた嘴からは――、

「なんか仕掛けて来そうだな」

「見れば分かる」
 と、ベルには必要の無い助言だったようだ。
 開かれた嘴から見えてくるのは、圧縮された濃密な風の塊。
 次には――、ドジュュュン!! と、大気を引き裂くと例えるより、叩いて潰すといったイメージを与えてくる極悪な音。
 上位魔法であるブラストスマッシュを彷彿とさせる。
 ガグになった時のポルパロングが使用したものよりも威力が上だというのは見ただけで理解。

「ベル! 回避行動を!」
 コクリコの助言に対して肩越しでの瞥見。
 わずかな微笑みだけを見せれば、

「心配はいらない」
 発言どおり、心配はいらない。
 ベルが体全体に浄化の炎を纏う。
 なんか久しぶりに見たな。

「フッ」
 小気味のよい短い息を吐き、レイピアを抜剣と同時に纏っていた炎を風の塊に放つ。
 当たれば風の塊は消滅。
 お互いに放った一撃による、力と力が激しくぶつかり合うという展開もなく消滅。
 炎だけが上空へと立ち上っていくだけ。

「これがおっかないのよね。事象を全てなかった事にするかのような炎。なんなのよアレは……。見る度に思うのは、この世界の理から逸脱しているということ……」
 唯一の天敵であり、その理由の一つとなっている浄化の炎に、リンは引きつった笑みを見せていた。
 この世界の理とは違う世界の住人だからね。仕方ないね。
 だとしてもあの炎は強力すぎるけど。
 俺の炎とは全くの別物だもの。

 でもって、

「あれで全力じゃないんだぜ」

「元々、彼女の髪って赤髪って話だものね。弱体化して白髪になったのよね」

「そうだよ。赤髪の時は今のような一筋の炎じゃなくて、津波を彷彿とさせるのをレイピアの一振りでお手軽に出してたんだぞ」

「想像できないわね……」

「想像できたら精神耐性があるリンでも心臓が凍りつくだろうな」

「既に止まっている心臓が凍りつくなんてあり得ない――と言いたいけど、彼女の実力を目の当たりにすれば、そう思えてくるわね……」

「まあ、二度と敵対しないことだな」

「心がけておきましょう。あの炎が私に向けられるのは御免だもの」
 殊勝な心がけ大変に宜しい。
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