異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1489【哀鳴】

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 ――とまあ、リンとこういった余裕あるやり取りができるのも、ご自慢の空気弾を容易く消滅させられてしまったフッケバインが、翼以外を動かせないでいるから。
 
 フッケバインの感情を想像するなら【いやいやあり得ない! なんで自分の攻撃が消滅するんだ!?】って感じだろう。
 首を左右に振る姿は、目の前の現実を受け止める事が出来ないといったところ。
 
 でもここで、今のはきっと偶然だ! と、結論づけたのか、再び嘴を大きく開口すれば、今度のはどうだ! とばかりに圧縮した巨大な空気弾を連射。
 合計で五発からなる空気弾。
 一発だけでも家屋を数軒は吹き飛ばせそうな威力。
 
 ――だが、当然ながらベルには届かない。
 迫る空気弾の数だけレイピアを振って炎を放つだけで、全てが消滅。

「ガァアッ!?」
 驚嘆の鳴き声となるフッケパインはまたも翼以外が硬直。
 二度による攻撃で直下に佇む存在は間違いなく危険な存在と認識。
 
 次はどうするべきか熟考しているようだが、動かずの思案は悪手。

「来ないのなら、こちらから行こう」
 動きが止まったところでベルがそう発せば、軽いステップによる跳躍。
 動作からは想像ができないほどの高さを生み出す跳躍だった。

「レビテーションなんて必要ないわね……」
 馬鹿馬鹿しいほどの跳躍力に、脱力気味にリンが声を漏らす。
 その発言に完全に同意と心の中で語る俺。
 コクリコとシャルナ、左肩のミルモンを見れば、ポカーンと口を開き、ただただベルの人間離れした動きを目で追うだけだった。

 下方からの急接近。
 
 これに慌てるフッケバインは飛行で距離を取るのではなく、翼を動かして突風を生み出し、それで地面へと落とそうと試みる。
 その動作以上に強力であろう空気弾をかき消す力を持っているベルに対し、いまさらその芸当を行ったところで意味はない。
 
 俺達の所へと風は届くものの、炎を纏ったベルにはその風は無意味。
 リンの言う、この世界の事象を受け付けないという力。

「ガァ、ガァア!?」
 鳴き声から伝わってくる焦り。
 ラズヴァートという自分よりも力が劣るであろう存在のサポートに徹していた時とは違い、実力を十全で出せる状態。
 だからこそ真の力を見せつけて、侵入者である俺達を圧倒的な力で叩きつぶす予定だったんだろうな。

「予定は所詮は予定。予定通りに事を運ばせたいなら、それまでの道筋が大事。道筋を立てることもしてない状態で最強さんとぶつかってもな~。ま、道筋が立っていても無理か」
 独白しつつ見上げる先では、ベルがフッケバインと同じ目線まで到達。
 巨鳥の頭部が大きく後方に仰け反っているように見えた。
 ドラゴン系がブレスを使用する時の予備動作のようにも見えるけども、上空の巨鳥のソレは恐れを抱いた事による動作。
 本来ならば、逃げる事を選ぶんだろうけど、逃げるよりも恐れが勝ってしまったのか、恐怖により動けなくなっている。

「あ、ベルが鳥の頭に乗りましたよ」

「乗ったな」
 コクリコに返しつつ状況を見守る。
 ベルの炎は敵味方識別が可能。
 自分がダメージを与えたくない対象を選ぶことが出来る便利な炎。
 炎を纏ったままフッケバインの頭部に降り立つも、その頭部にはダメージはないように見える。
 ダメージを受けないと分かったからか、わずかに恐怖が緩和したであろうフッケバインは、招かれざる騎乗者を振り落とそうという軌道で飛行を始める――――。
 
 が――、

「振り落とされないわね……」

「なあ……」
 ベルが騎乗してから、かれこれ二十分は経過しただろう。
 その間ベルを振り落とそうと躍起になって体や翼を激しく動かすフッケバインだったが、ベルは背中に片膝をついて乗ったまま微動だにすることなくフッケバインに掴まっている。
 意地でも離れないという必死さから――というものじゃない……。

「余裕だな……」
 呆れてしまう……。
 きりもみ回転などの曲芸飛行をするフッケバイン。
 時折こちらに見せる背中部分。
 そこにいるベルの表情は……綻んだものだった……。

「あれは羽毛のモフモフ感を堪能しているって事でいいのかな……」

「そうみたいだね……」
 シャルナと共に呆れ声を漏らす。

 ――……ベルのヤツ……。完全にフッケバインの事を気に入ったようだな……。
 普段は戦いの経験を積ませるため、俺を難敵と戦わせるくせに……。
 自分好みが出てきたから率先して前に出たってのが本音だな……。
 なにがトールばかりに戦わせるのは申し訳ないだよ。完全にモフモフ案件じゃねえか……。
 人にはスパルタなのに、自分は公私混同的な考え方なのはいかがなものか。
 
 言い返したくもあるが、何とも嬉しそうに乗りこなしている。
 でもって、一応はあれでも戦っているって事になるんだろうな……。
 現にフッケバインはとても疲弊している。
 どれだけ振り払おうとしても離れることのない存在。
 自身の攻撃を悉く打ち破り背中を取られる。
 この時点でフッケバインは恐怖に支配された状態だっただろう。
 トドメとばかりにその恐怖の存在が、どれだけ振り払おうとしても離れることがないってのが現在の状況。

 端かっら勝負にすらなってなかった。
 俺が戦ったとなれば間違いなくラズヴァート以上に苦戦する相手だっただろう。
 でも俺のパンチで体が傾くくらいだったからな。そこから判断しても、ベル相手じゃ勝負にもならない。
 
 ――次第にフッケバインの動きがゆっくりとしたものになる。
 ゆっくりといっても悠然としたものではなく、ただただ疲れた……。といったところ。
 
 フラフラによる飛行。落下しないように懸命に翼を動かすだけになっている。
 ベルを振り落とそうと躍起になって上空を飛行していた時とは違い、疲労から低高度を飛ぶようになった。
 俺達の頭上すぐ近くをである。
 近くではあるが、今までと違って羽ばたいても突風は生まれない。
 そこそこの風は届くけども、踏ん張って耐えるということはしなくていい程度。

「ガァァァァァァ……」

「なんて悲しい鳴き声なんだ……」
 耳朶に届くソレが不憫でならない……。
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