異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1528【余裕綽々】

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「その余裕ある佇まいと表情を恐怖に歪ませてやりましょう!」

「わお! 完全に悪役が言いそうな台詞だな。コクリコ」

「我が新たなる力を見せるには絶好の機会! 絶好の相手! ガーゴイルでの失態をこの一撃で帳消しにしてやりましょう!」

「謁見の間で埃を立てるのは嫌なのですがね」
 埃を立てるのは嫌であって、戦うことは受け入れるって事か。

「話し合いでもいいんですよクロウス氏。このままですと埃以上の問題になると思いますが」

「そうはおっしゃいますが、そちらのコクリコ女史は、その様なお考えをお持ちではないようですよ。私もないですがね」

「そうですか」
 柔らかな物言いだけども、戦いを選択してくるか。
 大立者だからこそ、ここで戦闘を選ばなければ犠牲となった者達に示しがつかないもんな。
 当然といえば当然の選択。
 この地で命を奪ってきた俺が話し合いって言ったところで説得力も皆無だしな。

 ――うん。

「ここで大立者を叩き伏せ、屈服させたのち、主である翼幻王ジズのもとまで案内させましょう」
 俺が覚悟を決めたことを感じ取ってくれたのか、コクリコが啖呵を切ってくれる。
 右手に握ったワンドと、食指と中指にはめた二つのマジックリングをクロウス氏へと向けての啖呵だった。

「おや? その指にはめているマジックリングは――」

「ビルとランスといいます。私の装身具です!」

「そのような名ではないですよ……。そして女史の所有物でもありません……」
 クロウス氏の表情を曇らせるとは、コクリコのがめつさも大したもんだな。

「長く会話をしたことを後悔するがいい! その間にこちらは力を練りに練らせてもらいましたよ! アドン、サムソン!」

「サーバントストーンの展開。勇者一行のウィザードの実力は如何程か――」

「その目でしかと見てください。あとロードウィザードです」

「その名に恥じぬ威力と判断し、最大限の警戒で対処いたしましょう」

「ファイヤーボール!」

「「「「おお!?」」」」
 こりゃすげえ!
 装身具様々だな。
 今までのバランスボールサイズも凄かったけど、新たな装身具が加わってのファイヤーボールは更に一回り――いや、二回りは大きい。
 アドンとサムソンも同等のサイズ。
 上位クラスから最上位クラスの威力にまで昇華させたな。
 リンかシャルナの魔法だと勘違いしてしまいそうだ!
 低位で大魔法の火力まであと一歩というところまできたようだな。コクリコ!

「これはこれは」
 相対する方は、ポームス以外は余裕の佇み。

「十二分に味わってください。我が新たなる火力を!」
 ワンド先端の赫々たる貴石をクロウス氏に向ければ、三つに大型火球がそれに従い対象に向かって飛んでいく。

「これは参りましたね。金羊毛の絨毯は大変に希少なので火がつくと一大事」

「これを目にしても崩すことのないその余裕! 自らの心配をするべきでしょう!」
 俺はコクリコのファイヤーボールに度肝を抜かれたけども……、

「アナイアレイション」
 対面するカラス頭の嘴が開いてそう発せば、

「ほぉふぉん!?」
 大火力からなる三つの火球が消滅。
 火球が一帯に飛び散ることもなければ、爆発も発生せず、ただ消滅した。
 だからだろう。発動者であるコクリコが一番おどろいている。
 驚きすぎて美少女が台無しなくらいのお馬鹿な表情と声を上げた。

「あんぐりと口を開いたままの姿ははしたないぞ」

「いや、ですが……。しかし……」
 コクリコ史上、最大で最高の火力だったファイヤーボール。
 だけども、それがあまりにも簡単にかき消された。
 展開された黒い板状の障壁によって。
 そして黒い板はファイヤーボールに触れると一緒に消滅。

 派手さはないけども――、

「グラトニーのようなカウンターマジックか」

「その通りです」
 消滅させた側は対処した位置から一歩も動くことなく言葉を返してくる。
 継いで、

「カウンターマジックであるアナイアレイションは、大魔法であるグラトニーとは違い、多数の魔法に同時対処するという事は難しいですが、両手で数える程度の魔法なら対応は可能です」
 上位のカウンターマジックに位置づけされる魔法だそうな。
 ぶつけ合って消滅させるとなれば、グラトニーよりも俺も使用できる低位魔法のウォーターカーテンの上位互換ってところだな。

「おのれ! 私史上、最高の魔法を!」

「素晴らしい威力でした。ですが、使用する魔法は選んでいただきたいですね。金羊毛の絨毯は本当に希少なんですよ」
 強者のニッコリ笑顔。
 これにコクリコは悔しそうな表情。

「コクリコ」

「なんでしょう?」

「雷魔法が弱点だぞ」

「助言感謝です。空飛ぶ鳥ですもんね」
 以前にプレイギアで調べてたからな。
 不得手は雷魔法と記載されていたからね。

「ライトニングスネーク!」
 アドンとサムソンも連動。
 ロープサイズからなる三本の雷の蛇がクロウス氏に襲いかかる。

「いやはや、当たれば些か痛そうですね」
 なんて言いながら先ほど同様に消滅させる。

「といや!」

「おっと!」
 弱点であろうとも、練られていない雷魔法が通用するわけない――というのは術者自身が一番理解しているとばかりに、俺の側に立っていたコクリコは今現在、俺の側にはおらず、一足飛びでクロウス氏の懐まで入り込んでいた。

「なんて無茶を!」
 俺の虚を衝く動きには感心するけど。
 ワンテンポ遅れて俺も動く。
 残火を抜刀。
 と、同時にアクセル。
 
 ミスリルフライパンを振り回すコクリコに対し、最小限の動きで回避するクロウス氏の側面へと回り込み、

「こっちからも行きますよ!」

「かまいませんよ」
 余裕ありすぎだな!
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