異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1554【丸呑み】

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「仲間だというのにひどい言い方をするのね。わらわは勇者の顔は可愛らしいと思うのだけれど」

「ほんぅ!」

「「なっ!?」」
 まさかのベスティリスからの好意的な発言。
 これにはコクリコとシャルナも驚き。
 俺は二人以上に驚いているけどね。
 勝てば本当にあの美人様とよい関係に発展するのかな。
 ――だが俺にはベルが!
 
 ――目指すかハーレム!

「よっしゃ!」
 駆ける俺氏。

「良いわね。気迫がある。欲望まる出しの表情は些か残念ではあるけ――どっ!」

「なんの!」
 一枚刃の下駄による蹴りを上半身を捻って躱し、速度を落とすことなく間合いへと入ったところで、

「烈火」
 弱烈火による左での拳打。

「お見事だけど」

「いでっ!」
 羽根がなくなった羽扇の柄で手をはたかれ拳の軌道を外され、勢いのままベスティリスを通過。
 直ぐさま踵を返したところで、

「次の一手はまた今度」
 翼の一枚を羽ばたかせれば生まれる強風。

「なんの、まだまだ!」

「へ~」
 吹き飛ばそうという魂胆だったようだが、床に根を張るイメージで踏ん張ってみせる。
 次なる一撃を見舞うという思いで足を踏み出そうとする先では、

「じゃあ翼二枚で」
 右の肩と腰部分の翼がバサリと動く。

「ぶふぅ!」
 二枚の羽ばたきが生み出した風には耐えることが出来ず、両足が床から離れベスティリスから強制的に引き離される。
 その時の彼女の表情は笑み。
 俺に一撃を見舞うことなく吹き飛ばすだけに留めるところは手心ってところなのか、それとも――、

「ハッ!」
 間違いなくベルの攻撃に対応するためだよな。
 吹き飛ぶ俺とスイッチするかのようにベルが仕掛ける。
 これにベスティリスは全力集中。

 球体に圧縮した風の塊を右腕に展開して斬撃を防ごうとするところでオッドアイの目を見開き、高速で後方へと飛び退く。
 カッカッと高下駄が音を奏でたタイミングで俺も床に着地。

「そう、斬ってくるのね……」
 風の球体を断ち切り霧散させるのは、炎を纏ったレイピア。
 念のためとばかりに右腕を確認。無事と分かる中で、ベスティリスの頬には冷や汗がつたっていたのが見て取れた。
 
 俺の時とは違い、ベルが相対すれば表情は引きつったものとなり、頬に汗もつたう。
 大幹部であってもベルの攻撃なら十分に届くという証拠が、現在の表情。

 ――……俺自身がそれを出来ないというのが情けない限りだけど……。

 少しでもこの情けないという思いを打ち消すためにも、

「もっと強くならねば!」

「いいぞ。俺も強くならないとな」

「完全に同意します」
 ゲッコーさんとユーリさん。
 十分に強い二人でもベルの強さに触発された模様。
 そして二人して手にするのは――、

「小太刀」

「要は大立者と同じ対処法だ」

「違いは難易度が格段に跳ね上がっているというところでしょうね。ドム」

「その通りだ」

「ならミルモンも含めた野郎四人で美人様の掩護といきましょう。もう一人の美人様を倒すために」

「ああ」と「了解」と「お任せさ!」と返ってきたところで三人で走り出す。

「いやはや! 我々を忘れてもらっては困ります」

「忘れてない。頼むぞ」

「いいでしょう!」
 後方からのコクリコの声は力強い。
 で、前に出てこようとはせず、横に立つシャルナとリンと共に後方でワンドを構えてくれる。
 前衛の数は十分だからと判断したからだろう。前に出たがるのを堪えて後衛に励んでくれる模様。
 魔法による掩護に徹してもらえるのは心強いよ。

「前衛の五人に花を持たせてあげましょう! ライトニングスネーク!」
 上位に位置するライトニングボアを思わせる綱サイズをアドンとサムソンと共に放つ。

 これに、

「普段はあんまり使用しないけどコクリコに合わせるよ。ライトニングボア!」
 と、シャルナも普段の風魔法とは違って雷魔法。
 ハイエルフであるシャルナが使用するライトニングボアは、装身具ありきのコクリコのものより二回りの太さがある大蛇。

「まだまだね」
 意地悪そうな笑みから、

「ライトニングサーペント」
 と、リン。
 両手を突き出して顕現させるのは巨大蛇。
 リンの魔法に二人は悔しそうに口元をへの字にしながらも、ベスティリスへと向けて放つという事だけは同じ思い。

「一人、飛び抜けて凄いのがいるようね。しかも妾が苦手とする雷魔法による一斉攻撃とか嫌らしいこと」

「全員でかかってこいと言ったのは貴女ですので」

「そうね美姫」
 大小いつつの電撃の蛇が、ベスティリスへと向かって駆けている野郎達の横をバリバリ、バチバチンッ! と、劈く音を轟かせて通過していく。

「ちょっと離れてくれるかしら!」

「む!」
 再度、風の玉を顕現させ防御から攻撃へと転用し、ベルを牽制。
 これにベルは素直に後退。
 後衛三人の攻撃に託すといったところ。

「苦手であっても貴女たち程度には負けてあげない」
 余裕の笑みを湛えれば、高下駄から小気味の良い音を立てて姿勢を正し、六枚の翼を広げ、

「ライトニングドラゴニックサーペント」
 構えてから間髪入れずに放ってくるのは……、

「リンのより更にデカい……」
 ドラゴニック――龍の様なという意味合いなんだろうけども、

「様な……じゃなく、正真正銘、電撃の龍じゃねえか……」
 ベスティリスの全身から放たれる電撃の龍は長大。
 三人が放った五つの蛇とかち合えば、栄養分にするとばかりに丸呑み。
 勢いを殺す事無く宙空を蛇行しながら猛然と前進していく。

「回避!」
 コクリコの声に従い、二人はコクリコを抱えてレビテーションにて緊急回避。
 三人がさっきまで立っていた地点を電撃の龍が通過。
 間一髪、無事といったところ。

 ――パリパリと電撃の残滓が軌跡に漂う。

 静寂となった中でその音はよく響いた。
 三人の放った電撃の蛇が轟かせた電撃音よりも小さな音だが、電撃の龍が残した余韻の方がインパクトのあるものだった……。
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