異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1515【尊厳】

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 さてさて――、

「お、なんだ? アドゥサル殿を辱める気か!」
 遺体へと近づこうとすれば、ラズヴァートから警告。
 死者を汚すな! という思いが語気から伝わってくる。

「ただ調べたいだけだよ。もちろん辱めることはしないし、触れる事もしない」
 言いながらプレイギアを取り出す。

「またそれかよ。なんだそりゃ?」

「知る必要はないよ」
 返しつつ、プレイギアのカメラモードでアドゥサルを撮影――する前に両掌を合わせ、拝んでからデータを手に入れる。

「ほほう――88か。難敵なだけあったな」
 ディスプレイに映し出されたレベルは88という高レベル。
 レベルに加えて他の表記にも目を通す。

【アドゥサル・タタザリ】
【種族・ジャイアントとデーモンのハーフ】
【レベル88】
【得手・風魔法】
【不得手・無】
【属性・名声】

 ――……そうか……。

「ほほう」

「ぅおう!?」
 急に背後に立たれると、慣れているとはいえスケルトンはやはりホラーだね。

「便利な代物だな」

「そうなんですよ」

「しかし、これが事実ならば遺体となった者は知らぬままで幸せであったな。もしくは、この事実を知って尚、自身のことを悪神の近縁と思い込みたかったのか」

「問いたくてもすでにそれは出来ないですね」
 ルインリーダーの言っているように、本気で自分が悪神と繋がりがあったのだと信じていたのか。それとも自身の出自に不満があったからそういう風に名乗るようになったのか。
 その辺の心情は分からないが、分かったのはアンラ・マンユ・クロースという種族ではなかったということ。

「勇者も口にしていたが、虚言妄言も言い続ければ真実となるというものよ」

「なんか妙に説得力がありますね」

「そうであろう。経験者は語る――というやつだ」

「経験者――ですか」

「左様」
 なんの経験なのやら。
 気になるから聞いてみたかったけども、

「遺体はどうするんだ?」
 と、ラズヴァートからの質問が飛んできたのでそちらに対応。
 そのままにするべきか。荼毘に付すか。

「そっちで弔うのがいいだろうな」

「それでもいいんだけどな……」
 ん? やんわりと拒んでる?
 やはり派閥が違うからってことかな。

「いいんだけどな。と、言うのならば、それ以外の内容を知りたいのだがな」
 ルインリーダーが発せば、やはりアンデッドは気に入らないとばかりに睨みつつ、

「アドゥサル殿の尊厳を優先してやりたいと思っている」
 尊厳――ね。
 全容は伝えてこないけど、ラズヴァートだけでなく、この天空要塞にいる一部の面々は、アドゥサルが実際は悪神とは関係の無い存在だというのを知っているのかもしれないな。

「悪神の近縁として弔う事が、死者への配慮ってことかな?」

「理解が早くて助かる。頭が悪そうな顔の割にはな」

「レインメーカーだけでなく、この硬い床の上でバーニングハンマーぶちかましてやろうか! 縛られてるから受け身も取れねえぞ!」

「どんな技かは分からねえが、御免こうむるね」

「まったく!」
 ボッチかと思えば、派閥でなくても配慮は出来る。
 もしかしたらだけど、ラズヴァートのような配慮を他の連中はしてやる事がないとも考えられる。
 だからここで尊厳を守った弔い方を提案してきたのかもしれない。

「じゃあ、荼毘に付す」

「しっかりと焼いてやってくれ」

「ベルじゃないから骨は残るだろうけどな」
 返しながら、残火にブレイズを纏わせてから遺体を撫でるようにして火葬にて見送ってやる。

 ――。

「巨大な分、見送るのに時間を要したな」

「ですね。じゃあリーダー。俺達も次へと行きましょう」

「リーダーなどという味気ない呼び方はやめてほしいな。勇者よ」

「じゃあなんと呼べばいいですかね。名前でも教えてくだされば」

「ふむ、名前か――。そうだな――ロマンドと呼んでくれ」
 そうだな。って考える辺り、実名ではないようだな。
 ロマンド――ね。
 サクサク食感のお菓子のような名前だな。俺はバームロール派だけど。

「ではロマンドさん」

「う~ん。呼ばれるとなんだか照れくさくてむず痒くもなるものだな」

「アンデッドが照れくさいとか。大体、むず痒くなる場所なんてねえだろうが。骨なんだからよ」

「人情の機微も持たぬ、しわい精神よな」

「感情のねえアンデッドが機微とかご大層なこったな。ロマンドさんよ~」
 小馬鹿に笑うラズヴァートに、ロマンドさんは些かご立腹。
 そう、ご立腹。
 やはり感情を持っているアンデッドだよな。
 それが分かっているからか、ラズヴァートは今までの意趣返しとばかりに毒づいてくる。

「よく回る舌だ。首を斬り落としてもさぞ饒舌なのだろう。ジェスターとして召し抱えてやるから、首だけでも饒舌な芸当で我を楽しませてくれ。フェイレン」

「拘束した人質の首を狙うだけしか出来ないのかよ。ロマンドさんよ~」
 鞘から覗かせる剣身を目にしても物怖じせずに嘲笑を崩さないラズヴァートに、

「ええい、生意気な小僧め!」
 悔しそうに髑髏の歯を軋らせるロマンドさん。
 でもって、鞘から抜こうとしているところをなだめるというエルダーとピルグリムの図。
 なんか人間染みてんな~。生前もこんな感じだったのかな?

 この空間で俺以外が見せてくれるやり取りは最早、喜劇と言ってもいいもの。
 その光景を目にしつつ、ハイポーションを一本呷る。
 直ぐさま体から疲労が抜けることに感動を覚える中でも、大声での言い合いは終わらない、
 
 そんな中で――、

『トール。応答できるか?』
 おっと。
 耳朶へと直接に届く渋い声。
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