異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,514 / 1,861
天空要塞

PHASE-1514【連携が絶技】

しおりを挟む
 ――炎と風が交差して生じた小さな炎の竜巻。
 その光景に新たなインスピレーションが湧くが、まずは眼前の脅威に集中!

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」
 全膂力にて書く×の字の斬撃は、アドゥサルが振り上げた左腕よりも速く相対する者の上半身に届く。

「ぬぅぅぅ……。が、その程度では我が魂までは届かぬ!」
 タフだな。でもって台詞も格好いい。
 振り上げる左手に持たれた手斧。
 魂まで届けることが出来なかった俺の頭部に向けて振り下ろそうとするが、蛤刃が届くことはなかった。
 
 俺が胸部から胴体部にかけて深手を負わせるのに合わせて、ルインリーダーが跳躍からの赤黒い光を纏わせたロングソードで横一文字。
 バックラー形状の籠手部分を避けて、手の甲を狙っての横一文字だった。
 手にしていた手斧。拇指……。そして手の甲と繋がったまま残りの四本の指も宙に舞う。

「がぁぁぁぁあ!」
 痛み――だけでなく裂帛の気迫。
 両手が駄目でも鋭い爪のある羽と強靱な尻尾がまだある! とばかりに、大きく動かし振り回す――ところに、俺は臆せず前へと足を踏み出す。
 信じてるからね!

「おのれぇぇぇぇぇ!」
 気迫の語気のままに悔しさを吐き出すアドゥサル。
 ピルグリムによるプロテクションが羽と尻尾を受け止めてくれた。
 攻撃を受け止め、弾くのを確認したところで障壁が役目を終えたとばかりに消滅。
 この絶妙なタイミングよ!
 ルインリーダーと生徒会長戦の時を思い出させてくれる技巧。
 俺を守りつつも、俺の移動の妨げにならないように、間合いへと入り込む時には直ぐさま障壁を消してくれる。
 
 ピルグリムのタイミングの見計らい方は絶技とも言える。その恩恵を受けて懐へと入り込むところで、再度の羽と尻尾による迎撃を放ってくるも、

「ぎぃぃぃいぃぃぃい!?」
 これまた絶妙なタイミングでルインリーダーとエルダーによる背後への斬撃。
 ルインリーダーだけでなく、エルダーもロングソードに赤黒い輝きを纏わせていた。
 マスリリース同様、マスアンラシュなる技も、前衛上位スケルトンは皆して履修済みのようだね。
 背後からの斬撃によって、アドゥサルの両方の羽が体から切り離される。
 頑丈な尻尾だけは断ち切る事が出来なかったようだけど、羽を斬ると同時に前衛スケルトン達は剣と盾を投げ捨てて尻尾にしがみついて動きを封じる。

「我らが膳立てはどうかな?」

「最高ですよ!」
 ルインリーダーへと返しながら炎と風を纏った二振りを間合い一歩手前で構え――一歩足を踏み入れると同時に渾身の力にて振り切る。
 右手の残火による上段。
 左手のマラ・ケニタルによる横一文字。
 十文字を書いてバックステップ。
 ×の字からの十文字。米の字を書いてやった。

 ――指呼の距離にて見る正面では、切り裂かれた漆黒の鎧からあふれ出す鮮血。
 炎と風が俺の斬撃の軌跡を残して混じり合い、ここでも小さな炎の竜巻が生まれるも直ぐさま消え去る。
 小さな炎の竜巻は相対する者の命の灯火のようでもあった。

「こんな……こと……が?」
 自分が敗れることなど考えもしていなかったのか、致命的なダメージを受けたアドゥサルの表情は、現状を信じることが出来ないといった惚けたものだった。

「これは……夢だな……」

「夢ではなく現実。敗北を受け入れるのだな。そして永遠の眠りにつくがいい」

「アン……デッドが……眠れなどと……ふざけた言い様……だ」
 巨体が両膝をつく。

「魔王様……」
 ポツリと呟き……ズンッ! と質量のある音を立てれば伏臥の姿勢。
 今際の際に発するのは翼幻王ジズではなくショゴスか。
 
「油断は――と、言わずもがなだな」
 俺を見つつルインリーダーはそう言う。
 残心。
 動かなくなろうとも構えることはやめないのが俺ですよ。
 
 伏臥の姿を注視。

「――絶命したようです」
 と、エルダー。

「で、あるな」
 これにルインリーダーも続く。
 アンデッドだからなのだろう。生者が死者へと変わったことを見極める能力があるようだ。
 スケルトン二体がロングソードを鞘へと収める。

「やってくれたよ。まさか幹部を一人の人間とアンデッドの三体で倒すなんてな」

「強かったよ」

「当たり前だろ」
 尊敬するという大立者や幹部。
 その幹部の一人が倒されたというのに、ラズヴァートの声音は平静なものだった。
 声を荒げないなんてな。
 
 アドゥサルの会話の内容からして、

「派閥による垣根からか」

「ふんっ」
 鼻で返してくる。
 翼幻王ジズではなく魔王寄りだからこそ、アドゥサルの死にはそこまで大きな衝撃はないのかな。

「派閥が違うも、同じ要塞にて励む者に対する姿勢としてはどうかと思うがな。少しはこちらに対して怒りの感情でも見せればいいものを」
 ルインリーダーが呆れるも、

「うるせえよ! 目の前で仲間がやられてんだ! 腹に据えかねるものはあるっての!」

「そうか。その語気で真実だというのは伝わった」

「本当にムカつく金ピカだ! 拘束が解けたら真っ先に消してやる!」

「それが健在だということは、我らが主も健在だという証拠」

「これさえ無ければ回復だってしてやれたのによ! 面倒なバインドだよ!」
 平静かと思ったけども、堰が切れたかのように声を荒げるラズヴァート。
 派閥は違えども、仲間意識は強いようだな。
 なのに単独行動。
 仲間意識が強くてもそれを上手く伝えられない残念ボッチなのかもな。
 
 というか、

「マッドバインドには拘束した者の魔法を封じるって効果もあるんですね」

「だからこそのバインドだぞ勇者。捉えても魔法を使用されては意味が無いだろう。拘束状態で使用できるとなれば、術者よりも力が勝る者だけだ。勝る時点でバインドを無理矢理に解除するだろうが」

「俺が解除できないからって、こっちを馬鹿にしたように見てくんな金ピカ!」
 我らが主は凄いだろう。と、得意げなルインリーダーの姿に、ラズヴァートはますます顔を真っ赤に染め上げていく。
 
 開放されることがあれば、有言実行にてルインリーダーを狙うだろうね。
 まあ、逆に倒されるだろうけど。
 そう思えるほどに、このスケルトン達は強い。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...