異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1530【脅威としてはまだ見てもらえない】

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「それにしてもゲッコーとユーリはどうしたのです。仕掛けようとしないようですが」

「俺と同じ理由で仕掛けられなかったのかもしれないな……」

「……ああ。それはすみません」
 電撃の鞭を三本も振り回せば掩護も難しいだろうからな。
 
 その証拠とばかりに、

「おっと!?」
 クロウス氏から余裕のない声が上がった。
 俺達では出させることの出来ない声を出せさせることが出来る。
 そこに明確な差がある。

「頭部を狙われたようですね」
 光学迷彩組のどちらかによるヘッドショットだった。
 だったけど――直撃ならじ。
 クロウス氏に当たる前に弾丸が弾かれた。

「見えない結界?」

「貴方方だけが見えないことに精通しているわけではありませんよ」

「なるほどな」

「ぬ!?」
 ここでユーリさんが姿を見せる。
 クロウス氏に触れられる位置。
 突如として強者認定している存在が自分の間合いに入り込んだことで、初めて焦りの表情を見せる。

「ユーリ。下がれ」
 よく通る渋い声。
 これに従いユーリさんは欲を出すことなく距離を取る。
 と、同時に、黄色い閃光を迸らせるいくつもの球体が、ユーリさんが先ほどまで立っていた位置に降り注ぐ。
 
 ――バリバリという連続音。
 
 床に触れれば、音と同じ数だけ蜘蛛の巣状に電撃が広がる。
 欲を出して仕掛けていたら、ユーリさんでも無事ではすまなかっただろう。
 引ける時に引けるのが一流。
 
 俺達の眼界では野球ボールサイズの球体が顕現。
 そして、それが次々と宙空に生み出されていく。
 宙空からの顕現だけでなく、球体が分裂し、増殖速度が更に上がる。

「なんて数だよ……」
 電撃の球体が謁見の間を支配しそうな勢いで増え続ける……。

「弱点とされる分野でよくもまあそこまで生み出せるものですね」
 こっちサイドからすれば脅威となる光景なんだが、壮観でもあるからか、コクリコが恐れ以上に感嘆の声をクロウス氏に投げる。

「ロードウィザード殿にお褒めいただき光栄に思います。雷が苦手でもこの程度の使用は可能なのですよ」
 ユーリさんの接近で焦った表情だったのがまるでなかったかのように、ニッコリスマイルにて返してきた。

「この程度……。これは熟達していると言うのですよ」

「続けての称賛も光栄に存じます」

「ラズヴァートとはえらい違いだ」
 ここで俺が発せば、

「パイルストームですね。まだまだ扱いは不慣れですからね。弱点でもありますが、それを上手く扱えるようになれば強味へと変えられることでしょう」

「クロウス氏のように――ですね」

「ええ」
 拘束されたラズヴァートを一瞥したのち、俺へと返事をくれる。

「さて、姿を消しているようですが、広範囲をカバーできる私の大魔法――ブリッツスウォームを掻い潜る事は出来るでしょうか? いまだ姿を見せない御方」

「対処してやろう」

「強い語気から伝わる自信。素晴らしいですね」

「可能ならばその余裕を打ち消すだけの一撃も見舞ってやりたいところだ」

「それは御免こうむるので、全力で抵抗させていただきます」
 全力は出さないでほしいんだけどな……。
 なんて思っていても、それは無理とばかりに、クロウス氏が謁見の間に展開した無数の雷の球体――ブリッツスウォームなる大魔法を動かし始める。

「来ますよ!」
 危険信号とばかりに声を張り上げるコクリコのその声に合わせるかのように、ゆっくりと動いていたのも束の間。

「ほう!?」
 直ぐさま高速飛行。
 これに加えて不規則な動きで見切るのを難しくするという嫌らしい仕様。
 頭部すれすれを通過していく時の電撃音の恐怖たるや……。

「なんとか回避成功ですね」

「いやいやコクリコ……。どう考えても小手調べだぞ」

「分かってますよ」
 数個だけでも心臓バクバク。
 展開されているモノを一気に放たれたなら一瞬で黒焦げだ……。
 
 でもって、全力で抵抗する発言を向けた対象はゲッコーさんとユーリさんにであって、俺達ではないんだな……。
 だから力試しをするかのように数個の攻撃だけに留めたんだろう。
 反面、見えない存在のゲッコーさんと、姿を見せたユーリさんには俺達とは違って、かなりの数の雷ボールを放っていたのを懸命に回避する中で目にした。

 勇者やロードウィザードと一目置くような言い様はするが、ゲッコーさん達とはちゃんと比較しているようで、本腰はいれてもらえない。
 全力は出さないでほしいと思ってはいるものの、対応の差に悔しくもあり、情けなくもある……。 

「派手に降り注がせる」

「と、聞こえてくる辺り、ご無事なようですね」
 と、俺達には目も向けず、姿の見えないゲッコーさんと会話。

「お返しだ」
 そんな二人のやり取りを遮るようにユーリさんが反撃。
 手にはアサルトライフルのタボール。
 タンカラーのタボールから小気味よく弾を発射する。
 指切りによるバースト射撃。
 銃口はクロウス氏の頭部一点。
 
 しかし……、

「届きませんよ」
 両手を腰の方に回して直立のまま弾丸を弾く。
 パッシブで障壁を展開しているって事なんだろうな。
 コクリコが初手で放った練りに練ったファイヤーボールと、通常のライトニングスネークにはアナイアレイションで対応。
 タボールからの弾丸にはパッシブ障壁で対応。

 ――うん。

「物理と魔法で使い分けているようだ。アナイアレイションはマナの攻撃にだけしか対処できないようですね」

「ご名答です。勇者殿」

「だったら高火力な物理攻撃で見えざる障壁を破壊すれば突破できるかな?」

「その手段を持っていようとも、それを実行させなければいいだけのことです」
 言いつつタボールから武器を変更しようとするユーリさんに向かって雷ボールを放つ。
 先ほど以上の数。

「なんの!」

「「「おお!」」」
 俺、コクリコ、クロウス氏が声を揃える。
 S兵士は伊達ではない。
 自分へと降り注いでくる雷ボールを必要最小限の動きだけで全て躱してみせた。
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